ちょっと変わった仕事に立ち会う事ができました。
麻で織った古着の産地分類です。
麻織物は当地の越後上布や小千谷縮を始め、能登上布、近江、八重山、宮古等々全国にあります。
名の知れない産地を加えるともっと多いのでしょう。
糸にも手績みのものから麻紡績のものまで様々、織機も地機から高機、力織機とあります。
因みに越後上布の文化財には経緯とも苧麻から手績糸を使い地機で織る事が定められています。
他方、紡績糸を使ったものは価格もお手頃になってきます。
反物の間は証紙があるので、その出自が明らかですが、仕立てられてしまうと産地を証すものは無くなってしまいます。
今回は100枚以上ある朝の古着を糸使いや柄を判断材料にして分類すると言うもの。私ではとても無理なので越後上布の製作者の方を頼んだりしてするわけです。勿論、作製が絶対の規則に則って行っている訳ではないですから、完全に産地を特定することは難しいですが、半日がかりで概ね分類されました。
手績みのものと紡績の糸は機眼鏡で見るとわかります。手績みは太細の偏差がありますが、紡績糸はきれいなストレートの糸です。
経緯ともに手績みのものと、縦糸に紡績糸、緯糸に手績みを使ったものもあります。
越後上布は単糸ですが、宮古上布などは主に双糸をつかっているので、糸使いをよく観察すると産地も予測がつきます。
宮古上布や能登上布などはロウ引きがしてありますので、これもなんとなく分類の助けになります。
他は柄で産地を推測するのですが、長い歴史の中で様々な織物があるわけですから、どれだけの柄を見てきたかのキャリアがモノを言います。僕なんかではとても歯が立たない領域です。
紡績糸になるとその区別も面倒です。
写真は「亜麻」を原料としたした紡績糸で織ったもの。通常は苧麻を原料にした紡績糸を使いますが、亜麻の方がツルリとした感触です。
主に東北より北で採れる麻なので、国産のものではないかもしれません。
ヨーロッパでは「リネン」として使われるもの。
染めも絣によるものではなく、「マンガン」と呼ばれる加工のもの。絣のズレが少なく、きれいに柄になっています。
シボのある縮みもありましたがが、こちらは主に紡績糸と思われ。糸の撚りのためか、生地の痛みもそれなりの感じです。
手績みの麻糸を縦緯につかったものはこの辺り。純然たる手仕事のよってつくられたものと思われます。ロウ引きをしてある様にみえるので、越後上布ではないという判断。
使われている糸の太さにも幾分の違いがあります。糸が細くてしなやかなものは、矢張り品がいい様に感じます。
細い糸だと細かな絣を作る事ができます。
こちらのものは大きな絣ですが、数色に染め分けているのでそれなりに加工度合いの高さを感じます。
触った感触で僕的にかなりの涼感を感じたのはこれ。糸も細く均質です。しなやかな触りです。
糸も細く上質。でも如何せん、着丈が短い気がします。多分、生地の巾も9寸5分もあればいい方。もっと、狭いかも知れません。
この辺りは柄の雰囲気から八重山上布かとの結論。糸使いも双糸と思われ。
紡績糸を使い、力織機で織ったものはフラットできれいです。
それでも、この「きれいさ」は広幅で織った生地や工業製品とは全く異なる(動力を使いながらも)手作り感の溢れる生地です。
こんにちの生活にはこのくらいでも十分にその質感は引き立つと思います。
手績み、地機のものは工業製品から比べると、まるで粗野にさえ見えます。しかしその所感は繊維そのものが持つしなやかさを確実に持った人の手に伝えます。
糸を績むのは実に根気の要る作業だそうです。このモノ作りがいつまで残っていくのかはわかりませんが、このような仕事に立ち会えたのはなかなか面白い経験でした。