最終夜
大島の椿は八重でなく一重で咲く。
焼き鳥屋にひとり酔った女が入ってくる。「アンコ椿は恋の花」を歌っている。「こんなおばちゃんでも恋はするのよ」と照れ笑い。「私の恋は大島の椿と同じ、一重なの、ただひとえ。」と女は言った。「三原山から 吹き出す煙り 北へなびけば 思い出す」という歌詞の北は、東京のことをさしているのよと女は教えてくれた。こんな内容の中上健次の短いエッセイを思い出していた。
東京へ帰るため元町港に向かうと、船は元町港ではなく岡田港から出港するのだと知らされた。仕方なく、大島の北岸にあたる岡田港へとバスで回ることになった。連絡船は行きも帰りもこんな具合。天候の具合で海ではよくあることだ。まだ島らしさの残った岡田を後にしてようやく年の暮れの帰路についた。三日遅れの便りをのせて。
三日おくれの 便りをのせて
船が行く行く 波浮港
いくら好きでも あなたは遠い
波の彼方へ いったきり
(1964年 都はるみ)
大島の椿は八重でなく一重で咲く。
焼き鳥屋にひとり酔った女が入ってくる。「アンコ椿は恋の花」を歌っている。「こんなおばちゃんでも恋はするのよ」と照れ笑い。「私の恋は大島の椿と同じ、一重なの、ただひとえ。」と女は言った。「三原山から 吹き出す煙り 北へなびけば 思い出す」という歌詞の北は、東京のことをさしているのよと女は教えてくれた。こんな内容の中上健次の短いエッセイを思い出していた。
東京へ帰るため元町港に向かうと、船は元町港ではなく岡田港から出港するのだと知らされた。仕方なく、大島の北岸にあたる岡田港へとバスで回ることになった。連絡船は行きも帰りもこんな具合。天候の具合で海ではよくあることだ。まだ島らしさの残った岡田を後にしてようやく年の暮れの帰路についた。三日遅れの便りをのせて。
三日おくれの 便りをのせて
船が行く行く 波浮港
いくら好きでも あなたは遠い
波の彼方へ いったきり
(1964年 都はるみ)