2015年7月23日(木)
全文を転記する。
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むかし、ヨーロッパから、ふたりの探検家が、エチオピアの国にやってきたそうです。
ふたりの探検家は、北から南にむかって探検して、ひろぅい国のすみずみまで歩きまわりました。ふたりは、どこへいっても、その地方にある山と道と川の地図をつくりました。
このふたりの探検家のうわさが、ある時、ネグース王の耳にはいりました。
地図をつくりながら歩いている、探検家のうわさをきいて、ネグース王は、この人たちに協力するために、ひとりの道案内人をおくってやりました。
何年かたって、探検家たちの仕事がすむと、道案内人は、アジス・アベバ(エチオピアで一番大きな町)にかえり、ネグース王に、じぶんがみたことを、ほうこくしました。
「ふたりの探検家は、みたものはなんでも書きとめました。ナイル川のはじまるタナ湖へもいきました。そこから、ナイル川にそって山をくだりました。金や銀のでる岩もしらべました。平原の道も、山の道も、ぜんぶ地図に書きこみました。」
ネグース王は、しばらく、この人たちのした仕事について考えました。そして、ある日とうとう、このふたりがエチオピアからしゅっぱつする前に、あってみようと、よびよせました。
ふたりがごてんにやってくると、ネグース王は、これをこころよくむかえ、ごちそうをふるまい、いろいろめずらしいおくりものをおくりました。そして、ふたりが、いよいよ海岸から船出をするときになると、めしつかいたちを見送りにつけてやりました。
探検家たちが、船にのろうとすると、王さまのめしつかいたちは、ふたりをとめて、くつをぬがせました。
めしつかいたちは、くつについた土をていねいにこすりおとして、ふたりにかえしました。
ふたりは、おかしなことをするものだ、とおもいましたが、それがエチオピアのしゅうかんだろうと、考えました。そこで、
「それにしても、どうしてこんなことをするのかね?」とききました。
すると、ネグース王のつかいのものがこたえました。
「王さまは、おふたりの航海無事をいのっております。それから、こうつたえるようにおっしゃいました。
あなたがたは、とおいところにある、強い国からやってきました。そして、エチオピアが、世界で一ばん美しい国であることを、じぶんの目でごらんになりました。この美しい国の土は、わたしたちにとって、なによりもたいせつです。この土の中にたねもまけば、なくなった人もうめるのです。
わたしたちは、つかれたときに、その上によこたわって休み、また、平原では、その上でウシやヤギをかうのです。谷から山の上につづいている道も、平原から森の中に通じている道も、みんなみんな、わたしたちの祖先の足と、わたしたちの足と、そして子どもたちの足でふみかためたものなのです。
エチオピアの大地は、わたしたちの父であり、母であり、きょうだいなのです。
わたしたいは、あなたがたを、あたたかくもてなしたし、めずらしいおくりものもさしあげました。
けれども、エチオピアの土は、わたしたちのもっているものの中で、一ばんたいせつなものなのです。ですから、たとえ、ひとかけらの土でも、さしあげることはできません。」
(クランダー、レスロー文/渡辺茂男訳『山の上の火』(岩波おはなしの本)から 最終話「黄金の土」)