インテグラな日々

本、音楽、そしてスポーツ…!

盗賊と間者

2008-01-29 01:26:42 | 司馬遼太郎


司馬遼太郎さんの短編集「大坂侍」収録の「盗賊と間者」を紹介します。

厳密には、新撰組の話ではありません。盗賊と間者の話です。そこに新撰組局長・近藤勇もかかわってきます。

山崎蒸もちょい役?で登場します。

<内容>
主人公は、盗賊・天満屋長兵衛。

ある日、長兵衛は町方につかまるが、役人の田中松次郎に釈放される。

田中は長兵衛に二つの条件を出した。

一つは泥棒をやめること。

もう一つは若い泥棒・清七の面倒を見ることだった。

そこで長兵衛は佐渡八と名前を改め、清七と、清七の恋人・おけいと屋台のうどん屋を始めた。

佐渡八は清七の願いもあり、新撰組屯所で商いをはじめる。

そんな中、事件が起きる。

役人・田中が新撰組に斬られ死亡したという。

田中に恩義を感じていた佐渡八は驚く。そして清七からすべてを明かされる。

清七の正体は長州藩士の当内十太郎で、おけいは田中の娘だという。

田中は長州藩のために便宜を図ってくれていたという。

佐渡八は田中の仇を討とうと、夜陰、新撰組屯所の近藤勇の部屋に潜入する…。

<感想>☆☆★
この作品のタイトルは「盗賊と間者」ですが、確か最初は違っていたはずです。何だったかな…。「盗賊と間者と…」だった気がします。たぶん「…」がおけいを表す言葉だったと思います。違ってたら、すんません。

この作品の面白いところは、盗賊・佐渡八と近藤の会話ですね。二人のやり取りは面白いです。ちょっと「梟の城」の重蔵と秀吉に似ています。

ただ、一番のポイントはおけいです。

これは深いですね~。

佐渡八は佐渡八なりに田中の仇を討ったつもりでいます。

そんな中、おけいが佐渡八の前に現れる。

彼女は思いがけないことを口走ります。

内心うれしい佐渡八だが、心とは反対のことを彼女に言い、追い返します。

なんか「ルパン三世 カリオストロの城」みたいです。

そして、それだけで終わらず、もう一つエピソードがあります。

いや~、佐渡八を思うと切ないですね。

男性だったら、一度はこんな経験をしているんじゃないでしょうかね。

男の哀愁があふれた話ですね~。

<次回>
同じ「大坂侍」収録の「法駕籠のご寮人さん」を紹介します。これは山崎蒸の話です。

ただいま十六歳

2008-01-25 01:18:46 | 司馬遼太郎



司馬遼太郎の「侍はこわい」に収録されている作品「ただいま十六歳」です。主人公は、若き日の近藤勇です。

<内容>
大百姓の子・勝太は、幼なじみのおえいに好意を寄せていた。

というよりも、おえいと結ばれる運命にあると信じていた。

さらに変わっていたのは、自分がおえいの家来だと思い込んでいることだった。

そんな勝太に対し、おえいはどことなく気味悪いものを感じていた。

そんなある日、勝太は天然理心流の近藤周介に見込まれ、養子になることに。

勝太はおえいに好意を寄せながらも、武士になることを決意する。

そして、月日は流れ…。

やがて、鳥羽伏見の戦いが起こり、新撰組は甲州へ。

主婦になったおえいの前を、近藤勇と名を変えた勝太が通り過ぎていった…。

<感想>☆☆★
なんか、いいですね~。

おえいの目線で見る近藤勇が描かれています。

自分に好意を寄せる幼なじみの男。しかし、何を考えているのか分からず、言うこと、やること、すべて得体が知れない。

そんな二人が急接近する出来事が。

まさに青春の1ページ。「北の国から」の初恋編のようなことが起こります。

運命のいたずらで、どしゃぶりの雨の中、空き家で二人きり…。

そして、おえいが思わず口走った言葉…。

それに対してアンビリーバブルな言葉を返した勝太。

ここいいですね。

「青春ラブストーリー」が、勝太のこの発言で「青春ラブストーリー」ではなく「近藤勇の歴史小説」として成立しています。

そして、主婦となったおえいの前を通り過ぎる勝太改め近藤勇。

おえいの最後の素朴な感想もいいですね~。

<次回は…>
やはり、近藤が出てくる短編「盗賊と間者」を紹介します。

新撰組血風録

2008-01-23 01:28:29 | 司馬遼太郎




本日は、司馬遼太郎の「新撰組血風録」です。

一連の短編を紹介してきて、まとめという感じです。

<感想>☆☆☆
この短編集は面白いですね。いつ読んでもハラハラドキドキします。

それぞれの登場人物が生と死のはざまの中で、己の信念や名を挙げるために鉄の掟のある新撰組で、自分の生涯をかけて何事かをなそうとしている…。もちろん、フィクションも多数ありますが、それがフィクションに思えず、ノンフィクションに思えるところもいいですね。

<幕末>
歴史好きのオレですが、幕末は苦手でした。小、中、高、大学と戦国時代オンリーで、幕末を避けてきていました。

ただ、司馬さんが好きになり、「世に棲む日々」「花神」「歳月」「最後の将軍」「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」などは読みました。

しかし、無理やり読んだ感じで、実は面白いとも思わず、苦痛だったのを覚えています。それほど幕末は苦手でした。

ところが、短編「理心流異聞」を読んで新撰組に興味を持ち、本作を読んで変わりました。

本作が短編集というのも良かったですね。だから、その後に読んだ「殉死」「坂の上の雲」「菜の花の沖」(幕末ものとはいえませんが…)は楽しむことができました。

さらに苦手だった短編「王城の護衛者」「酔って候」なども見返して、非常に興奮して自分でも驚いた記憶があります。それほど、本作は自分にとって重要な作品となりました。

だから…「世に棲む日々」「花神」「歳月」「最後の将軍」「翔ぶが如く」はもう一度読み直すつもりです。

<次回は…>
司馬さんの、近藤勇を描いた短編「ただいま十六歳」を紹介するつもりです。

菊一文字

2008-01-22 02:17:18 | 司馬遼太郎



「新撰組血風録」最後の作品です。主人公は沖田総司です。

前に誰も死なないと書きましたが、間違いでした。

<内容>
沖田は懇意の刀屋のもとに行き、刀の修理を頼んだ。

刀屋は沖田のことが好きで、刀が直るまで名刀・菊一文字を貸すことに。

刀屋にしてみれば、沖田に使ってもらいたくて上げたつもりでいた。

ところが、沖田は別のことを考えていた。

それが思わぬ大事件に発展する。

沖田の前に陸援隊に身を寄せる戸沢鷲郎が現れる。

普段なら軽く切り捨てる沖田だが、借り物の菊一文字が刃こぼれでもしたらいけないと遁走してしまう。

ところが、戸沢はそうは考えなかった。新撰組屈指の剣の使い手・沖田は「自分を見て逃げ出した」と思った。そして、新撰組は大したことないなと。

戸沢は沖田のことを言いふらし、一方で新撰組隊士を連日闇討ちしていく。

怒ったのは土方だった。

沖田を呼び出し、責任を取れと迫る。

病状が悪化し、さらに菊一文字を使いたくない沖田だったが、単身戸沢のもとへ向かう…。

<感想>☆☆☆
ちょっと記憶違いしていました。

オレは沖田の最後の死ぬ場面が印象に残ってましたが、今見返してみると、わずか1ページしか書かれていませんでした。

人間の記憶ってあやふやですね。

この作品も史実かどうか分かりませんが、深い話ですね。

借り物の刀を傷つけたくないばかりに逃亡した沖田のせいで大事件に発展。

一方、状況証拠からいうと「自分を恐れて逃げた」と言って差し支えない戸沢。

しかし、現実的に考えると「そんなはずはない」と分かれば良かった戸沢ですね。

<感想2>
この本は3回ぐらい読んでますが、いつも思うことがあります。それは乱世に身をおく新撰組の壮絶な生き方に一喜一憂するオレが、最後の「菊一文字」を読んでいつも悲しくなることです。

「沖田は戦いの中ではなく、あの若さで寂しく病死したんだよな」と。

沖田、近藤、土方の死は三者三様ですが、多くの人間を殺してきた彼らだからこそ、非業ともいえる死が待っているのかも知れないですね。

※次回は「新撰組血風録」として総評(レビュー)する予定です。えらそ~。

草原の記

2008-01-21 01:05:58 | 司馬遼太郎


司馬さんの「草原の記」を紹介します。

なんで読んだかというと、読みかけの本を忘れたので、本屋で一番薄い本を買おうと思ったからです。

いや~司馬さんの初見本は久しぶりです。「韃靼疾風録」以来、2年ぶりかな…。

<内容>
モンゴル人女性ツェベクマさんの話です。

彼女は、モンゴル語学課卒業の司馬さんがモンゴルを訪れた際に通訳した人です。

その彼女の数奇な人生と、モンゴルの歩み、そしてロシア、中国、日本とのかかわりが書かれた紀行文であり、歴史書であり、エッセイといえる作品です。

<感想>☆☆★
読み終わった後も余韻に浸っています。

実は、ここまで面白いとは思ってなかったです。

なんというんでしょうか。

かつて世界最大の帝国だったモンゴル…。

そこに住む人々はいまだに大地に感謝し、世界最大の騎馬民族の誇りを忘れず、雄雄しく暮らしている。

司馬さんのモンゴルへの郷愁や憧憬が伝わってきました。「街道をゆく」の「モンゴル紀行」も読みたいですね。

<ツェベクマさん>
彼女は司馬さんの一歳下です(上だったかな?)。

もともとはロシア国籍で、その後、満州、中国、そしてモンゴルと激動の人生を歩んでいます。とくに、中国の内蒙古自治区時代に夫が共産党に拘束され、娘とともにロシア、そしてモンゴルへ行くくだりは、まさにかっての騎馬民族の血を受け継いでいる人だなあと思いました。

しかも、数(十)年後、拘束されていた夫がツェベクマさんに会いにきて、そのまま帰らぬ人となるのは、ドラマチックというか、モンゴルという国同様、非常に「詩」的ですね。

<印象に残った言葉>
前に書きましたが、なんで数百年前の出来事が分からなくなるんだろう、という疑問を持ってます。それに対する答えのようなものが書かれていました。

以下です。

「人間は忘れる生き物だ」

「だから、忘れないように紙に書き記すのだ」みたいな。

なるほど…と思いました。

四斤山砲

2008-01-20 01:00:36 | 司馬遼太郎


「新撰組血風録」も、残すところあと二つです。

主人公は、主要メンバーの一人で、数少ない天寿を全うした人物・永倉新八です。

ですが、これはある胡散臭い男の話でもあります。

<内容>
永倉のもとに、一人の男が訪ねてきた。

男は出羽浪人の大林兵庫で、永倉の師匠の弟だという。

大林は永倉のことを知っているが、永倉はまったく心当たりがなかった。

近藤は永倉の師匠筋に当たるという大林の入隊を認める。そして、本人が詳しいというので、砲術師範に。

ここで、二人の男が大林の胡散臭さに気づく。

一人が同じ砲術師範の阿部十郎。

もう一人が土方。

阿部は腐り、土方は山崎蒸に調査を命じる。

やがて、出羽に大林性の武士がいないことが判明。

大林は巧みな弁術で身の潔白を言い立てる。

ここで永倉が登場する。

永倉は幼なじみから、大林が道場の隣に住んでいた商人・忠七だと聞かされる。

永倉は驚いたものの、そのまま捨てておくことに。

一方の阿部。

面白くない阿部は、隊にいるのがイヤになり、伊東甲子太郎一派ではないものの一緒に脱退。

やがて鳥羽伏見の戦いが勃発。

阿部は官軍の砲術師範となり、新兵器・四斤山砲を任される。

そして、狙いを定めた先には新撰組の砲術師範・大林がいた…。

<感想>☆☆★
永倉新八うんぬんというより、阿部と大林がポイントですね。

阿部は砲術の知識も深く、まじめで実直。しかし、思ったより評価されていない。

そこに、アピール上手の大林が入隊する。1の知識しかないのに、10の知識があると言葉巧みにアピールする。そして、自分を良く見せるために、10の知識がある阿部をまるで1の知識しかないような言い方でバカにする。

そして、なぜか組織は大林を評価する…。そして阿部は腐る…。

あります! こういうこと。

で、そんな阿部に正当な評価をもたらす出来事が最後にやってきます。

それが鳥羽伏見の戦い。

彼が四斤山砲で狙いを定めた先に大林がいる。ところが、本当は1の知識しかない大林はうまく大砲を扱うことができない。

大林がラッキー(アンラッキー?)だったのは、これまで大砲を使う機会がなかったこと。だから、彼の巧みな話術で自分の地位を築いてきたわけですが、いざ本番になれば…。

本当のことを知った新撰組も、時すでに遅し…ということです。

<感想2>
なんか、めちゃくちゃ長くなりましたが、↑っぽいことを最近経験しました。だからです。

最後の話は小説の中だけだと思っていましたが、現実にもあるんだな…と思ったしだいです。

<大砲>
今作とちょっと似ているかなと思えるのが短編「おお、大砲」ですね。内容は全く違いますが、大砲を撃つ側と撃たれた側の話です。「アームストロング砲」もそんな感じの話ではあります。

<阿部十郎>
この人は実在の人物なんですね。やはり砲術師範だったそうです。ただ、この話自体はフィクションのようですね。

<永倉新八>
この人は新撰組入隊前から近藤や土方と面識があり、いろいろなエピソードを残している人です。隊で一番強かったとも言われていますし、実際に斉藤一とともに天寿を全うしています。

油小路の戦いでは、敵となった藤堂平助を逃がそうとしたり、明治維新後、芸者となった娘との再会話も有名ですね。

しかも、彼の後日談により、多くの事実が判明したことでも知られています。

信長を撃いた男

2008-01-18 01:28:21 | そのほか


南原幹雄さんの「信長を撃いた男」を紹介します。

南原さんの小説は初めて読みました。主人公は織田信長を狙撃した鉄砲の名人・杉谷善住坊です。彼は甲賀忍者です。

<内容>
甲賀随一の名人で、鉄砲の名手・善住坊は、甲賀の頭領ともいえる六角承禎に呼ばれた。

そこで、織田信長暗殺を命じられる。

善住坊は3度、信長を狙撃するが失敗。

激怒した信長は、蒲生典膳に善住坊生け捕りを命じる…。

<感想>☆☆★
池波さんの「蝶の戦記」を読んで善住坊に興味を抱いていたので、ハードカバーの時から興味を持ってました。

個人的には文庫版まで待ってよかった…と思っております。

ちょっと話にメリハリがなく、漫然と進んでいく感じがしました。

あと、偶然も3回続くと、実力かな、なんて。

一番印象に残っているのは、エロですね。これはものすごい描写です。興味のある方は読んでください(笑)。

ま、おや~とか、あれ~とか思う場面は(けっこう)ありましたが、善住坊が主人公というのがいいですね。

<南原幹雄>
南原さんは独特な文体ですね。まずは会話が現代語というのが多かったです。あと、一文が長いですね。

それと、池波さんともまた違いますが、二人の会話で話が進んでいく場面が多いですね。

<ヒーロー>
仕事がら有名人に話を聞くことがあります。

この本を読んでて二人の人物のことが頭に浮かびました。

(1)某有名高の野球部監督
オレ「初戦はやっぱり緊張しますよね~」

監督「緊張? オレがするわけないだろ!」

オレ「すいません…」

(2)某競技の大物金メダリスト
オレ「決勝で怪我されてましたよね。負けること考えましたか」

メダリスト「負ける? 怪我はあったけど、負けること考えなかったね。だって、オレが一番世界で強いんだから」

※もう一つ。

イチローや野茂、中田英といった一流(だった)選手たちは共通しているところがありますね

3人とも黙して語らず、といったイメージがあります。

凡人のオレなんぞは逆ですね。大したことでもないのに、失敗談でも、成功したかのようにいろんな人にしゃべってしまいます。酔っ払うと、なおさらですね(苦笑)。

え~、何を言おうとしてるか興味を持たれた方は本書を読んでみてください。

なんのこっちゃ!

弥兵衛奮迅

2008-01-17 00:43:36 | 司馬遼太郎



「新撰組血風録」収録作で、実在した人物・富山弥兵衛の話です。

この男はまさに剽悍無比といった人物です。

<内容>
新撰組の伊東甲子太郎は、薩摩との接近を考えていた。

そんななか、元薩摩郷士・弥兵衛と知り合う。彼は私闘から芸州藩士を殺し、身を隠そうとしていた。

伊東は彼を新撰組に入れることに。

弥兵衛は新撰組に身をおきながら、内情を逐一、薩摩の大久保利通に伝えていた。

やがて、土方は弥兵衛が薩摩の間者と見抜き、暗殺を決意。しかし、弥兵衛は薩摩藩邸へ逃亡する。

その後、伊東が暗殺されると、篠原とともに油小路で新撰組と対決する。

時は流れ、鳥羽伏見の戦いが勃発。

弥兵衛は再び間者として、越後に潜入する…。

<感想>☆☆
いや~、弥兵衛はすごい男ですね。この人物も本屋で調べましたが、越後潜入の話などは壮絶です。

彼は根っからのスパイ。死ぬことなんかこれっぽちも怖くなかったんでしょうね。

これほどの男なら、天寿を全うするのかなと思いましたが、壮絶な死が待っています。これを生き延びるのは007ぐらいですね。

さすがに現実とフィクションは違います。

しかし、彼のすごいのはただの死じゃない。その死にぶり。

死して男を挙げたのは、彼ぐらいじゃないでしょうか。

ま、いかにも薩摩男という感じですね。

槍は宝蔵院流

2008-01-16 01:32:01 | 司馬遼太郎


斉藤一が主人公の「新撰組血風録」収録作です。

斉藤がメーンの話ですが、槍の谷三十郎、三十郎の息子で近藤の養子となった周平の話でもあります。

<内容>
助勤・斉藤はある日、近藤から槍の名手が入隊すると聞く。

その男・谷三十郎は息子・喬太郎とともに入隊する。

三十郎は非常に尊大で、かつ上役に隊士の誹謗中傷をするような男だった。

そんななか、近藤が喬太郎を養子に。

近藤は喬太郎が名家のご落胤と知り、自分の跡取りと考えたのだった。

三十郎は近藤と縁戚関係となり、ますます増長。土方や斉藤にも偉そうな態度を取るようになる。

そんななか、池田屋事件が起こり、周平(喬太郎)が希代の臆病者と判明。近藤は周平を遠ざけるようになる。

三十郎、周平らが隊で浮き始めるなか、三十郎が大失態。三十郎は斉藤に罪をなすりつけようとするが…。

<感想>☆☆
斉藤目線の話ですが、やはり三十郎と周平、そして近藤がポイントですね。

傲岸不遜な三十郎が凋落していく様と、三十郎の下でぬくぬくと生活する周平の臆病ぶりと脱走劇。そして名家のご落胤を自分の息子にしたい近藤の計算違い。

そこに、斉藤の豪剣が炸裂する、という感じの話です。

<斉藤一>
新撰組の主要人物の一人ですね。三番隊の隊長だった人です。

新撰組入隊前から、近藤や土方とは顔なじみで、かなりの剣の腕前だったとか。

しかも、すごい人生を送っている人です。

伊東甲子太郎とともに新撰組を脱退し、御陵衛士に参加しています。しかも、実は近藤たちのスパイだったとか。

さらに、海援隊と陸援隊が龍馬と中岡の敵を討つべく紀州藩士を襲撃した天満屋事件がありますが、斉藤は紀州藩士を護衛していたものの生き残っています。

新撰組解散後は会津藩に加わり官軍と戦うも、やはり生き残ります。明治になると、政府軍の一員として西南戦争に従軍。薩摩兵と戦っています。

これだけ、戦いの最前線にいて、天寿を全うするなんて奇跡としか言いようがないですね。

<谷三兄弟>
この兄弟も実在の人たちですね。

長男・三十郎は七番隊の隊長で、宝蔵院槍術の使い手だったといわれています。宝蔵院槍術は、宮本武蔵などで敵として出てくるアレの流派ですね。

次男・万太郎も槍の使い手で、兄よりうまかったそうです。ま、上を含めて諸説ありですが。この人は兄の死後脱退して、天寿を全うしたそうです。

この人が出てくる短編があった気がしますが、なんだったかな。「幕末」収録作だっけ。

三男・周平は「血風録」では三十郎の息子で、実は名家のご落胤という設定です。脱走後の行方は分からないとありますが、やはり天寿を全うしたそうです。

龍馬 最後の真実

2008-01-12 01:30:52 | そのほか


菊地明さんの「龍馬 最後の真実」を紹介します。これは坂本龍馬にまつわる史実を検証する本です。

1 龍馬誕生
2 土佐脱藩
3 薩長同盟
4 船中八策
5 龍馬暗殺

の5章から成っています。

<感想>☆☆
やはり、こういう本は面白いですね。それほど龍馬について知っているわではありませんが、先月、長崎で亀山社中跡や龍馬像を見てきたので非常に興味をそそられました。

<感想2>
いわゆる史実というものを、いろいろ検証しています。

たとえば…

※龍馬が脱藩するとき、刀を与えたのは誰か。

昔は乙女さん。「竜馬がゆく」からお栄さん。

※竜馬暗殺者は誰だ…
新撰組なのか、見廻組なのか…。

<龍馬暗殺>
やはり、ここには引き付けられました。というのも、見廻組の人間がやったと言っているのに、いまだに誰がやったか判然としない…といわれる。これって不思議だと思っていました。

菊地さんは、やはり自供している見廻組の犯行と言っています。で、なぜいまだに新撰組の犯行とも言われるのかを検証されています。非常に説得力のある説でした。

簡単に言うと、最初から新撰組と決め付け、さまざまな証拠を強引に結びつけたと言っています。本書を読む限り、菊地さんの説に納得です。興味のある方は読んでみてください。

<感想3>
歴史って面白いですね。たかだか、何百年前の出来事なのに真実が分からない…。しかも、当事者たちが違う事実を書面に書き残す…。そこには、それぞれの思惑や記憶違いがある…。う~ん、深いですね~。

<あとがき>
龍馬は、いつしか虚飾に包まれたとあります。これは、司馬さんの「竜馬がゆく」の前のことを言っています。

龍馬が明治政府の役職を断ったという話や、日露戦争時に皇后の夢に出てきたという話は、歴史家の虚飾や、不遇を囲った旧土佐藩の人間による作り話の可能性があるそうです。

ただ、伝えられる龍馬像をすべて虚飾として否定することはできないとあります。
虚は虚として、実は実として見ない限り、龍馬の見ていたものは見えないそうです。

そのために、伝説が崩れる場合もあり、新たな一面が見つかる場合もある。筆者はそれでも最終的な龍馬像に接したかったと言っています。

<坂本龍馬>
本当は「龍馬」ですね。司馬さんは「竜馬」としています。これはフィクション色が強いから字を変えたと何かで読んだことがあります。

しかし、不思議な男ですね。一介の浪人なのに、松平春嶽に会ったり、薩長の巨頭の西郷や桂と対等に渡り合ったり。郷士の身分で、土佐の後藤や板垣にも臆することがなかったわけですから。

本当に器が大きいというか、人間的魅力にあふれています。そんな竜馬も33歳で亡くなるんですね。それも、明確な理由もあまり見出せない理由で暗殺されるわけですから。歴史の皮肉というべきでしょうか。

最後に、この龍馬の名言はいいですね。彼の生き方そのものですね。

「世の人は我を何とも言わば言へ 我が為すことは我のみぞ知る」