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インテグラな日々

本、音楽、そしてスポーツ…!

天と地と

2009-01-05 22:39:01 | 海音寺潮五郎



2008年最後に読んだ海音寺潮五郎さんの代表作「天と地と」を紹介します。上、中、下巻からなり、映画にもなっていますね。

<感想>☆☆☆
正直、ここまで面白いとは思っていなかったです。油断しました。自分にとって上杉謙信という人が特別な存在になりそうです。読み終わった後、一度読んだことがある吉川英治さんの「上杉謙信」を読み始めましたし、「天と地と」の中でどれが史実でどれがフィクションかを調べるため、学研から出ている謙信の本も買ってしまいました。

自分は歴史上の人物は小学生のころから伊達政宗が好きなんですが、この本の謙信に出会って、自分の中で政宗を抜く存在になるのではないかと驚いたぐらいです。

<どこがいいのか>
謙信の生き方がいいですね。正義というものがなかった時代に、ひたすら義を貫いた謙信。しかし、それは常人と違うだけに、異常ともいえたかもしれません。なんか、その辺の不器用さがいいですね。しかも、海音寺さんはそこに乃美という女性とのプラトニックというか、不器用な恋を絡めていきます。ここがまた良かったですね。

謙信は望めば何でも手に入れられる身分なのに、あえて自分の欲望を通そうとしなかった。家来たちの争いに嫌気がさして出家しようとしたところも驚きました。そのように清廉潔白に生きようとしたのは、謙信の複雑な生い立ちにもよるのでしょうね。

<物語>
謙信の父親時代から始まり、謙信が生まれ、やがては成長し、武田信玄と川中島で死闘を繰り広げるまでが描かれていきます。また、謙信のもう一つのハイライトである、北条家の小田原城を包囲したエピソードも描かれています。有名な忍者、飛び加藤の話も登場します。残念なのは織田信長とのかかわりがないこと、川中島の戦いで物語が終わるところですかね。

<天と地と>
2008年に読んだ本の中で、この作品が自分のナンバーワンです。正直なところ、近年面白かった本は「坂の上の雲」とか「おろしや国酔夢譚」など、物語の主人公のことを詳しく知らなかった人のものばかりでした。なので、謙信という知識としてよく知っている人物の小説で面白いと感じるとは思ってもみなかったです。まして、吉川さんの「上杉謙信」を読んだ時はそれほど印象に残らなかったので。

今作を読んで、ますます多くの作家の多くの作品を読みたいと思うようになりました。

寺田屋騒動

2008-02-05 02:27:19 | 海音寺潮五郎


本日は、海音寺潮五郎さんの「寺田屋騒動」を紹介します。

これは「列藩騒動録」が面白かったので、続けて買った本です。小説ではなく、史伝ですね。

<内容>
幕末の有名な事件、寺田屋騒動について検証しています。

寺田屋騒動は、有馬新七ら薩摩藩尊皇派たちが伏見の寺田屋に集結し、
関白九条尚忠や京都所司代酒井忠義を襲撃しようと企てますが、

倒幕など頭になかった島津久光によって粛清される凄惨な事件です。

本作は、事件に触れる前に、そもそも天皇と幕府との関係、そして島津のお由羅騒動、安政の大獄など当時の時代背景などを説明してからスタートします。

そして、島津久光、大久保利通、西郷隆盛ら薩摩の主要メンバーの動きと、寺田屋騒動の薩摩内外の主要メンバー(真木和泉、田中河内介ら)、彼らを上意討ちしたメンバー(奈良原繁ら)の動きが描かれていきます。

<感想>☆☆★
あまり知らなかった寺田屋騒動がよく分かりました。

それ以上に大きかったのが、大久保と西郷の人間像を知ったことですね。

今までは、二人は幼なじみで、西郷は器が大きく、人望がある。大久保は策士で、実務肌というような印象しかありませんでした。

そんな正反対の二人が、なぜ仲が良いのか、イマイチ分かりませんでした。

ところが本作を読んで分かった気がします。

大久保は策士ですが、ただの策士ではなかったんですね。

西郷は口先だけの男が嫌いだったようですし、大久保は口と行動が伴い、さらに死を恐れない男だったから親友といえる関係だったんでしょうね。

一番インパクトを受けたのは、

桜田門外の変のあと、水戸藩の人間が薩摩を頼って現れた時のことです。

薩摩の人間は水戸藩の人間を助けようとしますが、大久保一人は反対します。

「見殺しにしろというのか」と迫る血気盛んな仲間に対し、

「そうだ。見殺しにすべきだ。大事の前の小事だ」と言います。

「そして、今後もこういう人間は来るが、見殺しにすべきだ」と言います。

自分はこれに衝撃を受けましたね。

海音寺さんは「大久保はあっぱれ」と言っていますが、自分もそう思いました。

客観的に見て大久保の発言は非常に正しいわけですからね。つまり情や意地に流されず、大局を考えろと言っているわけです。そして、その行為を非難されてもいいじゃないかと。そんなものは小事だと。

しかも、大久保は仲間に斬られるのも覚悟で言っているわけですからね。

このくだりを知るだけでも本書を読む価値はありますね。

<大久保>
彼が薩摩にいなかったら、久光は倒幕には動かなかった。

薩長同盟もなく、(本書を読む限り)西郷も動かず、明治時代はいつか来たでしょうが、かなり遅いものになっていた気がします。

そう考えると、大久保という男の功績は非常に大きいものだったのですね。

大久保という男に興味を覚えました。

<翔ぶが如く>
本書を読んで、幕末の薩摩藩の動きが手に取るように分かりました。

だから、本書を読んでいる時、たびたび、司馬さんの「飛ぶが如く」を読みたいと思いました。

前は挫折しましたが、今読んだらぜったい面白いと思うよなと…。

<余談>
あと面白かったのは、長州藩の有名なエピソードのことが書かれていたことです。

長州藩主と家老が「そろそろ倒幕を…」「いや、まだ早い」みたいなことを言う有名な話です。

海音寺さんはこれは作り話ではないかと言っています。その理由は割愛しますが、本当か嘘か分からないのも歴史の面白さですね。

<次回は>
新撰組に戻り、司馬さんの「燃えよ剣」を紹介します。

黒田騒動

2007-09-24 01:03:50 | 海音寺潮五郎



久々「列藩騒動録」から「黒田騒動」を紹介します。

正直、お家騒動は「伊達騒動」や「島津騒動」しかしからないので、予備知識もなく、読んだしだいです。

<異色?>
で、この黒田騒動。読み終わってだいぶ経っているので、あまり覚えていないのですが、ほかのお家騒動とはだいぶ違った話だった気がします。

<内容>
黒田長政の子・忠之の時代に起きた騒動。忠之は、家老・栗山大膳らを遠のけ、幼少時代から仲の良い倉八十太夫を家老にし、気ままな政治をとり始めた。一方、面白くない大膳はことあるごとに忠之と対立する。

やがて、身の危険を感じた大膳は忠之に毒殺されると思い、病気と偽り、家にこもる。一方、忠之は仮病を言い立てる大膳に腹を立て、強行に城に出仕するよう命令する。

そんな中、大膳は幕府に訴えを起こす。

忠之が謀反を起こすと…。


<評価>☆☆
お家騒動といえば、権力争いが原因です。このお家騒動も元をただせばそうなんですが、その後が違う。

もともと、藩主・忠之が、あれこれとうるさい家老・大膳をうとましく思い、自分と仲の良い十太夫を家老に抜擢して筆頭家老にする。面白くない大膳はほかの家老を巻き込んで、忠之と対立する。

ここまではだいたいお家騒動の常道です。

<その後>
藩主と対立する栗山大膳の行動に驚かされます。もともと傲岸な彼が主君に訓戒をたれすぎたのも原因のひとつです。

その彼が、主君に毒殺されると思い、幕府に「忠之は謀反を考えている」と訴える。

当時の封建社会にあって、ここまで自分を守るために飛躍するのも珍しいと思います。ところが、ここからがまたすごい。

当然、幕府はこの事件を調べ始める。身に覚えのない忠之は、どうどうと申し開きをする。しかも、一時は大膳の味方をしていた家老どもも、幕府に対して大膳の非を訴える。

幕府もどうやら大膳がおかしいと考える。

<その後2>
大膳は、幕府から叱責されると、こともあろうに「お家を守るため、ひいては主君を守るために嘘をついた」という。

幕府は、大膳の真意を知り、黒田家のお家取り潰しをせず、大膳は主家を守った英雄として扱われたという。もちろん、大膳は死罪にはならなかったそうです。

なんとも、奇妙な話ではないですか。

<大膳>
はたから見ると、保身のために藩主が謀反をしたと嘘を言う。ばれると、藩主を救うために嘘を言ったという。

でも、その藩主とはずっと冷戦状態…。

そして、幕府は彼の忠義をほめたという。

世の中って、不思議なことが多いですね…!

<最後>
まったく海音寺さんのことに触れてませんが、今作は「列藩騒動録」の話でも異色です。それだけに「本作がどうの」というより、黒田騒動のみについて語ってしまいました。

ま、政争は真実がすべて語られず、うやむやにされるのが世の常ですからね。この騒動の本質は何なのか…。それは今後も分からないでしょうね。













仙台城

2007-09-13 02:01:05 | 海音寺潮五郎


「会津若松城」に続き、海音寺さんの「日本名城伝」から「仙台城」を紹介します。

この短編を読みたくて買ったわけですが、評価は…☆です。そんなに読み応えはなかったですね。まあ、この本は小説ではなく、史実を紹介しているわけですが。

<内容>
仙台城といえば、独眼竜伊達政宗が建てた城ですが、この話の中心は支倉常長と後藤寿庵という二人のキリスト教徒の話です。つまり、仙台城はキリスト教徒の死の上に存続したという話です。

<支倉常長>
ある意味、政宗より有名な人物で、歴史の教科書に肖像画とともに紹介されていますね。政宗に派遣され、スペイン、イタリア、メキシコに行った人物です。未読ですが、遠藤周作の「侍」は彼を題材にした小説とのことです。本文中には、支倉常長とは出てこないそうですが。

常長は日本人で初めてヨーロッパとアメリカ大陸を訪れた日本人です。ローマ法王に謁見するなど、その華やかな前半生の反面、仙台帰国後は幕府のキリスト教弾圧の下、不遇な生活を送ったようです。

<後藤寿庵>
この人物についてはよく知らないのですが、かなり有名な人物だったようです。政宗の家臣で、用水路を作り、現在も残っているそうです。政宗の「寿庵自身の信仰は許す。人に信仰を勧めたり、自分の信仰を公にはするな」という幕府から見ればとんでもない大あまな命令を拒んだ男だそうです。最後は、仙台藩を逃亡したそうです。

<キリスト教>
無神論者の私ですが、高校はキリスト教系の学校に行ってました。理由は、受かった学校の中で偏差値が高かったからです。ま、地元の人たちに言わせると、「どこが高いんじゃい!」といわれそうですが、もうひとつの受かった高校より、といえば納得していただけるでしょう。

ぼくは体質的にキリスト教は肌に合いませんでしたが、場所がら洗礼名を持っている同級生もいました。そいつはオールバックの髪型でしたけど…。

「仙台城」の話にもありますが、キリスト教徒の受けた弾圧というのは、それはすさまじかったようです。このあたりは、キリスト教徒だった遠藤周作の「王国の道」に詳しいです。この作品は、シャムで活躍した山田長政の話ですが、一方でペトロ岐部の話でもあります。

<ペドロ岐部>
この人はキリスト教徒で、日本人で始めてエルサレムを訪れた人です。しかも、インドからエルサレム、そしてローマと単独で歩いていったそうです。彼のすごいのはその後、欧州で司祭になり、そしてキリスト教を弾圧している日本に戻り、最後は壮絶な拷問を受けても棄教せず亡くなったということ。いつか、この人を題材にした「銃と十字架」(遠藤周作)を読みたいと思います。でも、売ってないんだよな…。

<伊達政宗>
話は脱線しまくりですが、政宗のキリスト教への思いはどこにあったのでしょうか。信長のように、異国文化の吸収(もしくは、当時の仏教と違い、布教への真摯な態度への好感)でしょうか、それとも、巷間よくいわれたスペインとの同盟にあったのでしょうか。政宗が本当にスペインと同盟し、打倒幕府を考えていたとは僕は思いません。そんな夢想家ではなかったと思います。ま、それについては、また考えてみたいと思います。


日本名城伝 会津若松城

2007-09-11 02:40:24 | 海音寺潮五郎


いきなり、海音寺潮五郎さんの「日本名城伝」から「会津若松城」を紹介します。

先週の土、日、本屋で本書を見つけたので、さっそく取り上げます。惹かれた理由は、大好きな伊達ものを発見したためです。

これは「城」にまつわる話を集めた短編集で、最初に目がいったのは「仙台城」でした。しかし、それほど…でもなかったので、おもしろかったこちらを先に取り上げます。

<内容>
話は3つに分かれており、最初は伊達政宗が芦名氏の会津若松城を狙う話で、真ん中は政宗以降の歴代藩主を取り上げ、最後は幕末の藩主・松平容保と白虎隊の話。

<政宗と芦名氏>
政宗ファンのオレとしては、非常にワクワクしながら読ませていただきました。海音寺さんは政宗にまつわる本を小説「伊達政宗」や「武将列伝」で取り上げ、政宗観というのは毎度のことながら勉強させていただいております。

今回は、政宗への天下取りの野望のすさまじさが、逆に悪い方向にいって、芦名氏の後継者争いに敗れたというくだりが勉強になりました。とはいえ、一年後、政宗は芦名氏を滅ぼしますが…。


ぼくは長年、なぜ伊達小次郎(政宗の弟)が除かれ、佐竹義宣の弟が芦名家を継ぐことになったのかと疑問に思っていました。でも、海音寺さんは明快に、その理由を告げられております。政宗の芦名家乗っ取りがあくど過ぎたから、と。そら、芦名家家中も政宗に嫌悪感を持つよな…。

海音寺さんは、もっとうまいやり方があったはずと言っています。ま、その辺のところが、信長、秀吉、家康に及ばない政宗なんだよなと、ひとり納得したしだいです。

<芦名盛氏>
芦名家きっての名将で、東北の大名としては政宗、最上義光とともに有名な人物です。本書にも登場してきますが、彼がもう少し長く生きていたら、政宗の会津制覇も時間がかかったと思います。個人的に思うのは、なぜ誰も彼の小説を書かないのでしょうか、ということ。誰でもいいので、書いてください。僕は買います!

<蒲生氏郷>
本書のなかほどに、文字数は少ないですが、政宗との因縁が書かれています。政宗が秀吉に没収された会津(50~60万石?+30万石)をもらったのが氏郷です。

政宗にしたら自分が征服した土地をもらった出来星大名という思いがあったでしょうが、氏郷にしたら天下を狙っていただけに「秀吉めにこんな田舎に移されてしまった」との思いがあったのでしょう。しかも、氏郷は上杉家の家老・直江山城守とともに政宗を胡乱なヤツという目で見ていただけに、両者の対立は避けられなかったのでしょうね。

このへんのくだりは、松本清張さんの短編「奥羽の二人」に詳しいです。

<松平容保と白虎隊>
本書は突然、政宗の話から幕末に飛びます。ちょっと唐突な感じもしますが、白虎隊のくだりは悲痛です。あまり白虎隊のことは知りませんが、これを読むと大人の隊長が子供たちで編成されている隊士に嘘を言って戦線から逃亡します。取り残された彼らはその若さゆえの正直さで非業な死を遂げます。

いつの時代も大人はずるく、子供は正直で一途なんですね。そんなオレもいい大人ですが…。

海音寺さんはこのあと、悲痛なメッセージを伝えております。

「子供を戦に借り出して勝ったためしはない。そこまで窮したら降伏すべきである。子供は将来のために残すべきである。これは民族や国家の知恵として銘記すべきである」

<評価>☆☆





















伊達騒動

2007-09-07 02:37:35 | 海音寺潮五郎

海音寺潮五郎さんの「列藩騒動録」から「伊達騒動」を紹介します。

個人的に「伊達もの」に目がありませんが、伊達騒動そのものはよく知りません。なにせ、日本史ではなく、地理を選択していたので…。

<伊達騒動>
江戸時代の有名なお家騒動で、4代藩主・綱村の時代。

綱村は幼少だったので、独眼竜政宗の子・宗勝が後見役となり実権を握る。宗勝は家老・原田甲斐とともに権勢をほしいままにした。

そんななか、伊達一門の伊達安芸宗重が所領問題から宗勝らを糾弾し、幕府に訴えを起こす。

そして、大老・酒井忠清邸に関係者が集められた。そこで、とんでもない事件が起こる。

甲斐がその場で安芸に切りかかり殺害。甲斐もその場で切られ、死亡する。
(ここで、何があったのかは謎)

関係者は処罰されたものの、伊達家は取り潰しを免れた。

そして、原田甲斐はお家乗っ取りを企てた大悪人といわれるようになる。

<樅の木は残った>
「伊達騒動」を題材にした山本周五郎さんの長編小説で、NHKの大河ドラマにもなっている有名な作品。僕も10代の時読んで、非常に興奮したことを覚えています。いつかレビューでも取り上げたいと思います。めちゃくちゃ面白いです!!

この作品は、悪人・原田甲斐を主人公にし、実は甲斐は悪人ではなく、伊達家を救った人間として描かれています。この小説により、原田甲斐の評価が180度変わったといわれています。

<原田甲斐>
「樅の木は残った」は非常におもしろく、僕にとって忘れられない小説のひとつです。しかし、たかがと言ったら怒られそうですが、たかが小説で、(くどいようですが、すごく面白いです)人間の評価が悪人からヒーローに変わったということが僕には信じられません。

ただ、誤解しないでいただきたいのは、「樅の木」を否定しているわけではありません。もう一度言いますが、とても面白いです。☆☆☆☆☆(満点)です。

<本書>
やっとこの本のことに触れます…。

長年「樅の木」を絶賛する一方、原田甲斐英雄説はひとつの意見であって、しかもこれは小説(フィクション)なんだから…、という思いもありました。

それだけに、違う意見はないのかな、と思い、本書を買ったしだいです。

で、なんと「樅の木は残った」についての言及がありました。

海音寺さんは以下のように書いています。

原田甲斐はかつて言われたような悪人ではない。しかし「樅の木は残った」にあるような、智謀豊かで、幕府の伊達取り潰しを阻止したようなヒーローでもなかったと思う。(理由は本書を読んでください)

ま、それだけなんですが…。

違う意見もあるんだなと思えたのがうれしかっただけです。

なんのこっちゃ…。

真実は原田甲斐に聞いてみないと分かりませんね!

<「伊達騒動」評価>☆☆☆☆☆(満点)








 

列藩騒動録 島津騒動

2007-09-02 01:37:20 | 海音寺潮五郎



今回は、気分的なものもあって、海音寺潮五郎の「列藩騒動録」(講談社文庫)を紹介します。この作品は、上、下巻で、江戸時代のお家騒動を題材にした本です。その中で、最初のエピソード「島津騒動」を取り上げたいと思います。

<海音寺潮五郎>
海音寺さんの小説は、それほど読んでいません。過去読んだ作品は「武将列伝」「悪人列伝」「伊達政宗」「蒙古来たる」です。この作品は非常に面白く、すばらしい作品だと思います。買ったきっかけは「伊達騒動」があったためです。これについては「伊達騒動」、もしくは山本周五郎の「樅の木は残った」のときにじっくり語りたいと思います。


<評価>☆☆☆☆☆(満点)
「列藩騒動録」上巻の「島津騒動」を紹介しようと書いているわけですが、☆3つの評価は上、下巻あわせての評価です。この島津騒動に関しては☆☆☆☆です。これは、有名なお由羅騒動について語った作品です。

<内容>
幕末。薩摩藩主・島津重豪(しげひで)は豪邁な藩主として知られた。わがままと贅沢は度を越し、薩摩藩は多大な借金を背負うことに。そこで、重豪は隠居し、子の斉宣が当主となった。しかし、重豪はやがて自分を否定した改革を行う斉宣を隠居させ、孫の斉興に家督を継がせる。斉興はひたすら倹約に励み、借金を少しずつ返済していく。

斉興には有名な子が二人いた。幕末の賢侯の一人、斉彬と、西郷隆盛が大嫌いだった久光。とくに斉彬は薩摩藩ではその英邁さは評判で、幕府も注目していたという。なにより、重豪がとてもかわいがっていたそう。

しかし、父の斉興は借金返済に苦心しているだけに、借金の元を作った重豪に似た斉彬になかなか家督を継がせようとはしなかった…。そんななか、お家騒動が勃発していく。

<感想>
海音寺さんは鹿児島出身で、なおかつ薩摩藩の武士が先祖だっただけに、この作品への思い入れはかなりのもの。読んでて非常に面白かったのは、従来よく耳にする説を海音寺さんが取っていないこと。

お由羅騒動といえば、斉興の側室・由羅が自分の息子・久光を島津家の当主に据えたいばかりに、久光の兄で、名君といわれた正夫人の子・斉彬の子供をことごとく毒殺した上、斉彬も毒殺したというもの。

しかし、海音寺さんはそうではないという。これが非常に説得力のある説。毒殺は本当だという。ただ、殺したのは由羅ではなく、父の斉興だという。その理由や証拠などは本書を読んでもらいたが、オレが言いたいのは「なぜ、由羅のせいになったか」ということ。

海音寺さんは、薩摩藩士(西郷や大久保を含め)は斉興が斉彬を毒殺したことをうすうす気づいていたという。しかし、藩主である斉興を非難することはできない。すると、薩摩とはまったく関係ない、江戸の町人の娘であり、斉興が寵愛する由羅のせいにするしかない。すべての原因は由羅だ。彼女が自分の息子の久光に家を継がせたいためだ、と。

もし、この説が本当なら、由羅にしてみれば、まさにいい面の皮。自分は潔白なのに、世紀の大悪人扱いされたわけだから。ただ、これにしたって誰も真実は分からない。山本周五郎が「樅の木は残った」で、大悪人・原田甲斐を世紀のヒーローに変身させたけど、これだってどうだか…。

ある意味、歴史小説家という人間は神をも恐れぬ不遜な行為をしている人たちかなとも思う。だって、実際歴史を見ていないのに、書き手の思惑で悪人にしたり、英雄にしたり…。勝手に(根拠はあるんだろうけど)人間の善悪を決めてしまうわけだから。

なんか、小難しいことばかり書いてしまいましたが、この一連の作品は「人生とはなんぞや」。それは「不条理の連続だ」という人類の歴史が書かれた本だと思います。オレはいろんな意味で考えさせられました。

みなさん、社会の不条理を感じたとき、読んでみられては…。なんか、不満がたまっとるな…。仕事で行き詰まりを感じている最近のオレのどストライクに入ってきた本です。

ま、明日は明るく、司馬さんの「最後の忍者」にいきたいと思います。