歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

“民族団結は進歩なり”に関する絵解き画集(5)

2010-07-22 23:00:39 | 東トルキスタン関係

→(4)からの続き

読んでいてつくづく思うのですが、

このくだり↓に至っては、

----------------------------------------------------------------------
>分裂主義とそれに対する戦いは、民族問題でも、宗教問題でもありません。 >恐らくは、この百年来、列強の侵略者たちによる中国分割の陰謀を防ぐた
>め、中国人民がこれまで行ってきた戦いの続きなのです。

----------------------------------------------------------------------

何だか、昔日の大東亜共栄圏論者の言い分を聞いているかのような気分になりますね。ただ“アジア”が“中国”に入れ替わっただけで。

要するに、

“白人に支配されるよりは、同じ有色人種に支配された方がお前らにとってはまだマシなんだ。だから、黙って支配されてろ、お前ら!ごちゃごちゃ文句を言う奴はみんな白人の手先認定だ!”

みたいな理屈ではありませんか。

支配される側からしてみれば、白人の帝国主義者も“脳内白人化した有色人種の帝国主義者”も大して違いはないかもしれないし、後者が前者より良きものである保証なんてどこにも無いはずなんですけどね。そういうことはあまり気にしない訳です。

こういうことをやっているのが、今から6-70年前、まさにその“同文同種を唱える脳内白人”による植民地化や属国化を経験した漢民族だというのは、同時期の欧州でゲットーなり強制収容所なりに閉じ込められていた人々+その子孫が、ガザ地区を“巨大なゲットー”にしてしまっているのと同じくらい、皮肉なことですよ。

ましてや、そうした時代に彼ら自身が抑圧された経験(後年の創作も含む)をネタにして、ウイグル人たちに“愛国教育”を施し、“中華ナショナリズム”をかきたてようとする姿勢に至っては、もはや悪い冗談としか思えなかったりします。

この間ウルムチに行った時、宿のTVでは、ほとんど毎日のように、よくある抗日愛国映画のウイグル語吹き替えが放映されていたのですが、その中に、満洲国内の抗日パルチザンを題材にしたものがありました。

満洲国内の漢人学校では日本語の使用が強要され、生徒らは仕方なく日本語を勉強していると。で、そこにある日、関東軍?の高級将校が視察に訪れ、生徒らは日本語の唱歌を歌って歓迎することに。担任である病気持ちの老教師は、無理やり日本語の歌を歌わされる、いたたまれない生徒たちの姿を見て病状が一気に悪化。本番中に血を吐いて倒れてしまうのでしたw。

まあ、実際に血を吐く教師がいるか否かは別にしてw、似たような光景なら、ウイグル人たちは新疆のそこら中で“リアルに”見ているはずです。わざわざドラマ仕立てにするまでもなく....。

というのも、最近の新疆では“双語(バイリンガル)教育”運動が盛んです。ここでの“双語(バイリンガル)”は漢語とウイグル語など少数民族の言語を指しますが、五族協和体制下において漢語を学ぶ日本人があまりいなかったのと同じで、漢人が少数民族の言語を学ぶなんてことは、現実にはほとんどありません。専ら少数民族の側、特にウイグル人の漢語能力を向上させようという運動なのです。

あちらの教育機関には、漢語で授業をやる学校とウイグル語など民族語で授業をやる学校があるのですが、民族語学校の方の初等教育の過程では、長らく漢語の授業がありませんでした。新疆でも南部の農村部などでは初等教育のみで学業を切り上げてしまうウイグル人は多く、お陰で彼らの漢語能力は非常に低い。そうした状況は同化政策......もといw“民族団結”に害をもたらすので、民族学校でも初等教育の段階から漢語を必修化しようというのが、この運動の骨子です。

公務員にしろ民間にしろ、現在の新疆で社会的に上昇するためには、好むと好まざるにかかわらず漢語は必要です。また、別に上昇する気がなくとも、漢語が話せないと本土の方に出稼ぎにいくこともできない。

故に、中流以上の家庭では、これまでも子弟を漢語で授業を行う学校に通わせる傾向が強かったわけです。こうした教育を受けた人々は少数民族は“民考漢”と呼ばれていますが、彼らの中には民族語の読み書きができない人が結構多い。そればかりか、母語が漢語化し、民族語が喋れない人すらいたりします

--------------------------------------------------------------------------------------------------
少数民族の幼稚園児に漢語と母語の“双語”教育    
【社会ニュース】 2009/05/16(土)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0516&f=national_0516_004.shtml

新疆ウイグル自治区巴州地方政府は漢語とウイグル語のバイリンガル教育を積極的に推し進めている。その一環として、バイリンガルの幼児教育専門の教師を育成中だ。教師の育成には厳しい訓練と試験が実施される。
  
バイリンガルの教師の育成資金は213万元(約3000万円)、訓練には例年、3000人以上の少数民族の教師が参加する。   

現在同州の小学校で2か国語で授業を行うバイリンガルクラスは540クラスあり、バイリンガルの教師は1116人、生徒数は1万2138人。   

同州の少数民族の幼稚園生は1万2900人余りで、そのうちの95%を占める1万2300人は2年間バイリンガルの訓練を受ける。(CNSPHOTO)

--------------------------------------------------------------------------------------------------


重要なのは、別に政府の強制があろうが無かろうが、少数民族の間には社会・経済的な理由から、子供を漢語化したいという層は確実に存在する、ということでしょう。

こういうのは、どこの植民地でも同じだと思います。もし仮に満洲国があと何十年か続いていたとしたら、漢語よりも日本語が得意な漢人エリート層が出現していたに違いない。

それを思えば、民族学校での早期漢語教育の導入は、ある意味社会のニーズに応じたものだと言えます。

ただ、問題は民族語の方です。“社会的に漢語が重要なのは分っているけども、子供には民族語をしっかり覚えてもらいたい。漢語と民族語のバイリンガルになるのは良いけど、漢語のみ喋れるようにはなってほしくない”、というウイグル人は、こちらの知合いでも結構いるのですが、彼らにとっての“母語で教育を受ける権利”は一体どうなっているのでしょうか?

実は、十年ほど前から高中(=高校)、大学と高等教育に用いられる言語はほとんど漢語のみになってしまっています。既に民族語のみでは高等教育が受けられない状況が出来上がっているというわけです。この上、民族語学校でも早期の漢語教育が始まるとなれば、この先、民族語の話者が実質的に減っていくのは、ほぼ間違いないでしょう。

こうした事情は、ソ連時代の中央アジアの各民族共和国のそれとよく似ているのですが、いかにモスクワがロシア語の普及に一生懸命だったとはいえ、ソ連時代でも高等教育から民族語が一掃される(まあ、理数系は今も昔もロシア語がメインですけど)なんてことはありませんでした

その意味では、やはり中国当局は政策として“漢化”とか“同化”を行っているとか言われても、仕方が無い思われます。

ウイグル人たちは、あのドラマを一体どういう気分で視てたんでしょうね...。
→(6)に続く



最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (裸族のひと)
2010-07-24 02:33:56
>重要なのは、別に政府の強制があろうが無かろうが、少数民族の間には社会・経済的な理由から、子供を漢語化したいという層は確実に存在する

良い悪いは別にして、これは仕方の無い事なのでしょうね。資本主義が入ってくれば多かれ少なかれ拝金的な人が増えるのは、悲しいかな何処でも同じです。

その際に”お金が全てじゃない”という価値観を保っていられるか。特に中国人の”商売”というのは相手を騙してでも金を取る、自己チュー極まりないやり方ですから、相互繁栄=Win-Winの関係など望むべくも有りません。

経済的に豊かになる事は良いけれども、大切な何かを失わずにいられるでしょうか。漢人の悪いところは”反面教師”として、染まらないで欲しいなぁ・・・


>高等教育に用いられる言語はほとんど漢語のみ

韓国などはハイレベルな教育は英語だと聞いた事が有ります。何故なら先端の学問は韓国語に翻訳されていないから、英語の資料で学ぶしかないのだそうです。

自分達の言語で学べないのであれば他の言葉を使うしかないですから、当然ながら支配者の言葉=漢語になってしまうのでしょうね。


>ウイグル人たちは、あのドラマを一体どういう気分で視てたんでしょうね...。

以前にどっかで聞きましたが、「何故日本人は中国人をもっと徹底的にやっつけてしまわなかったんだ!」とか、「そんなんじゃ生ぬるいわ!中国人、ザマミロww」とか思っていたりして。

返信する
Unknown (マーシャ)
2010-07-24 23:48:43
今回も、ツボにはまる内容でした。

>漢人が少数民族の言語を学ぶなんてことは、現実にはほとんどありません。

ロシア人はどうでしょう?ウズベク語やカザフ語などを勉強してるロシア人はいますか?
ロシア語で書かれたカザフ語の教科書を見たことがありますが、あれはやっぱりロシア人向けではなく、カザフ人向けに書かれたものですかね。
こんどウズベキスタンに行くので、ロシア語で書かれたウズベク語の教科書を入手しようと思っているのですが、タシケントとかサマルカンドの本屋に売ってますか?
ウズベキスタンはカザフスタンと違ってウズベク語が浸透しているから、ウズベク人向けの国語の教科書は、わざわざロシア語で書かれてはいないでしょうね。
返信する
Unknown (Kanri-nin)
2010-07-28 00:57:53
>裸族殿

>良い悪いは別にして、これは仕方の無い事な
>のでしょうね。資本主義が入ってくれば多か
>れ少なかれ拝金的な人が増えるのは、悲しい
>かな何処でも同じです。

Yahari keizai-ryoku to seiji-ryoku no urazuke no nai gengo ha ikinokorenai no kamo shire masen.Esperanto-undou mo kekkyoku sore de umaku iki masen deshita.


>韓国などはハイレベルな教育は英語だと聞い
>た事が有ります。何故なら先端の学問は韓国
>語に翻訳されていないから、英語の資料で学
>ぶしかないのだそうです。

Sou nan de su ka? Tounan-asia no moto-eiryou no kuni mitai desu ne...aredake washa no ooi gengo nano ni.

Maa, nihon no baai ha Meiji-seifu de nariagatta inaka-mono tachi de nounai-hakujin ni natta renchuu ga tsukutta
jinkouteki na yamanote-kotoba ga,oubei-go no kawari ni natta wake desu ga.



>マーシャ殿

>ロシア人はどうでしょう?ウズベク語やカザフ語などを勉強してる
>ロシア人はいますか?

自分がこれまでウズベク語を話すロシア人に会ったのは一度きりで、ウズベキスタン航空のスチュワーデスだけですね。最近だと多少事情は変わってるかもしれませんが….。カザフ語を話すロシア人は、今のところ会ったことがないです。

>ロシア語で書かれたカザフ語の教科書を見たことがありますが、あれは
>やっぱりロシア人向けではなく、カザフ人向けに書かれたものですかね。

ロシア人と、ロシア語で教育を受けているカザフ人の双方でしょう。


>こんどウズベキスタンに行くので、ロシア語で書かれたウズベク語の教科書
>を入手しようと思っているのですが、タシケントとかサマルカンドの本屋に
>売ってますか?ウズベキスタンはカザフスタンと違ってウズベク語が浸透し
>ているから、ウズベク人向けの国語の教科書は、わざわざロシア語で書かれ
>てはいないでしょうね。

ウズベク人向けはもちろんウズベク語ですが、ロシア語のもあるはずです。買うならタシュケントの方がいいでしょう。ソ連時代の古本が安くてお勧めです。

あと、最近では阪大なんかから初学者用のテキストが出ているみたいなので、そちらを先に入手されてはどうでしょうか?
ttp://www.bk1.jp/product/03176516
返信する