井上靖さんの「おろしや国酔夢譚」を読みました。
いや~面白かったですね。「ジョン万次郎漂流記」にしろ「菜の花の沖」にしろ、江戸時代の漂流物は外れがないですね。
<内容>
これは江戸時代に実在した大黒屋光太夫の話です。
彼は船の船頭で、台風に遭ってアリューシャン列島まで流されます。
光太夫ら16人は何とか日本に戻ろうとしますが、ロシア人にオホーツクに連れて行かれ、さらにはイルクーツク、ヤクーツク、そして当時の首都であるペテルブルグ(モスクワより西)まで行くハメになり、最終的に光太夫ともう一人が日本に戻ってくるという実話を基に描いた小説です。
緒形拳主演で映画にもなっています。いつか、見たいですね。
<感想>
☆☆☆の満点です。
とにかく、すごい話です。
鎖国時代の日本の船乗りが、初めて経験する異国人とその文化。ロシア語をしゃべれない彼らを襲う想像を絶する寒さ。
一人、また一人、アリューシャン列島で、オホーツクで、イルクーツクで仲間が死んでいきます。
ジョン万次郎のように人間力ではいかんともできないロシアの寒さと閉鎖的な国柄が立ちふさがります。
読んでで何度絶望的な思いを抱いたことやら。本当に光太夫は日本に帰ってきたのかと。
ま、ジョン万にしろ、高田屋嘉兵衛にしろ、この光太夫にしろ、当時の船乗りは稀有な人間力を持った人間が多かったようですね。
光太夫がロシアの女帝エカチェリーナに謁見しただけでもすごいことですね。
<感想2>
この本を読んで参考になったのは、与えられた不幸を楽しめるかということです。
この中の登場人物は、年齢に関係なく、自分の不幸を悲観する人間はあっけなく死んでいきます。
ところが、不幸を不幸と思わず、楽しむ人間には未来が開けていきます。
深いっすね。
<余談>
吉村昭さんも「大黒屋光太夫」の小説を発表していますね。この人の小説は読んだことがありませんが、面白いらしいので、ぜひ読んでみたいです。
<余談2>
ま、どうでもいいことですが、
本書のタイトルは
「おろしや」と「国酔夢譚」と分かれると思ってましたが、
「おろしや国」と「酔夢譚」ですね。
読み終わった後に気づきました。
おろしや国はロシア国のことでした。