5、「客観的に存在する静止系=規準慣性系」と「時間の遅れ合成則」の関係
まずは「時間のおくれ合成則の導出」を振り返っておきます。
導出の手順の最初は「速度の合成則」でした。
そこに「相対速度Vでは時間はsqrt(1-V^2)の割合で遅れる」をまず認めます。
そうして「相対速度Vは実は相対速度V1とV2の相対論的な加算になっている」を持ってきて、従って
sqrt(1-V^2)の割合で遅れる時間
=sqrt(1-(相対速度Vは実は相対速度V1とV2の相対論的な加算である)^2)
をウルフラムに入れると、答えが
=sqrt(1-V1^2)*sqrt(1-V2^2)/(1+V1*V2)
となったのでした。
そうであれば
『「O君からボブをみた時のボブの時計の遅れ」
=「O君からアリスをみた時のアリスの時計の遅れ」*「アリスからボブをみた時のボブの時計の遅れ」/(1+V1*V2)
という事になります。』としました。
そうして実際に数値を入れて確かめるとそうなっている、つまり「時間の遅れ合成則は成立している」としました。
はい、たしかに数式のつながりの上では間違いはありません。
そうして実際に数値計算した値もあっています。
・・・と、それで話がすめばよろしかったのですが「そうはいかない」という話がこの後続きます。
・その2・「時間遅れの合成則」が語っている事 :では「時間の遅れ合成則の持つ意味」についてさらに検討しました。
その結果は
『「速度の合成則を使う時」には意識するとしないとにかかわらず、「時間の遅れについては慣性系①が慣性系②に対して優越している=慣性系①が優先慣性系である、という事を認めている」と、そういう事になります。
あるいはもう少し言うならば「速度の合成則を認める=特殊相対論を認める」ならば 、「時間の遅れについては慣性系①が優先慣性系である=全ての慣性系が平等という事ではなく、優先する慣性系が存在する、という事を認めている」と言えるかと思われます。』という結論に至っていたのでした。
最初の記述とコトバを合わせますとO君が慣性系①でそれが優先慣性系になっている。
慣性系②はアリスの慣性系です。
そうして2人が時間遅れを観測する対象がボブとなります。
さてこの結論はアインシュタインの立てた前提からするととてもおかしなものです。
アインシュタインは「優先する慣性系はない=全ての慣性系は平等である」といいました。
その事を前提に、まあもう一つ「光速不変」がからみますが、それからローレンツ変換を導き出して、その結果が「速度の加法則」につながります。
そうしてまた「運動するものはその速度Vに応じで時間がsqrt(1-V^2)の割合で遅れる」も特殊相対論の結論でした。
それで「速度の加法則」と「運動するものはその速度Vに応じで時間がsqrt(1-V^2)の割合で遅れる」を合わせますと「時間遅れの合成則」が出てきます。
しかしながら「時間遅れの合成則」の結論は「時間の遅れについては慣性系①が優先慣性系である=全ての慣性系が平等という事ではなく、優先する慣性系が存在する」となっているのです。
さてこれはパラドックスです。
議論の初めに立てた前提が議論の最後に否定されています。
そうしてこのパラドックスは存在は分かっていましたが回答が分かりませんでした。
・・・というのが現在までのおさらいになります。
さてそれで前のページで示した様に相対速度Vを使った sqrt(1-V^2) の式の値は一般には相手の慣性系の時間の遅れを表しません。
ただし唯一、観測者が基準慣性系に立っている場合はその観測者が測定した相手の慣性系の相対速度は固有速度そのものになりますのでsqrt(1-V^2) の式の値は相手の慣性系の時間の遅れを表す事が出来るのです。(注1)
そうして上記で述べていたパラドックスはこれによって解消される事になります。
つまりは「基準慣性系が優先される慣性系である」と「時間遅れの合成則は主張している」と解釈できます。
そうであれば「特殊相対論のロジックの中に基準慣性系は含まれている」という事になるのです。
追記:固有速度で相対速度を表した時に時間遅れの合成則そのものが成立している事を確認しておきます。
まずは相対速度を固有速度で表します。
具体的には以前のページで示した
V12=(b-a)/(1-b*a) ・・・(1)式
と
V23=(c-b)/(1-c*b) ・・・(3)式
V13=(c-a)/(1-c*a) ・・・(4)式
です。
上記のようにそれぞれの慣性系の固有速度から慣性系間の相対速度が導かれます。
さてその相対速度に対しては「速度の加法則が成立する事」は以前のページで確かめました。
さてそれでここで従来の認識に従って相対速度V13での時間遅れを計算します。
それはsqrt(1-V13^2)で計算できるのでした。
これはO君がボブを観測した時の時間の遅れを示しています。
そうして「時間遅れの合成則」によれば
「O君がボブを観測した時の時間の遅れ」
=「O君からアリスをみた時のアリスの時計の遅れ」*「アリスからボブをみた時のボブの時計の遅れ」/(1+V12*V23)
=sqrt(1-(V12)^2)*sqrt(1-(V23)^2)/(1+V12*V23)
=sqrt(1-((b-a)/(1-b*a))^2)*sqrt(1-((c-b)/(1-c*b))^2)/(1+((b-a)/(1-b*a))*((c-b)/(1-c*b)))
ウルフラムに入れて
実行アドレス
一見、答えが複雑ですが簡約すると
sqrt(a^2-1)*sqrt(c^2-1)/(a*c-1)
となります。(注2)
他方で
sqrt(1-V13^2)
は
sqrt(1-((c-a)/(1-c*a))^2)
となり
実行アドレス
https://ja.wolframalpha.com/input?i=sqrt%281-%28%28c-a%29%2F%281-c*a%29%29%5E2%29
別の形のをみますと
sqrt(a^2-1)*sqrt(c^2-1)/(a*c-1)
であり、上記と同じ結果になります。
つまり「固有速度で相対速度を表しても時間遅れの合成則は成立している」となるのです。
おっとこれでは表現が逆ですね。
「相対速度で時間遅れの合成則が成立している不思議な理由は客観的に存在する静止系があるからです」が正しい表現となります。
そうしてこの状況はまた「ローレンツ変換は客観的に存在する静止系を許可している」と言う事を上回っていて「ローレンツ変換は客観的に存在する静止系を必要としている」=「ローレンツ変換から客観的に存在する静止系が出てくることは必然である」という状況の様に見えるのです。
注1:地球上での実験によれば「地球に対して相対速度Vで運動してる物体の時間経過は相当な精度でsqrt(1-V^2)の割合で地球時間に対して遅れが生じている」がその結論です。
さてこの事実が示すところは「静止系に対して相対速度Vで運動してる物体の時間経過はsqrt(1-V^2)の割合で静止系時間に対して遅れが生じる」と解釈できることを示しています。
注2:驚くべきことにこの計算では固有速度bが消えるのです。
つまりは「アリスの影響がなくなる」のです。