懈怠石

結晶系、屈折率:100、主要産地:東京近郊、つまりそういう日記

喪服の似合うエレクトラ

2004-11-19 00:06:19 | Weblog
大竹しのぶ主演の舞台「喪服の似合うエレクトラ」を観ました。
原作はアメリカのノーベル賞劇作家ユージン・オニール。
ギリシャ悲劇のオレスティア三部作中のエレクトラがモチーフになっています。

いまさら言うことでもないですが、心理学用語の「エレクトラコンプレックス」がこの人。
娘の父親に対する異性的愛情と、同時に抱く母親への女としての嫉妬のことですね。
余談ですがうちの父親は尊敬はしているものの、毎朝ステテコで庭に出て体操するし、頭はバーコードバトラー(古い)でかなり高得点が狙えるくらいステキなことになっていますし。エレクトラコンプレックスという言葉の意味を聞いた時、ちょっとうらやましいと思いました。
不謹慎ですが。

さてさて、そんなエレクトラ。
久しぶりに良い舞台を観ました。
大竹しのぶ、やっぱいいです。エキセントリックな役ならばもう、日本にはしのぶしかいない!くらい良い!
多分嬉しくないと思うけど。

でも他の出演者のトビっぷりも素晴らしいもので、三田和代の愛に飢えた母親と、堺雅人の父親の抑圧から女性の愛を一心に求め、自分では他者に愛情を注ぐことができない弟の快演は注目に値します。
三者三様に抱えたコンプレックスが面白い。

ちょっと話しの大筋とは逸れますが、寡黙で亭主関白だった夫エズラが死体溢れる戦地から無事戻り、これからは愛情や感情をちゃんと表に出し、もう一度愛ある夫婦生活をやりなおそうと決心し、妻へと宣言します。
しかし時既に遅し、妻は愛情の飢えに耐えかねて、どこか夫に似ている船長のアダムに愛を捧げてしまった後。夫の殺害を決意し、毒薬も用意されています。
さてさて、あなたなーらーどうするー?

私は自分が愛情を注ぐだけでは不安でしょうがない小心者で、且つなんとなーくな態度や空気を読むのも苦手なので、はっきり口に出してもらわないとダメであります。
今までどれだけ愛情を示してもむっつり何も言わなかった夫が、これからは黙らない!お前を愛してる!なんて言うようになったら、わーい、と喜んで愛人捨てて帰ってしまう気がします。
あーでもどうかなー、数十年溜まったうっぷんは晴れないもんでしょうか。
毒殺はやめるけど、私はもう愛なんかないわよーぶーとか言ってカウンターパンチをくらわせるかもしれません。
この場面がとても面白いと思って、劇中他人事ながらずっとどうしよっかなーと考えていました。

ちなみにラストでは皆が死に絶えた中で、自らの正義を貫き通した娘ラウ゛ィニアが一人ひっそりと屋敷に閉じこもるとこで幕なのですが、オリジナルのエレクトラでは、復習を遂げた(すなわち自己正義を貫いた)喜びの中で彼女は果てるのです。
このラストの違いはとても深く、人間の深層心理に闇と正義を問い続けたオニールらしいと思います。

私には他人に正義だと叫べるほどのものがあるのだろうか?
あるとしても、どこまで信じて行動し、周囲を巻き込み、どれだけのものを捧げるのだろうか?

しつこいけど、本当に良い舞台でした。