【裁く時】第3部判断の重み(4)実刑か猶予か 出所後に立ちはだかる壁

2009-05-25 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

【裁く時】第3部判断の重み(4)実刑か猶予か 出所後に立ちはだかる壁
産経ニュース2009.5.24 23:34
 「働かせてくれるところがありません。助けてください!」
 更生施設で社会復帰支援に取り組んでいる元刑務官、藤木美奈子(49)の元には、出所後に厳しい現実に直面した後、支援を求めてくる元受刑者が少なくないという。
 「刑務所に一度入れば、社会から排除されるラベルが張られる。裁判のときに誓った被害者への補償なんて並大抵のことではない」
 服役中に離婚されたり、家族から絶縁されたりすれば、出所しても帰る場所すらない。更生を固く誓っていても、社会の冷たさに自暴自棄になり、何度も再犯を繰り返す…。
 出所直後は藤木の支援を断ったにもかかわらず、2年後に支援を求めたという元受刑者の女性(41)はこう証言する。
 「実刑判決を受けたときは人生が終わったと思い、言いようのないショックを受けた。でも、刑務所の生活は意外と苦しくなかった。本当に苦労したのは、出所してからでした」
   × × ×
 自由な生活を夢見て「塀」の外に出たにもかかわらず、目の前に立ちはだかる高い壁。更生という視点から考えると、実刑と執行猶予の差はあまりにも大きい。執行猶予を取り消されるのは毎年13~15%。これに対し、受刑者が出所後5年間(平成14~19年)に再び刑務所に入った累積率は46・1%。犯罪の種類もあり単純比較はできないが、再犯率は明らかに受刑者の方が高い。
 にもかかわらず、これまで、裁判の場で「更生」は必ずしも重要な要素ではなかった。
 大阪地裁判事の中川博之(54)は量刑判断の基準について、「行為の危険性、結果の重大性、動機など犯行に直接かかわる事情でだいたいの量刑が決まる。2次的に反省や弁償、周囲の協力などで増減させてきた」と説明する。
 今年4月に大阪地裁で行われた傷害致死事件の模擬裁判では、被告を執行猶予にするか実刑にするかが争点になった。傷害致死罪の量刑は実刑が基本。よほどの事情がなければ執行猶予にはならない。だが、罪を認めて涙ながらに謝罪を続けた被告に、裁判員の意見は割れた。
 「人が1人亡くなっている結果は重大だ」「残された遺族のために、刑務所なんか行かずに弁償させるべきではないか」
   × × ×   
 30年以上にわたり、拘置所や刑務所で勤務した元刑務官、藤田公彦(62)は「刑務所は教育や強制をする場というよりも、社会から隔離する意味合いが強い。悪風感染もある。再犯の可能性が低く、家族関係が良好で更生に協力が得られるなら、執行猶予で社会の中での更生をめざす方がいい」と訴える。
 模擬裁判では、同じ事件を2つの合議体が審理した。結果は、片方が相場通りの実刑、もう一方は執行猶予。被害者や遺族の処罰感情を重視するのか、被告の更生に期待するのか。
 中川は言う。「裁判員にはまさにそれを判断してもらうことになる。これまでの“量刑相場”は比較的狭かったが、これからは幅が出ると思う」
 藤木に助けを求めた女性は今、昼は仕事をし、夜は定時制高校に通う。看護師という子供のころからの夢をもう一度目指して。「やっとここまで来ました」。“刑”の先にある人生はさらに続く。=敬称・呼称略

 ■執行猶予 以前に禁固以上の刑に処せられたことがないか、あっても一定期間経過したなどの条件を満たしている被告が懲役3年以下の比較的軽い判決を受けた場合、刑の執行を1~5年間猶予することができる。猶予期間中に罪を犯して禁固以上の実刑判決を言い渡されたときには猶予は取り消され、刑務所で刑罰を受けることになる。また、保護観察付きの場合は保護観察官や保護司の指導・監督の下で決められた約束事を守りながら生活する。素行が悪ければ猶予は取り消される。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【裁く時】第3部判断の重み(1)八海事件 3度の死刑判決 命を翻弄 2009-05-22 
【裁く時】第3部判断の重み(2)死刑か無期かー流れを変えた連続上告。日本の死刑状況についてー安田好弘 2009-05-23 
【裁く時】第3部 (3)井垣康弘元判事/山地悠紀夫死刑囚=母親を撲殺、出院1年半で姉妹を殺害(大阪事件) 2009-05-23 
【裁く時】第3部判断の重み(4)実刑か猶予か 出所後に立ちはだかる壁 2009-05-25 
【裁く時】第3部判断の重み(5)完 責任能力の有無 簡略鑑定書 本質伝わるか(産経新聞2009.5.25) 
...............................


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。