2021年3月21日(日)
カワセミは宝石のように美しい。田舎の家のすぐ南側を河野川(二級河川)が流れており、運がいいと川沿いにカワセミが飛ぶのを見ることができる。この春の幸運はカワセミではなく、キジを見かけたことであった。
少し前に父から予告があり、わが家の敷地内も台所の端からわずかに4m、サルスベリの脇の草むらを悠然と闊歩していたという。話だけで十分、そう易々と実見できるものではあるまいと期待もしていなかったが、二日目に南の方角をぼんやり眺めていたら、隣家の軒の上をゆったり歩む大きな鳥が目に入った。
一階の屋根の上、低い二階の軒下が壁沿いに日陰を作っている部分をついついと歩んでいく。歩みにあわせて首が前後に動くのは鳩と変わらないが、その動きが大きさに応じて鷹揚である。遠目ながら動く頭の赤をはじめ、青や緑や紫が茶褐色に混じってとりどり控えめに輝いている。
長い尾がすばらしく形良い。ヤマドリもまた人麻呂の歌にある通り、長い尾と似た姿をもっているが、キジの特徴は雄の色彩と雌の尾の長さであるという。いま見えているそれは雄ということか。
キジが日本の国鳥と定められた由来などはつゆ知らないが、おおかた日本の国土に広く分布し、逆にまたわが国土に比較的固有であり、人々によく親しまれていることなどが考慮されたことだろう。ユーラシア大陸に分布するコウライキジとの関係については議論があるらしい。
「キジ撃ち」という山男の隠語があるぐらいだから、そもそも山に住むものだろう。廃村の脅威にさらされつつあるとはいえ、人里にこれほど接近するとは思わなかった。隣家はずいぶん前に先代が亡くなり、市内に住む跡継ぎさんが土日に戻ってきて、草を刈ったり蜜柑の手入れをしたりしている。今日はその家に人気のないのを承知の出張であろうが、山側から寄りつくためには、わが家を含め二、三軒の敷地を通らなければならない。狎れたものである。人間世界とのこの距離の近さが、イヌ・サルと並んで桃太郎の眷属に選ばれた理由であろう。
翌日も隣家の同じ屋根の一隅に同じ姿を認めたが、あいにくカメラは持たずE君のように証拠写真を挙げることができない。キジの姿は Wiki に譲り、代わりにこの一週間の庭の花々をいくつか紹介しておく。
wikipedia より拝借
ユキヤナギ(左下の赤丸がキジのいた隣家の屋根)
水仙と黄水仙
ムスカリ
一面のツルニチニチソウ
斑入りの葉には花が付きにくいとあるが、どうして十分に。
クリスマスローズ
スノーフレークことオオマツユキソウ
スズランスイセンの別名は「いみじくも」といったところ
そしてもちろん春の庭にはこれが欠かせない。甘い香りでむせ返るようである。足下にはツクシ、みっちり太った一本を手に取った途端、小さな窓が一斉に開いて胞子の煙を吐き出した。これはなかなか写真には撮れない。
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