2015年5月28日(木)
・・・先生からも休んだほうがいいって言われて、ショックだったんですけど、でも休んでよかったです。自分ではわからないものなんですね。
先週は、実家へ帰って百姓仕事をしていました。
ええ、A県の北の端です。
まずは田植え、といっても今は機械がやるので、機械の横を歩いてただけですけど。はい、ほんとにそうです。田植えの終わった田の表面は、実に美しいです。他にたとえようがありません。山の景色が鮮やかに反射して、こんな風景はほかにないです。
あとはトウモロコシの種まきですね。ほかにも、いろいろやってきました。
動物の害?ええ、相変わらずです。イノシシももちろんですけど、うちのあたりはシカやサルも出るようです。クマもときどき出るらしい。
毎日田畑で過ごしました。都会とまるっきり時間の流れが違うじゃないですか。
昔の人は、こうやって畑を耕しながら、自分と向き合ってすごしたんだなあって。
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自分、次男ってこともありましたし、百姓を継ぐのがイヤで都会に出た部分もあったんです。でも今になって、百姓の息子で良かった、って思います。本当に、そう思います。
実家は兄貴が継いでるんですけど、兄貴は別の仕事に通っていて、百姓は継がないっていうんです。それで自分、せめて何か残したいと思って、夜は家系図作りをやってました。嫁さんのほうの家族もあわせて。
こんな人がいたんだ、あんな人がいたんだって、これまで何だか自分一人で生きてる感じがしてたんですけど、実はこんな大きなつながりの中にいたんだなって。
そしたら、会社についても感じ方が変わったんです。これまでは自分と会社だけがあって、中間がなかったっていうか、組織のためにどれだけ頑張れるか、それを認めてもらえるかって、そういう風にしか考えてなかったんですけど、実は組織に支えられている自分がいたんだなって。
そういう恩とか借りとかを、どう返していけるかは、まだ見えてないんですけど。
<恩や借りを返したいという気持ちが、とても強い?>
(強く頭を縦に振って)
強いです、それは。
<前回、話してくれたよね。自分はいつでも、これぞと思う人をモデルにして、そのモデルを模倣することで結果を出してきたって。>
はい、そうです。
<今回については、モデルの選択がうまく行かなかったかもしれないね、って私が言ったよね。そのあたりのことは?>
モデルを真似するというやり方自体から、解放されたような気がします。そういうやり方でなくてもいいんだって。これまでモデルばっかり見て、自分を見ていなかった。田舎の百姓仕事のあいだに、たっぷり自分を見ることができたんです。
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青年は他の通院先で休養を指示されたが、休みたくないと職場上司を相手に頑張り、いわゆるセカンド・オピニオンを求めて一か月前に受診したのである。
一時間近くも話を聴いて、僕が伝えたのは「主治医の助言は間違っていない」ということだった。あわせて、いくつか付け足しを伝えたことに、この敏感な青年は反応して喰らいついてきたのだ。
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先生、あの・・・
<これでいいですよ、こんなふうに休養を活用してほしいと思った、その通りにあなたはやってます。>
生まれも育ちもはるか遠方の、しかし彼と顔かたちのそっくりな青年を僕は知っている。こんなことがあるだろうかと思うぐらいの空似の他人、それをまた思い出させる、心からの笑顔を目の前の若者が浮かべた。