もの言う地蔵さん
昔、ある城下町に近い山里に、五作とゆう男の子と母親の二人が、ほそぼそと暮らしていました。
貧しい暮らしに無理がいて母親は病気になり、床につき寝たきりになってしまいました。それで五作は毎日山に行って薪を拾い集めては、それを背負い、山を下って町に出て薪を売って、その日その日を過ごしていました。
貧しい暮らしに無理がいて母親は病気になり、床につき寝たきりになってしまいました。それで五作は毎日山に行って薪を拾い集めては、それを背負い、山を下って町に出て薪を売って、その日その日を過ごしていました。
その内にお正月もちかい暮れになりました。町の家々ではペッタンコペッタンコとお餅をつく音が、あちらでも、こちらでもして、薪を売り歩く五作の耳にたまらなく聞こえてくるのでした。
翌日の朝も早くから山に行き薪をたくさん作って背負い山を下りながら、町の餅つきの様子を頭に浮かべ、五作は、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と二、三度言った。
そしたらどこかで、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と二度聞こえてきた。
五作はふしぎに思って見まわしてみたが誰もいない。草道に、道ばた地蔵さんが一つこちら向いて立ってるだけ。
五作は頭を傾け、お地蔵さんを見ながら、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と言うてみたら、お地蔵さんの顔がニッコリと笑うように見えて、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と言うた。
五作は、も一度言うてみた。お地蔵さんは五作の言うたとうりに、もの言うた。
五作は興奮したが、心おちつけ手を合わし拝みながら、お地蔵さん、私と町へ出て、ものを言うて下さいと頼み、薪とお地蔵さんを背負い町に出た。
五作は大きな声で、
「ものゆう地蔵さんじゃー、ものゆう地蔵さんじゃー」
と。その声を聞いて人々が集まって来て、もの言わしてみいと。五作はお地蔵さんをだいじに下ろし、手を合わし拝んでから、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と言うと、お地蔵さんも、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と、ものを言うた。
集まった人々はビックリしたり感心したり、五作の親孝行をめでてお地蔵さんがもの言うたがじゃ、と薪は値良うに買うてくれるし、注文もあるで五作は喜んでいた。
そのうちに、この話がお城のお殿様の耳に入り、五作はお城に呼び出された。お殿様やご家来衆大勢の前で、
「五作とやら、その地蔵にもの言わしてみよ。」
と。五作はお地蔵を大切にすえて拝み、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と言うと、お地蔵さんが、
「ペッタンコ、ペッタンコ餅ついて、おっ母あに食わしたいなあー」
と、ものを言うた。これを聞いたお殿様、
「五作あっぱれである。その方の孝心をめでてのお地蔵のご慈悲じゃ」
と、おほめの言葉とご褒美の金すを載き、五作は喜び家に帰った。
ご褒美のお金で薬も買えて母親の病気も良くなり、五作は精出して働き立派に成人したと。
お地蔵さんは大切に元の所に納め、お堂を立てていつまでもあがめたと。
この話はずっと前に聞いたのを書きました。
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