地域力再生 チャレンジの息吹
2010年3月末までの赤字体質改善を条件に存続が決定した県の第3セクター「いすみ鉄道株式会社」(大多喜町、従業員数31人)にとって、今年は勝負の年。県内でバスやタクシー会社を経営をしていた吉田平氏(49)が昨年4月に新社長に就任し、観光イベントの企画やオリジナルグッズ開発など攻めの経営で活路を模索している。
マイナスからの船出
吉田社長は就任早々壁にぶち当った。4月は沿線の学生の定期購入の時期で、書き入れ時にもかかわらず、大多喜高校の定員削減が響き、収入は前年同月比15%も減り、焦りは募った。
県中央部の景勝地、養老渓谷最奥部の上総中野駅から大原駅間26.8キロを結ぶいすみ鉄道は1988年、廃線対象だった旧国鉄・木原線を引き継ぎ発足。歳入減の対応策として、運行本数削減を繰り返した結果、昨年度の乗客数は48万人でピーク時のほぼ半数までに減らす悪循環に陥っていた。「この会社は投資をした経験がない。従業員の心が萎縮している」と気づき、攻めの経営への転換を決意した。
ホタルで上昇機運
会社が上昇機運にのったのは6月。吉田社長は沿線にある県内有数のホタル群生地をツアーの目的地として目を付けた。群生地は車での来場者が多く駐車場問題などで近隣から苦情が寄せられる恐れもあることから、場所を隠すミステリーツアーとした。
話題性に加え、いすみ鉄道を利用しなければ目的地にたどり着けないため、2000人もの乗客を呼び込んだ。この経験は年末のイルミネーションにも応用。他のイベントも「“い鉄”(いすみ鉄道の略称)でなければできないこと」がキーワードになっている。
10月にはオリジナルキャラクター「いすみてっぺいくん」や、菓子会社と組んで開発した濡れ揚げせんべい「い鉄揚げ」を販売し、グッズ収入が急上昇。その結果、同月末日までの売上げは4月の減収分を取り返し、前年比900万円増までに盛り返した。
今後は「てっぺいくん」を地域の特産物に添付していすみ鉄道推薦商品とキャラクターによる定期収入確保の一石二鳥を狙う。そのためにも「いすみ鉄道」自体の知名度アップが欠かせない。ファンとの連携に加え、人助けをテーマにしたTV番組「チャンピオンズ」(テレビ東京)に吉田社長自ら出演。東総元駅に回転式おみくじ付き駅舎を、大多喜駅には地元の英雄・本多忠勝像を寄付してもらい、新名所もできた。
「まだ道半ばです」と頭をかき、東総元駅のおみくじを回す吉田社長。 新年からは国交省と連携して本数増加を図るほか、沿線ウォーキングスの紹介パンフレットの配布を進める新たなプランを熱っぽく語る。おみくじは大吉を出して止まった。