ランダウ・リフシッツによる証明はすでに: https://archive.md/VQKl3 :に於いて述べてきました。
そうしてその証明が成立していない事は「LLの一般解の導出」によって明らかになった事もこれまで示してきた通りです。: https://archive.md/UEsgW :
さてそれで、世の中にはそれ以外にも多くの方々が「時間の遅れはお互い様である」と主張され、それを証明するかのような説明をされています。
まあそういう訳で以下「少しばかりその状況を確認しておく」と言うことにします。
それでここでは分かりやすい一例として『特殊相対性理論 Physics Lab.2021』: https://event.phys.s.u-tokyo.ac.jp/physlab2021/pdf/mathp_sr.pdf :の説明を取り上げます。
11ページに「(ii) 時間の遅れ」という章があります。
そこではローレンツ逆変換をつかって時間の遅れを導出しています。
そうして『自分から見て動いている時計の時間の進みは遅れているように見えるのです。 』と結論を出しています。
この「時間の遅れはお互い様」はその始まりをミンコフスキーに求める事ができます。
・1908年 ミンコフスキー
1908年9月21日にKo¨ln(ケルン)のドイツ自然科学者医師大会で行った講演「空間と時間」での主張。
以下「ミンコフスキーの4次元世界」 : https://archive.ph/Cvvyf :を参照します。
それで同上資料の「(7)時計の遅れ」第37図から始めます。それで第37図によってミンコフスキーは「相対運動している慣性系同士はお互いに相手の時計が遅れている事を確認する」と説明しています。(注1)
ミンコフスキーの説明はMN図を使ったものでしたが、それを具体的に数式で表すとローレンツ変換の出番となり、上記のpdfの説明の様になります。
そうして、ローレンツ変換で説明できるならローレンツ変換を絵に描いた図を使っても「時間の遅れはお互い様」が説明できる事になります。
さてそういう訳で: https://archive.md/ND6P3 :の出番となります。(注2)
この図はローレンツ変換を表しています。但し 「ζ ≈ +0.66に対して描かれている。」という説明は少々怪しいのですが、まあいいでしょう。おおまかな状況はこの図でも分かります。
黒座標が静止系で赤座標が右に速度Vで動いている慣性系を示します。
黒Y座標の目盛り4の所に黒時計があり、時刻は4を指している、と読みます。
ちなみにこの黒時計はもともとは原点にあったものが黒座標時刻経過4で目盛り位置4に移動しました。時間軸方向には移動しますが空間軸方向には移動していません。つまり「黒座標に静止している時計」なのです。
さてそれで同様に赤座標にもその座標に固定された時計があってそれが赤座標の時間の経過とともに上に動いて行きます。
舞台設定は以上です。
それでこの図の読み方は「黒座標の黒時計が目盛り4の所にある時に、赤座標からそれを見るといくつに見えるか」という事になるのです。
それは「赤座標で右肩上がりになっている横線を黒座標Y軸方向にのばして黒座標Y軸の目盛り4でクロスする右肩上がり赤横線の赤座標Y軸の値を読む」という事になります。
そうやって赤Y軸値を読み取りますと4.6ぐらいになっています。(人によって読み取り値は異なるでしょうが、すくなくとも4を超えている事は確認できるはずです。)
つまり「赤座標系から黒座標の黒時計4を見た時の赤時計の時刻は4.6だ」となります。
「さて、おかしいだろう、それでは」
「動いている方が時間が早く進んでいる」と。
いやいやこれは「赤座標メインの読み方」で赤座標からすれば「動いているのは黒座標」なのです。
「黒座標が左側に速度Vで動いていて赤座標は静止している」と赤座標は主張しているのですよ。
従って「静止している赤座標の時計で4.6経過したにも関わらず動いている黒座標の時計は4までしか経過していない」となるのです。(注3)
ちなみにこの話の大前提は「原点位置で赤座標と黒座標はすれ違い、そこでそれぞれの時計はゼロリセットした」となっています。
以上の議論はそのまま赤座標と黒座標の立場を入れ替えて「赤座標の目盛り4にある赤時計を黒座標から見るとどう見えるか?」とひっくり返す事が出来ます。
そうすると黒座標Y軸読みで5となります。(注4)
そうであれば黒座標は「動いている赤座標の時計は遅れている」と主張するのです。
さて、以上の議論を数式ベースでローレンツ変換を使って計算するとその結果は『自分から見て動いている時計の時間の進みは遅れているように見えるのです。 』という上記pdfの主張になるのです。
そうしてそのような主張の仕方は歴史的にはミンコフスキーが始めたものでした。
後はみなさん「右にならえ」という訳です。
しかしながらここで注意しなくてはならない事は『遅れているように見える』という部分にあります。
「ん、見える?」
「ほほう、空間的に離れている時計の針の位置をどうやって見るのかね?」という突込みが出来ます。
そうなんです。
黒座標Y軸は赤座標Y軸の時計の「今」は見えず、赤座標Y軸は黒座標Y軸にある時計の「今」は見えないのです。
さてそれでその「今」というのは何時でしょうか?
黒座標Y軸が自分の時計の時刻を確認した時が「黒座標にとっての今」です。
その時に赤座標Y軸にある赤時計の針が何時を指していたか、黒座標Y軸にはわからないのです。
2つの時計の時間の経過を比較するのであれば「同時に2つの時計を見る事が必要」です。
しかしながら上記の「時間のおくれはお互い様証明」ではその要件を満たしてはいません。
何故ならば「空間的に離れている場所にある2つの時計を同時に見る事は不可能だから」です。
そうであれば上記の説明はただ単に「そのように考える事ができる」と言っているだけで「時間のおくれはお互い様の証明にはなっていない」と言えます。(注5)
さてそれで、ここでランダウとリフシッツの登場になるのです。
ランダウとリフシッツは「3つの時計を使う事で時間の遅れはお互い様という証拠が手に入る」と主張しました。(注6)
しかしながら残念な事にその主張は「LLの一般解の導出」によって否定されてしまいました。
さてそういうわけで「ダブル横ドップラーの測定」によって「この問題に白黒つける時が到来した」という事になるのです。
注1:この件、内容詳細につきましては「その3・ ミンコフスキー パラドックス」: https://archive.md/K5C3C :を参照願います。
ここでミンコフスキーはMN図をつかって「相対運動している慣性系同士はお互いに相手の時計が遅れている事を確認する」と主張していますが、その確認手段については明示していません。
そうしてもちろん「物理学は現物勝負」でありますからこのままではミンコフスキーの主張は実は「そのように考える事ができる」という「ひとつの仮説の提示」という状況でした。
注2:ういき「特殊相対論」: https://archive.md/zqKir :の「ローレンツ変換の具体的な形」からの引用になります。
注3:この時赤座標はもちろん、「自分の座標がひし形にひしゃげている」などとは認識しません。
「自分の座標は直交座標である」と認識しています。
他方で赤座標が動いていると認識している黒座標については「ひし形にひしゃげている」と認識するのです。
注4:こちらの読み取りは楽にできます。そうして読み取り値は5です。
ちなみに本来のローレンツ変換と逆変換を使った場合では計算値はきれいに入れ替わるのですが、この図ではそうはなってはいない様です。
その理由は「図の書き方の精度がそこまで到達していない」という所にあります。
まあしかしながら「それなりの精度はある」ので「目で見てローレンツ変換をつかった時間の遅れの説明が理解できる」という事になります。
注5:このあたり「長さの短縮はお互い様」というローレンツ短縮とは対照的です。
ローレンツ短縮については「それぞれのロケットが相手のロケットの短縮状況を写真にとって記録できる」と思われます。
そうであれば後日「ほら、すれ違った時、おまえのロケットの寸法は縮んでいた」と証拠立てる事ができます。
さて、それに対して「ローレンツ変換を使った、時間の遅れはお互い様論者」はどうやって後日「ほら、あのとき、おまえの時間が遅れていた」と証拠だてる事ができるのでしょうか?
ちなみに「ローレンツ変換を使って時間の遅れはお互い様を主張する全ての論者の説明」は上記で示した「黒座標と赤座標の話以上の内容は含んではいない」と言い切る事ができます。
つまり「時間の遅れはお互い様、という事の証明はできてはいない」となるのです。
上記のpdfの説明の様に「数式のみを使って時間の遅れはお互い様を証明できた」とする方々は「比較しなくてはいけない2つの時計が距離が離れた別々の所にある」という事を忘れているのです。(この辺りの状況はなにやら推理小説の謎解きの様でもあります。)
注6:ランダウ・リフシッツは「時計Aと時計Bがすれ違う、その瞬間には同時に2つの時計を確認できる」としたのです。
さてその事は事実でしたが、それでもランダウ・リフシッツの証明は「LLの一般解の導出」によって否定されます。