2020年3月6日(金)
(承前)
明けて2月9日(日)が仕事日である。奈良へのアクセスにはいろいろあるが、大阪環状線の鶴橋で近鉄に乗り換えることが、このところ多い。大阪平野をまっすぐ東へ、生駒の山めがけて疾走する晴れ晴れした眺めが気もちよく、子どものように運転席の背後に張りついて前方を見つめる。この道を若さにまかせ、自転車でいっさんに駆けのぼった青年があった。
鶴橋の駅ではJRから乗り換え改札を通って近鉄のホームへ。階段を降りたところに特急券の売り場がある。前に立った外国人旅行者が窓越しに "Nagoya !"と叫ぶのへ、布袋さんのようにどっしり座った若い駅員が、マスクをかけたまま何か聞き返している。肌の黒い、しかしアフリカ系とは違った顔立ちの男性旅行者は、相手の言葉が分からず首を振りながら "Nagoya, Nagoya" と訴えるばかり。布袋さんまた飽きもせず繰り返すのを聞けば、
「何人ですかー?」
「にん」が高く響くのんびりした関西訛りで、ひたすら枚数を尋ねているのである。ここがお節介の焼きどころ:
"How many passengers? How many of you?"
"Just one, I'm alone."
「一人だそうです」
「1,930円でーす」
さあ、その後が大変。彼が一万円札を出したので、布袋駅員は千円札を1枚、2枚と数え始めた。その間、振り向いた気の毒な旅行者がこちらに向かって怒ること怒ること、
"See? I'm one, I'm alone, nobody around, you can just see it, but he don't understand ! Just saying 'Nannin-desu-ka, nannin-desu-ka ?' Stop it, I don't understand Japanese, and he don't understand ! "
驚いたな、「何人ですか?」の意味はわからないのに "nannin-desu-ka? " はもう覚えちゃってる。"He don't" だなんてこのセンセイの英語も知れてるが、耳もアタマも実は良いのに違いない。それにしてもすごい剣幕、気もちは分からないでもないが、一言「アリガトー」って言ってくれても罰は当たるまいに。
結局その言葉は聞けずじまいで、8,070円の釣り銭を鷲づかみにするや風を巻いて消えた。こちらは布袋さんから「奈良行きは目の前の快速、特急券不要」と教わってギリギリ滑り込む。
しかし、どうしたもんかな。大阪から奈良・名古屋方面へ向かう外国人旅行客は、コロナ肺炎騒動でもなければ無尽蔵にいるはずで、その都度「nannin-desu-ka?」を繰り返すのでは埒があくまいに。
"How many?" ぐらい言えたいが、実はそんなの要らない。「何人ですか?」と訊くからいけないので、人差し指なり親指なりを一本立てて「一枚ですか?」とか "Just one?" とか訊けば片づくこと。それも無理ならともかく一枚発券してやりなよ。足りなければ相手の方で追加請求してくるんだから。
世界に誇るせっかくの大和路、こんなことで風評を台無しにするのはあまりにもったいない。
***
さすが盆地、奈良は寒くて学習センターの手前で小雪が舞い始めた。そんな中を70名超の聴衆が熱心に集まってきている。事前調査によれば参加者のちょうど半数が奈良県内の在住者。となれば、講演テーマが何だろうが最初のスライドはこれに決まっている。
皆様、おめでとうございます!
いっぽう、参加者の3割は大阪府から来ていることも承知。なので次のスライドは、
大阪の皆様は誠に残念でした。しかし「大関から落ちる時が引退する秋」と思い決めて実行した、この力士の潔さが清々しい。師匠の境川親方(元・小結両国)は角界きっての硬骨漢、恩師譲りの名親方になってくれるに違いない。
続く話の中で、不可能を可能にする「場の力」に触れたのはいつも通り。昨日の思いつきで、場の力すなわち場力(ばりき)と洒落てみたが、ちょっとスベり気味だったかな。
所長先生と5年ぶりにお目にかかった件については、項を改める。大過なく役目を終え、帰り道に登大路を少しあがって興福寺の入り口あたりを短く散策。
近鉄奈良駅前で行基さんに御挨拶し、頭上を見上げたら・・・
あらためて、おめでとうございました。
Ω