入間カイのアントロポゾフィー研究所

シュタイナーの基本的な考え方を伝えたいという思いから、日々の翻訳・研究作業の中で感じたことを書いていきます。

アントロポゾフィー指導原理 (45)

2008-10-24 20:40:26 | 霊学って?
45.
誕生から死に到るまで、物質のからだをもって生きるなかで、善人は外面的な生活においては不幸になることがあり、悪人は少なくとも表面上は幸福になることがある。この事実の意味を描きだす必要がある。その際、理論的な説明よりも、イメージ(形象)による例えを示すほうが重要である。なぜなら、イメージ(形象)による例えのほうが、「霊学による考察」の準備としてふさわしいからである。(訳・入間カイ)

45. Es sollte die Bedeutung der Tatsache, daß im physischen Lebenslaufe zwischen Geburt und Tod der Gute unglücklich im Außenleben, der Böse wenigstens scheinbar glücklich werden kann, geschildert werden. Beispiele in Bildern sind für die Erörterung wichtiger als theoretische Erklärungen, weil sie die geisteswissenschaftliche Betrachtung besser vorbereiten. (Rudolf Steiner)


この45項では、前項に引き続き、
運命に対する
「霊学による考察」とはどういうものなのかを述べています。

なぜこの世界では、善い人は報われずに不幸になり、
悪いことをする人は豊かになって、一見幸せになっていくのか。
これは私たちがよく感じること、
とくに思春期に痛切な疑問として悩んだことではないでしょうか。

シュタイナーは、
そのような「世界の公正さ」に対する素朴な疑問が
「霊学による考察」につながっていくと述べています。

ただし、
「理論的な説明」よりも、
「イメージ(形象)による例え」を示していくことが重要だというのです。

僕はこのことを次のように理解しています。
つまり、現実のなかにある不公正な状況に、
実際に、一つひとつ目を向けていって、
それをイメージ(形象)として捉えるということです。

ただし、ここでいうイメージは、
現実にありもしないことを勝手に思い描いた、
主観的なイメージではありません。
現実を見つめたとき、
そこに自分が見てとったことを他者に伝えるためには
相手にも現実が思い描けるように、
イメージで語らなければなりません。
つまり、シュタイナーのイメージ(形象)は、
現実をありのままに見ることによってつくりだされるものなのです。

霊学を語る側が、
現実の世界に目を向けずに、
ただカルマや輪廻転生や、あるいは子どもの発達について
あれこれ述べていたとしても、
それは「霊学による考察」にはなっていないのです。

現実に存在する不幸な状況、悲しい状況は、
物質における現実として展開されます。
だとすれば、
その背後には、霊的な現実があるのです。
今、目に見えている物質的な現実をしっかりと見なければ、
―しっかり見ることによってしか、イメージ(形象)は生じないのですから―
その背後にある霊的な現実を捉えることはできません。

霊学というものは、
「運命」という、私たち一人ひとりに直接かかわっている
「目にみえない」作用に対して
この世の物質的な現実を見つめるなかから
その背後の霊的な現実に到ろうとします。

そして
この世界に不公正が厳然と存在するのはなぜか。
その意味を探るためには、
理論を繰り広げることではなく、
現実に存在する一つひとつのイメージ(形象)を見ていくことが必要だ、
とシュタイナーは述べています。

そのように
「現実をあるがままに見ようとする態度」が、
「霊学による考察」のための準備になるのです。

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