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鈴木朝夫のメタンハイドレートのこと、もっと知りたい・・・その2 メタンハイドレートとは

2011-05-22 | 2011年2月~の記事

鈴木朝夫のメタンハイドレートのこと、もっと知りたい

・・・その2 メタンハイドレートとは  

                     鈴木 朝夫 (高知工科大学名誉教授・東京工業大学名誉教授)

燃えるメタンハイドレート

画像出展:ウイキペディア メタンハイドレート 

 

2) メタンハイドレートとは


{ハイドレートの結晶構造は水の泡} 包接化合物(クラスレート)の一種である。メタンハイドレートでは、水分子が水素結合で作る立体網目のカゴ毎に、メタン分子が収まっている。立体網目は、水分子が作る正五角形の面から成る正12面体(Sカゴ)が2個、正五角形12面と正六角形2面の計14面から成る14面体(Mカゴ)が6個の割合で形成されている。カゴの各面は両側の2つのカゴとの共有であり、従ってMカゴの正六角形は、接続している隣のMカゴの正六角形と共通になる。Mカゴは一線に連続していることになる。また各辺は3つのカゴの共有であり、頂点は4つのカゴの共有である。この立体構造は石鹸水の泡と良く似ている。

{ハイドレートの結晶構造は立方体}
 立方体単位胞の8つの頂点には正12面体のSカゴが位置するので、単位胞あたり1個に相当する。向きを変えた中心の1個と合わせてSカゴは2個である。14面体のMカゴは一直線に並ぶが、横に(X)、縦(Y)に、奥(Z)にと3方向に向いている。立方体の面には2個づつ配置されて計12個になるが、隣の面と共有するので、単位胞の所属は6個になる。これらのカゴの全てにメタン分子が入ればその数は合計で8個である。メタン分子1個は5.75個の水分子で囲まれている勘定になる。なお、MカゴにNbを、SカゴをSnにと置き換えれば、それは超伝導金属間化合物のNb3Snの結晶構造のA15構造になる。

{ハイドレートから取り出せせるメタンは}メタンハイドレートに含まれるメタンを気体として取り出せば、その体積は最大で170倍になる。しかし、メタン分子の充填率が100%にはなっていない。他の原子・分子が占有したり、空隙である可能性もある。(図1 メタンハイドレートの結晶構造)    

{メタンハイドレートの相安定性}  安定領域の温度・圧力の境界は、+10℃で76気圧、+4℃で50気圧、0℃で26気圧、-30℃で10気圧、-80℃で1気圧などである。言い換えれば、温度が低下すれば圧力は小さくても安定であり、圧力を高くすれば温度が高くても安定である。(図2 メタンハイドレートの相平衡)

{海水の圧力}水深10mの水圧は、水の圧力1気圧+水面を押す大気圧1気圧=2気圧である。約600mの海底は60気圧であり、プラスの海水温でもメタンハイドレートが安定な領域になる。このような海底から湧出してくるメタンが、海水に触れて直ぐにメタンハイドレートの小さな白い粉末状の固体に変わる現象が観察されている。

{燃える氷、メタンハイドレート}   海底地層中から掘り出したメタンハイドレートは見たところは、白く固くて氷に似ており、触れば冷たく感じる。火を付けると炎を出して燃えるが、常温・常圧で比較的安定である。正に「燃える氷」である。なお、水とメタンガスを配合して、所定の高圧・低温に保てばハイドレートを実験室で作ることができる。

{自己保存効果} ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。

{水素結合} 1個の電子を持つ水素原子は1価であり、共有結合の結合手は1つで、水分子はH-O-Hと表される。しかし、電子を引き寄せる酸素が少しマイナス(δ-)に偏り、電子が引っ張られた水素は少しプラス(δ+)になっている。イオン結合ではないが、静電的な結合状態が水分子のδ-と他の水分子のδ+が引き合って水素結合ができる。これが水の様々な面白い性質の原因となっている。ハイドレートを形成するのもその一例である。

{地球上に生命を育む水} 常温付近に氷・水・水蒸気の安定域が接近している(高い融点と沸点)、暖まり難く、冷め難い(大きな比熱)、水滴ができる(大きな表面張力)、水に浮く氷(氷の比重が大きい)、物質を溶かし込む(大きな溶解性)などである。全て水素結合のなせる業である。この特異な性質が水になければ、地球上にこれだけの様々な生命は生まれ出なかった。

 

  

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メタンハイドレート の取り組み 記事 目次

設立総会・記念講演の開催2011年7月18日(海の日)、