本日紹介しますのは、中島一光の演奏会(鹿児島では10月16日開催)のレビューが、 ムジカノーヴァ2012年2月号 85ページ 演奏会批評からに掲載されました。時 幹雄氏による批評です。以下中島氏のブログから引用いたしました。
中島一光さんは鹿児島を中心として活動をしているピアニストで、鹿児島国際大学で後進の育成にもあたっている。
今回のリサイタルは10月16日が鹿児島で30日が東京での開催。プログラムはモーツァルト《ソナタ》KV.332、シューマン《色とりどりの小品》作品99、フランク《前奏曲、フーガと変奏》作品18、ショパン《ソナタ第3番》作品58。オーソドックスだが大変内容の濃い作品が並ぶ。彼の強みはこれだけの内容を、高いレヴェルで保持させていく集中力の高さと心身の強さだろう。
当日、一番印象深かったのはフランク《前奏曲、フーガと変奏》だった。この作品はオルガンの響きを常に意識させられる曲だ。特に拍とテンポの加減が自然で、彼自身の波長と同期しているかのように進行していく。音響面では低弦の響きに工夫があり、レガートの上手さと相まって、敬虔なる心象を素朴に導き出している。
どの曲にも言えることだが、彼の音色は暖色系で、各声部ラインが丁寧に淡々と奏されていく。楽曲の構造や構成はよく研究され、客観性と主観とのバランスが程よくとれている。彼は演奏技巧を全面に出すタイプではないが、その奏法には随所に独自の工夫が見られる。ペダリング、運指、和声構成、脱力など、多方面からのアプローチが表情に陰影を与えている。地道な積み重ねがあってこそ滲み出てくる表現だと感じさせた。
一方、物足りないのはリズムの躍動感や輪郭明瞭な色彩感だ。全体が同色同類の音楽観となっていて、瞬発力や輝度の高い動的な魅力に欠ける。このあたりは今後の課題だろう。(10月30日、sonorium) 時 幹雄