人生ブンダバー

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富田武『歴史としての東大闘争』(ちくま新書)

2019-11-06 05:00:00 | 読書

成蹊大学名誉教授宮田武氏は、後記中公新書『シベリア抑留』で知っ
ている。この本は、同タイトルの岩波新書よりいいものだ。

その宮田武『歴史としての東大闘争--ぼくたちが闘ったわけ』(ち
くま新書)を読んだ。

常識人の立場からすると、なるほど東大闘争、とくに医学部問題は多
少分かったが、しかし、当時もそうだったが、シンパシーを感じるこ
とはなかった。


著者は「第一章 東大闘争の経過と思想的意味」p33に次のように書
いている。
 東大全共闘は、たしかに武装し、実力闘争を行った。しかし、当初
 からゲバ棒(ゲヴァルト=暴力)を持ち、投石したわけではないし、
 火炎瓶は「安田攻防戦」でのみ用いた。基本的には、全共闘の武装
 は「自衛武装」であり、主要には国家権力=機動隊に、副次的には
 闘争の武装敵対者=民青、とくに68年10月から導入された共産党
 直属の暴力組織に向けられたものである(日大の場合は右翼体育会)。

この第一章は、元々、10年前(『季刊現代の理論』2009年新春号)
に書かれたもので、著者自身、この論文は「我ながらよくできている
と自負している」と記す。

上記に「火炎瓶は『安田攻防戦』でのみ用いた」と書いているが、分
かりやすく言えば、「(違法な)殺人は、一人しか殺人していないん
だ」というように聞こえる。著者はこの論理が、当時も今も、一般に
通用すると思っている?

また、基本的にマルクスとかレーニンの考え方の影響が随所に出てい
ると言っていいのかもしれない(新左翼だから当然?マルクスとレー
ニンは違うけれど)。


ちなみに著者は本書の最後に
「ソ連崩壊後四半世紀余りの今日なお散見されるマルクス主義の観念
的・教条的固守はやめてほしいと言いたい」
と締めている。


なお、「東大闘争」は「東大紛争」が一般的かも。
--これは、当事者の言葉だから?




富田武『歴史としての東大闘争』(ちくま新書)

念のため、『文藝春秋』昭和35(1960)年8月号に掲載された小泉信
三博士の言葉を再録しておこう。

 問題は簡単である。いかなる場合も暴力は許さぬ、と決心するのか。
 それとも、次第によっては、それを許すというのであるか。人々は、
 殊に大学教授の人々に課せられた問題は、これである。

 若しも後者であれば、民主主義はおしまいである。今日の世の中で、
 人々が不平不満とする個条は、実際無数である。不満があれば暴力も
 已むなし、というのなら、暴力は無数の口実をかかげて横行するであ
 ろう。動機が純真だとか、不純だとか、そんなことは問題ではない。
 かって戦前一部の過激将校が、政治を廓清すると称して暴力に訴え、
 軍がそれに対する処分をあいまいにしたことが抑も世の乱れの始め
 となって、到頭戦争となり、敗戦 となったのであることは、吾々と
 して忘れても忘れられない筈の教訓ではな いか。当時無気力なる軍
 首脳者の中には、動機が純粋だなどといって、青年将校を弁護するも
 のもあり、中には理解ありげの媚態を、彼等に示すものもあって、愈
 々少壮者を増長させたことが、抑も禍乱の原因となったのであったこ
 とは、今は幾度悔いても及ばない事実である。

--当時(この場合は昭和35年)は、このような「当たり前」の言論
が『文藝春秋』に掲載される、「異常な時代」だったのかもしれない。



<参考>

レーニンの『国家と革命』(岩波文庫)

1917年、ロシア革命(とくに10月革命)の直前に書かれたもの。
副題は「マルクス主義の国家学説と革命におけるプロレタリアートの
任務」。
ちなみにマルクス・エンゲルスの『共産党宣言』は1848年。

レーニンは、マルクス、エンゲルスの引用を行いつつ(訓詁学?)、
マルクスのいうプロレタリアート独裁には、暴力革命(武力による革
命)が必要だと説いている。極左暴力集団の源泉?


「プロレタリアート独裁」は、分かりやすく言うと、ソ連にしても中
国(中華人民共和国)にしても、一種のエリート層や官僚(ロシア語
でいう「ノーメンクラトゥーラ」?)による独裁にほかならない--
のではないか。



<参考>

栗原俊雄『シベリア抑留』(岩波新書、2009/9/18)★★★
富田武『シベリア抑留』(中公新書、2016/12/25)★★★★


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