続いて「真説宮本武蔵」に収録されている「京の剣客」です。
<内容>
これは、武蔵が倒したとされる吉岡憲法の話です。
まず出だしから引き込まれます。
剣の達人・憲法は、弟・又市郎に対してどこまでも酷薄です。
しかし、又市郎には一つの思いがあります。オレは兄を超えたのではないかと。
事実、憲法は道場に来なくなり、太りだします。そして、対外試合は全部自分に任せる…。
弟の鬱屈した思いがたまります。
そんな中、二つの事件が起こります。
一つは、兄・憲法が夜な夜な森に出没しては鳥が騒ぐといううわさ。
もう一つは、宮本武蔵の挑戦状。
当然、又市郎が戦うつもりでいたのに、今回ばかりは憲法が闘うという。
又市郎は怒る。アニキに勝てるのか?と。
アニキは言う。
負けるかもしれない。しかし、お前なら確実に負けるだろう。
弟は言う。
では、ここでどちらが強いか勝負しろ!と。
<感想>☆☆☆
これは面白いですね。
まず第一に弟の兄への鬱屈した思い。この二人のやりとりが面白い。
次に、憲法の深夜の謎の行動。憲法は深夜何をしているのか。なぜ、鳥が騒ぐのか。
さらに、憲法と武蔵の戦い。
審判は引き分けを宣告する。
しかし、武蔵は自分の勝ちを譲らない。なぜなら、憲法の白いハチマキは血ににじんでいるではないかと。
しかし、審判は言う。なら、おぬしの赤いハチマキを取ってみろと。武蔵は最後までハチマキを取らなかった…。
<最後のエピ>
これがまたいいんですよね。
それから数十年後。時は江戸時代。武蔵が熊本で暮らしていた時のこと。
当時、辻斬りが流行っていたとのこと。
そこへ、酔っ払った商人のオヤジがふらふらと通りかかった。
そこで、2人の辻斬りが斬りかかると、オヤジは扇子で軽くいなして歌を歌いながら去っていく。
驚く辻斬りが「あなたはだれだ?」と問うと「けんぽうさ」と答えたとか。
う~ん、いいね、これ。
武蔵は肥後の国で憲法を殺したと言いながら、当の憲法は京で伝説を作っていた。
思うに、すごい人は年を取ってもすごいということ。マサカリ村田がいまだに140キロ出すわけですからね。