「変革」に託す② オバマの米国 経済再建 内外に火種

2008-11-09 | 国際

「変革」に託す② オバマの米国経済再建 内外に火種

 民主党のバラク・オバマ上院議員が次期米大統領就任を決めて一夜明けた5日朝。ニューヨークのウォール街を歩くビジネスマンたちの表情から険しさが消えていた。
 「皆、気持ちが前向きになっている」と保険会社の金融アナリスト(59)が云う。オバマ氏が国民に誓った「変革」は、景気後退に直面した米国経済に漂う閉塞感を打ち破った。
 とはいえ、世界的な金融危機と米国の景気後退懸念を、オバマ氏がどのように乗り越えようとしているのか、「変革」で何が起きるのか、具体的に理解している人は少ない。
 オバマ氏は選挙戦で、有権者の中で最も多い中所得者層の生活を守ることを掲げ、減税や雇用の維持・拡大を訴えた。だが、財源となる大企業に対する増税は、従業員の賃金カットやリストラ、中小企業との取引中止などに形を変えて、中所得者層の負担に変わるおそれがある。
 富裕層からは「増税になったら(貧困層を支援する)寄付を減らすかもしれない」(ワシントン近郊の医師)との声も漏れている。
 米国経済の「変革」の影響は、世界経済にも及ぶことになる。
 選挙戦でオバマ氏は「経済の国際化」を尊重すると表明し、最大7000億ドル(約70兆円)の公的資金を金融機関に注入する「緊急経済安定化法」も国民生活の不安解消のために支持。金融危機回避に日本や欧州と協調して取り組むが、一方で米国内の農業や雇用の保護も公約している。
 公約は、オバマ氏の当選を歓迎した途上国や新興国に流出した米国の雇用を取り返すことと同じだ。保護主義的な対外経済政策は、新たな貿易摩擦の火種になる。金融危機回避のための国際協調も、米国がまとめ役になるのか、各国に同調するだけなのか、態度を明確にしていない。
 選挙戦で、共和党候補マケイン上院議員はオバマ氏の経済政策への危惧を指摘した。 だが、オバマ氏は選挙戦で詳細には踏み込まなかった。ブッシュ政権の経済政策と米国経済の現状を批判し、国民のニーズに焦点を当てる政策を訴えればよかったからだ。「変革」の言葉に魅せられた米国民も、オバマ氏の経済政策に疑問を示さなかった。
 ニューヨークのトレーダー、スティーブ・アームストロング氏(44)は「米国経済は、今の場所から前へ進むことを決めたんだ」と話し、続落する株式市場をみながら「進む方向は、いいのか、悪いのか」と続けた。(ワシントン・古川雅和)中日新聞2008/11/08朝刊


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