「トランプ恐慌」来たる! 中国の台頭をアシストする「オウンゴール」で最後は大統領罷免か(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
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「トランプ恐慌」来たる! 中国の台頭をアシストする「オウンゴール」で最後は大統領罷免か
4/8(火) 7:03配信
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現代ビジネス
「トランプ恐慌」の到来
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2025年4月、世界に「トランプ恐慌」の到来である――。
アメリカ東部時間の4月2日午後4時(日本時間3日午前5時)から、ドナルド・トランプ大統領が記者会見を開き、アメリカ史に残るであろう「世紀の発表」を行った。
トランプの関税攻勢が止まらない!「大国の横暴」は何を招くのか
「アメリカは過去何十年にもわたって、近隣とか遠くとか、敵とか味方とかに関係なく、常に略奪されてきた。それで今日は独立宣言だ。われわれは、ついにアメリカファーストを実現するのだ。われわれの貿易赤字は、もはや単なる経済問題ではなく、国家緊急事態なのだ……」
かくして、「トランプ関税」が発令された。具体的には、4月5日からすべての輸入品に、一律10%の基本関税を課す。その上で、約60ヵ国・地域を対象に、各国・地域の関税や非関税障壁を考慮して個別の追加関税を、4月9日から発効するというものだ。日本は24%、EUは20%で、中国はすでに発動済みの20%に加えて、34%を上乗せするという。
トランプ大統領の「妄言」に、世界中が驚愕したのはもちろんだが、アメリカ国内も大いに動揺した。翌4月3日、ホワイトハウスから約330km離れたニューヨーク証券取引所は、全面安の展開となった。
この日は、前日よりも1679ドル安で取引を終えた。新型コロナウイルスの感染が急拡大した2020年6月以来の大暴落である。
2日間で970兆円が吹っ飛んだ!
翌4日は、さらに「大荒れ」となった。前日比2231ドル安の3万8314ドルで引けた。
1日の下げ幅としては、史上3番目の大きさである。両日合わせると3910ドル安で、吹っ飛んだ額は邦貨にして、970兆円!!
これはまさに、96年前の再来ではないか。いまでも世界史の教科書に載っているアメリカ発の世界恐慌である。第2次世界大戦の遠因になったとも言われる。
世界恐慌の発端は、1929年10月24日、いわゆる「暗黒の木曜日」にニューヨーク証券取引所で起こった。その出来事を、『ウォール街の崩壊』(G・トマス、M・モーガン=ウィッツ著、日本語版は講談社学術文庫、常盤新平訳、1998年)から、改めてピックアップしてみる。
<午前10時3分。立ち合いは「稲妻のように」始まった。10時25分、ゼネラル・モーターズは2万株の一括取引で、80セントの値下がりを見せた。4分後の10時29分に、電話の主はどんな値でも売ると、ウォールが全証券会社に聞こえるようなヒステリックな声で叫んだ。
規則では、「場立ちは走ること、ののしること、押しのけること、上着を着用しないこと」をはっきり禁じていた。周囲の人たちはまさに禁じられたことをしていた。11時から、「取引所の立会場にパニックが広がった」。
ティッカーがどんどん遅れるので、混乱は刻々と広がり、取引の実態は誰にもわからなくなっていた。どの株もほとんど買い手がつかないまま、どんどん値下がりしていた。「彼ら(株式仲買人)は爆弾でショックを受けた兵士のようで、ちぎれたティッカー・テープや注文伝票を手にいっぱい持って、錯乱したかのように空中に投げ捨てていた」>
「黄金の1920年代」が終焉した
さらに、5日後の10月29日、今度は「暗黒の火曜日」を迎えた。再び前掲書から引用する。
<最初の3分間の取引で、65万のスティール株が投げ売りされた。ポストのすべてで膨大な量の株の投げ売りが続いている時、1000人の仲買人と2000人の連絡係や事務員、電話交換手、伝票などを圧搾空気で送る送達管係、公式の記録係といった取引所の裏方たちは、これが「百万長者殺戮の日」になりつつあるのを感じていた。「夢の株」――パラマウント、フォックス、ワーナー・ブラザーズ――も惨憺たる有様だった。
約40人の株式取引所の理事たちは、立会場のまわりのあちこちに散らばっていた。今日の激しい売りの渦のなかで、彼らは漂流物だった。精神錯乱に近い人たちの群れに引き離され、互いの接触を失った理事たちは、強大な破産の波を止めるには無力だった。
やっと10時30分。わずか30分間に20億ドル余の損失を伴って、総計325万9800株が売られたのだ。
午後5時32分、最後の相場が全国のティッカーにカチカチと打ち出された。そうした千数百万の売買による株価の損害は、ニューヨーク取引所だけで約100億ドルにのぼる。これは当時全国に流通していた通貨総額の2倍にあたった。結局、全国に蔓延したこの財政的流行病による総損失額は、500億ドルという驚異的な金額にのぼるものと見積もられる>
「誤解を招くリーダーシップが一因」
このように、アメリカの「黄金の1920年代」は、一瞬にして吹っ飛んだのだ。同書では、1929年のアメリカ発の世界恐慌について、自戒を込めて次のように総括している。
<世界一金持ちの国アメリカは、たしかにその歴史のなかで最も金持ちになった――1億2500万の国民は、個人としても国としても、他のいかなる国の人にもまさる真の繁栄と真の所得を手に入れた――そのアメリカにいま、(中略)ツケが、まわってきたのだ。実業界、政界の優柔不断な、時として誤解を招くリーダーシップが、全国的に株の大量売りが殺到する一因となったのである>
それから100年近くを経て、いま再び、アメリカの「誤ったリーダーシップ」が、世界恐慌を巻き起こそうとしている。貿易通商問題に詳しいエコノミストの田代秀敏氏が解説する。
「今回の措置は、なかなか沈静化しないアメリカ国内のインフレに、水ではなく油を注いでいるようなものです。いまでさえ大変な物価高に喘いでいるアメリカの庶民にとっては、地獄の苦しみになるでしょう。
さらに世界の貿易量は、明らかに減少に転じます。世界で輸出する商品の生産が減ることになります。世界経済の発展、あるいはアメリカ経済の発展ということを目的にするならば、まったく非合理的な関税です。
もはやアメリカは完全に、自由貿易はしない、しないどころか自由貿易を破壊するというのが、今回の関税です。保護主義どころか、自由貿易主義の破壊と言えます。
今後は、アメリカを自由貿易の枠組みから切り離すということで、これは世界にとって大変なことです」
本当に、トランプよ、何ということをしてくれたのかという嘆息が、世界中で上がっている。
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トランプが「大悪手」を指した
中国は、2020年から2022年までの「ゼロコロナ政策」(コロナ対策でロックダウンなどを多用する政策)により、経済が著しく悪化した。GDPの3割を支えていた不動産のバブルも完全に崩壊した。加えて、2023年には反スパイ法改正など、「総体国家安全観」(総合的な安全重視政策)を優先したため、さらに悪化した。
そこで昨年から、本格的な経済対策に取り組んでいるが、いまだはかばかしい成果は上がっていない。コロナ禍からの回復とともに、世界同時株高となったが、中国株だけ取り残された。日本も含めた外資の撤退や縮小が相次ぎ、中国経済は底が抜けた格好となった。
そうした中で、今年1月にアメリカで、トランプ政権が発足した。中国は当初、戦々恐々としていたのだ。
重ねて言うが、トランプ政権は中国を「最大の脅威」と公言している政権だ。「ウクライナと中東の紛争を早く停止し、アメリカの戦力と資金を中国抑止に集中させる」という方針も打ち出している。
そうであれば、中国が最も嫌がるのは、中国を除く世界中がアメリカの味方について、「中国vsアメリカ+世界」という対決の構図を作られることである。それに近いような構図が形成されたなら、中国共産党政権が「21世紀のソ連」と化す(旧ソ連の共産党政権のようにアメリカとの冷戦に敗れて崩壊する)可能性も出てくるだろう。
ところがトランプ大統領は、よりにもよって「大悪手」を指してしまった。世界中に関税をかけたことで、中国だけでなく、世界中を敵に回してしまったのだ。
中国の台頭を後押しする「オウンゴール」
最近の中国は「人類運命共同体」を前面に掲げて、スマイル外交に徹している。おそらく世界の多数の国々は、経済貿易分野でアメリカから離れていき、その分、中国に近づいていくに違いない。アメリカから離れたマネーは、第2の経済大国である中国へ向かうだろう。
つまりアメリカは、中国を包囲し、経済的圧力を加えるどころか、瀕死の中国経済を蘇らせ、V字回復させるアシストをしてしまったのである。まさに究極の「オウンゴール」だ。国際政治の舞台で、これほどの皮肉があるだろうか?
こうしたことを熟知した中国は、「攻撃は最大の防御なり」とばかりに、強気の姿勢を貫いている。4月4日夕刻に、国務院(中央政府)関税税則委員会が、以下の発表を行った。
<2025年4月2日、アメリカ政府は中国に対する輸入品への「相互関税」を宣言した。アメリカの手法は、国際貿易の規則に合致せず、中国側の正当で合法的な権益に深刻な損害を与える典型的な一国覇権主義のやり方である。
「中華人民共和国関税法」「中華人民共和国税関法」「中華人民共和国対外貿易法」などの法律法規、及び国際法の基本原則に基づき、国務院の批准を経て、2025年4月10日12時1分より、アメリカ原産の輸入商品に対して追加関税をかける。具体的には、以下の通りだ。
1.アメリカ原産のすべての輸入商品に対して、現行の適用している税率に加え、34%の追加関税をかける。
2.現行の保税、減税免税政策は変えないが、今回の追加関税には減税免税措置は認めない。
3.2025年4月10日12時1分以前に、貨物がすでに出航している場合、かつ2025年4月10日12時1分から2025年5月13日24時までに輸入される場合は、本公告が規定する追加関税をかけない>
このように、アメリカが中国からの輸入品に34%の追加関税をかけるなら、中国もアメリカからの輸入品に34%の追加関税をかけるというわけである。
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経済の覇権を牛耳るために他国を脅迫することは、アメリカの問題の解決にはならない。かえって全世界のリスクを押し上げるものだ。貿易戦争と関税戦争に勝者はなく、保護主義に勝ち抜いていける道はないのだ。もしもアメリカ政府が、経済覇権主義的な手段を用いて他国の正当な利益を損害しようというなら、しまいには自国が、世界の主流からますます遠ざかっていっていることを知るだろう>
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トランプは罷免される初の大統領か
同じく4月5日夜には、中国外交部が「アメリカが関税を濫用することに反対する中国政府の立場」と題した長文の声明を発表した。その概要は、以下の通りだ。
<アメリカのやり方は、基本的な経済規則と市場原則に違反し、多国間の貿易交渉で達成した利益バランスの結果を顧みず、アメリカが長期にわたって国際貿易で多大な利益を得てきた事実を無視するものだ。関税を使って極限まで圧力をかけたり、私利を謀り取る武器にすることは、典型的な一国主義、保護主義、経済覇権の行為だ。
アメリカはいわゆる「対等」「公平」を追求するとの旗印のもとで、ゼロサムゲーム(片方が得すればもう片方はそれだけ損するやり方)をやっている。その本質は「アメリカファースト」と「アメリカスペシャル」の追求だ。関税の手段で現有の国際経済貿易秩序を転覆させ、アメリカの利益が国際社会の公利を凌駕するようにするものだ。全世界の各国の正当な利益を犠牲にしてアメリカの覇権的利益に服することは、当然ながら国際社会の普遍的な反対に遭う。
われわれは事を惹き起こすことはしないが、事を恐れるものでもない。抑圧と威嚇は中国と付き合う正しいやり方ではないのだ。
中国は世界第2の経済国家として、また世界第2位の商品消費市場として、国際的な風雲がいかに変幻しようとも、対外開放の大門をますます大きく開くばかりだ。そうして世界と発展のチャンスを共有し、互利共勝を実現していく。
経済のグローバル化は人類社会発展の必須の道のりだ。WTO(世界貿易機関)を中心とし、規則を基礎とした多国間貿易体制によって、全世界の貿易の発展を推進し、経済成長と持続可能な発展に重要な貢献を促していく。開放と協力が歴史の潮流であり、世界は決して相互閉鎖、彼我分割の状態に逆戻りはしない。互利共勝は人心の向かうところであり、隣人を突き落とす経済的ないじめは、しまいには自身に跳ね返ってくるだろう。
発展していくことは世界各国の普遍的権利であり、少数の国家の特許ではない。貿易戦争や関税戦争に勝者はなく、保護主義に成功の道はない。世界の絶対的多数が信じる公平と正義に信頼を置く国は皆、歴史の正しい一辺に立つことを選択したのだ。それは自身の利益の選択と一致する。世界には公道が必要なのであって、覇道は不要なのだ!>
これまでは、「厚顔無恥な中国が何を言うか」と思ったりもしたが、「トランプゴジラ」が大暴れして以降、中国の主張が妙に説得力をもって聞こえる。
先週4日、「トランプゴジラ」が吠えている同時期に、韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が罷免された。私には、無謀な戒厳令を発令した尹大統領と、同じく無謀な関税を発令したトランプ大統領が重なって見えた。
トランプ大統領は、「弾劾裁判で罷免された最初のアメリカ大統領」として、歴史に名を遺すかもしれない。
<今週の推薦新刊図書>
右翼と左翼の源流
保阪正康著 文春新書 960円+税
戦後80年、「昭和100年」の今年、85歳になった昭和史の大家・保阪正康氏は走り続けている。「過去」と「現在」を結びつけて、読者をぐいぐいと「知の世界」に導いていくのが「保阪史観」の一大特長だ。今回のテーマは、近代日本を貫いた右翼と左翼の地下水脈。アメリカも日本も、歴史は繰り返す。春から夏にかけて、じっくりと「保阪史観」と向き合ってみたい。
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)