あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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刑事は楽しい商売…… (単行本版p250)

2007-10-31 23:25:32 | マークスの山(単行本版改訂前) 再読日記
残業後に寄ったゆうちょ銀行。ATMに通帳を入れた際、手に持っていた紙幣まで巻き込んでしまい、ATMが動かなくなりました。はい、私が悪いんでございます。
係員呼び出しボタンを押して、遠隔操作(←そんなことが出来る時代になっていたんだ! とビックリ・・・)してもらったんですが、紙幣は戻ってきたのに通帳は出てこず。
「セキュリティ会社の担当者を派遣しますので、お待ち下さい」と言われ、待つこと約15分。やって来たのは、「定年退職後にも、臨時で働いています」といった感じの白髪のおじいちゃん。
「いやあ、『黄金のを抱いて翔べ』(新潮社)のジィちゃんやわ~!」 (←ミエちゃん口調で読んでねん)
・・・と心で叫んだことは言うまでもない。
いや、ジィちゃんよりは遥かに人が良さそうな、柔らかい雰囲気を持った方でしたけどね。なかなか男前な人でしたよ(笑)
五分と待たず、通帳を出してくれました。ありがとうございました♪
ジィちゃんはエレヴェーター会社でしたが、このようなセキュリティ関連の会社や組織では、定時で働いているのは正規社員、時間外は非常勤社員と決まっているんでしょうかね?

・・・いつから「再読日記」に前フリを入れるようになったんだか。

***

2007年10月15日(月)の単行本版(改訂前)『マークスの山』 は、三  成長のp218から四  開花のp250まで読了。この辺りで約半分ですね。

今回のタイトルは、ちょっと自嘲気味の合田さんが吐いた名言(なのか?)
現在の合田係長ならば、こんな発言、出来るのかどうか。ちょっと気になるところですね。

今回分には、『レディ・ジョーカー』(毎日新聞社)の重要人物の一人・根来さんが登場。この時は地検担当記者でした。
・・・あら、フルネームではないですね。新聞社名も「某」になっていますね。『マークスの山』では、脇役だから?
というよりは、単行本版『マークスの山』を上梓した時点では、『照柿』(講談社) も 『レディ・ジョーカー』(毎日新聞社) も、何にも決まっていなかったからでしょう。


【今回の名文・名台詞・名場面】
【お願い】 ピックアップした部分で「私の持っている『マークスの山』には、こんな文章は無かった」と気づかれた方。それは「改訂後」の可能性が高いです。よろしければ、ご一報下さいませ。私に、比較している余裕が無いものでして。よろしく願いいたします。

★地検の中で、また泥仕合をやっている。今回は陰湿な中傷の網をものともせずに泳いできた加納祐介が、くわえていたエサをひょいと網の外に投げてくれ、それに齧りついたのが自分だった。誰かに見られていたのではない。検察内部で何かのリークがあって、外に合田の顔があったら、一+一=二で加納が網にかかるだけのことだった。逆も然り。もう十年来そういう外圧の繰り返しだが、どちらもへこたれず、しぶとく生き抜いてきた自信があった。 (p226)

最初に謝ります。ごめんなさい・・・ここの描写を読むたびに、網の中にいる魚になった加納さんが、網の隙間からくわえたエサをひょいと投げ、網の外にいる魚になった合田さんがかぶりつく・・・という絵が、いつもいつも私の頭の中に浮かんでくるんです・・・。
比喩だとわかっているんだけど、どうしてもダメ。でもって、ここの描写は好きなんですよねえ。ああ、二律背反。
絵が描ける方! どなたか「お魚になった義兄弟」でこの場面を描いて、私にプレゼントして下さい!  (本気でお願い)

★「……あんた、誰に言われて来たんです」
「誰も。お節介だけが事件記者の取柄、良心の捌け口」
 (p226)

ここの根来さんの返答は、どう見るべきか。根来さんの言うとおり、お節介からなのか。それとも加納さんが「伝えて欲しい」と直に頼んだのか。あるいはやんわりとほのめかす程度で、根来さんがそれを拡大解釈して実行したのか。気になる~!

★疲労が針になって身体のすみずみに突き刺さっていた。針の先には、中傷という名の毒が塗ってあった。決してむしばまれはしなかったが、長年何とか折り合ってきたその毒も、今夜はいささか心身にこたえた。 (p227)

今回は中傷の毒だけでない、ちょっと違ったものにも刺されましたからね・・・。加納さんの属している「検察」という組織も、「警察」に属している合田さんが感じているものと同じような毒があることを知ったから。

★自分自身を省みることもなく、疑心暗鬼で歪んだ心に残ったのは、自分と自分の属する社会に対する決定的な不信と失望だけだった。 (p227)

それでも、刑事を辞められない合田さん。

★『私は間違ったことはしてこなかったわ。それが間違っているという権力が狂っているのよ』 (p228)

貴代子さんの台詞。
今夏の地震で、原発政策を見直すいい機会だとは思うのですが、それに水をかけるような判決も下されましたね。貴代子さん、どう思っただろうか。

★一方、大学三年で司法試験に合格した俊才の加納祐介も、司法修習の後、やはり貴代子の思想偏向と私生活を問われて、今年の春まで重要度の低い地方支部を巡ってきた。遂に結婚もしなかった。それを加納に耐えさせたのは、権力が何であれ、貴代子の高潔と合田の剛直な精神のカップルを己の理想と信じ続けたからだろう。 (p228)

・・・と思っているのは、合田さんだけかもしれないですよ?
私たちが見ている「加納祐介」という人物の姿の大部分は、合田さんというフィルターが通っているのだから。合田さんが「こうだ」と思っていても、実は違うかもしれない。その差異が明らかになったのが、『レディ・ジョーカー』(毎日新聞社)での義兄弟なんですよね。
ところで、かつて加納さんがいた「京都地検」ですが、「重要度の低い」地検なんですか?(疑問)

★それが破綻したとき、別れないでくれと号泣した男も、合田も貴代子も、それぞれ試練を乗り越えて今日があった。だが、男二人がそれぞれの社会で生き残るために、貴代子を潰した日々に対する思いは、加納と自分とではいくらか違っていた。女を知らない無菌培養の加納には、合田が貴代子に対して懐いた単純な嫉妬や悔恨の大部分は理解出来なかったはずだ。同じように、己の理想に捧げる加納の高潔な意志と献身と、そのために手段を選ばない一途は、合田には理解しがたい部分もあった。 (p228)

いくら親友同士であったとはいえ、一人の女性に対する「兄」と「夫」の違いは大きいものです。

★加納とはむしろ、それらの愛憎や社会生活の信条とは、別の次元で結ばれてきた。それはたった二つの符号で成り立っていた。《山へ登ろう》《ドストエフスキーを読もう》という、単純かつ浮世離れした符号で。 (p228)

上記と対比しますが、「義兄」と「義弟」であっても、培ってきた親友同士の絆というものは、そう簡単には断ち切れないものだし、その気ときっかけさえあれば、交流と回復も早いものです。

★今夜、あの根来という記者に、『気をつけてくれ』という一言を託した男がいる。それを受託した根来にとっては《良心の捌け口》だろうが、請託した男の思いの切実さは、百倍にもなって合田の血の中を巡っていた。 (p228)

あらら、やはり加納さんが根来さんに伝言をお願いしたの?

★このゲームを始めたときも、金そのものを欲しいと思ったことはなかった。これまで一応寝食足りていたし、金を出して買いたいと思うようなものは何一つなかったし、だいいちそんなことを考える余裕も頭もなかったのだから。一番欲しかったのはまともな脳味噌だが、これは金では買えなかった。 (p243)

マークスくんの述懐。これをマークスくんが思うのと一般の人が思うのとでは、かなり大違い。マークスくんの場合、「悲しみ」が漂うんだよなあ・・・。
「まともな脳味噌」って、人によって違うでしょうけれど、私だって買えるものなら欲しいわ・・・。

★「主任。ここは俺の縄張りだ。あんたは入るな」 (p248)

自分のミスを償おうとする雪さん、カッコええ~! ・・・ところがどっこい。

★「刑事って、いいかげんな商売だ」などと広田は言う。
その淡々とした温厚な横顔を見ながら、合田は少し侘しいものを感じた。
 (中略) といって、合田自身も飛び上がるぼとの興奮はなかった。広田と同じく、自分の胸が躍らない理由も分からなかった。須崎の災難がこたえているのか。新聞記者の話がこたえているのか。何度も何度も繕ってきた堪忍袋が、また少しずつ破れ始めている。 (p248~249)

どうも合田さんは雪さんを見ていると、イライラしてくるようで。合田さんとタイプもテンポも違うんですから、もうちょっと寛容な気持ちで・・・とお願いする私は、数少ない「雪スキー」の一人。



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