きれいなきれい〈田添公基・田添明美のブログ〉

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冬山      田添明美

2022年01月24日 11時16分03秒 | 「いたずら」田添明美

うば捨て山に
うばをすてにいく
すてるのは いつも
親だろうとおもうが
うばでもいいじゃないかとおもう

うばや ごくろうだったね
ここににぎりめしがある
やってもいいがよけい未練になるだろうから
うばをここまで
しょってきた私がたべようね

うばはものほしそうに しとしととなく
じょうちゃんを育てたのは
この私なのに
ようなしになったからすてるなんてと
くどくどとかきくどく が
私はよんこめのにぎりめしをたべようか
             たべまいかと
なやんでいるさいちゅうなのできこえない

あれ 雪がふってきた
こごえじんでしまうよぉ
こごえじんでしまうよぉ
とうばはさけぶ
なんのために私がせっかくうばをすてにきた
のかまだ理解できないらしい
すたすたかえろうとすると
とびつくようにとんでくる
とちゅう すってんころりところんで
くちがあく
りっぱな歯だ
すてるにはおしい歯だが
すたすたかえろうとする

雪また雪のなか
とんでいたうばははしり
はしっていたうばはあるき
あるいていたうばははい
はっていたうばはとまった
とまったうばはとまったままだった
すたすたの私の速度にうばはとんでいたので
さいしょ私をおいこしどんどんおいこし
とまった場所は私のすぐうしろだった
すてるにはおしい元気だが
こちらもまけず元気をださぬと
すてるものもすてられない
きょうはうばを出す日なのだから

雪ふる
冬山にはこのようなうばが満載しているのだ
禁止区域なので
みなこっそりと夕暮れにすてる
みなこっそりとこんばんわ
       こんばんわといいかわしながら
山道をくだっていく
やみにまぎれもどってきてしまううばもある
そうだから
もどらぬようもどらぬよう念じながら
しんしん
雪ふる夜道をみなくだっていくのだ

ごろごろと
ほねのちらばる山があるそうな
だれもしらないかおをしているが
だれでもしっていることだ
あれはうば捨て山
あのてっぺんより
ほんのすこしまたほんのすこし
くだったところに私のうばの骨はあるだろう
私のうばは
あれから
もどってこなかった


               H13.4.29