「新撰組血風録」も、残すところあと二つです。
主人公は、主要メンバーの一人で、数少ない天寿を全うした人物・永倉新八です。
ですが、これはある胡散臭い男の話でもあります。
<内容>
永倉のもとに、一人の男が訪ねてきた。
男は出羽浪人の大林兵庫で、永倉の師匠の弟だという。
大林は永倉のことを知っているが、永倉はまったく心当たりがなかった。
近藤は永倉の師匠筋に当たるという大林の入隊を認める。そして、本人が詳しいというので、砲術師範に。
ここで、二人の男が大林の胡散臭さに気づく。
一人が同じ砲術師範の阿部十郎。
もう一人が土方。
阿部は腐り、土方は山崎蒸に調査を命じる。
やがて、出羽に大林性の武士がいないことが判明。
大林は巧みな弁術で身の潔白を言い立てる。
ここで永倉が登場する。
永倉は幼なじみから、大林が道場の隣に住んでいた商人・忠七だと聞かされる。
永倉は驚いたものの、そのまま捨てておくことに。
一方の阿部。
面白くない阿部は、隊にいるのがイヤになり、伊東甲子太郎一派ではないものの一緒に脱退。
やがて鳥羽伏見の戦いが勃発。
阿部は官軍の砲術師範となり、新兵器・四斤山砲を任される。
そして、狙いを定めた先には新撰組の砲術師範・大林がいた…。
<感想>☆☆★
永倉新八うんぬんというより、阿部と大林がポイントですね。
阿部は砲術の知識も深く、まじめで実直。しかし、思ったより評価されていない。
そこに、アピール上手の大林が入隊する。1の知識しかないのに、10の知識があると言葉巧みにアピールする。そして、自分を良く見せるために、10の知識がある阿部をまるで1の知識しかないような言い方でバカにする。
そして、なぜか組織は大林を評価する…。そして阿部は腐る…。
あります! こういうこと。
で、そんな阿部に正当な評価をもたらす出来事が最後にやってきます。
それが鳥羽伏見の戦い。
彼が四斤山砲で狙いを定めた先に大林がいる。ところが、本当は1の知識しかない大林はうまく大砲を扱うことができない。
大林がラッキー(アンラッキー?)だったのは、これまで大砲を使う機会がなかったこと。だから、彼の巧みな話術で自分の地位を築いてきたわけですが、いざ本番になれば…。
本当のことを知った新撰組も、時すでに遅し…ということです。
<感想2>
なんか、めちゃくちゃ長くなりましたが、↑っぽいことを最近経験しました。だからです。
最後の話は小説の中だけだと思っていましたが、現実にもあるんだな…と思ったしだいです。
<大砲>
今作とちょっと似ているかなと思えるのが短編「おお、大砲」ですね。内容は全く違いますが、大砲を撃つ側と撃たれた側の話です。「アームストロング砲」もそんな感じの話ではあります。
<阿部十郎>
この人は実在の人物なんですね。やはり砲術師範だったそうです。ただ、この話自体はフィクションのようですね。
<永倉新八>
この人は新撰組入隊前から近藤や土方と面識があり、いろいろなエピソードを残している人です。隊で一番強かったとも言われていますし、実際に斉藤一とともに天寿を全うしています。
油小路の戦いでは、敵となった藤堂平助を逃がそうとしたり、明治維新後、芸者となった娘との再会話も有名ですね。
しかも、彼の後日談により、多くの事実が判明したことでも知られています。