入間カイのアントロポゾフィー研究所

シュタイナーの基本的な考え方を伝えたいという思いから、日々の翻訳・研究作業の中で感じたことを書いていきます。

アントロポゾフィー指導原理 (17)

2008-02-06 10:06:00 | 霊学って?
17.
人間は、二つの世界領域の真ん中で、その生命を展開する存在である。
人間は、その「体的進化」によって《下方世界》に組み込まれている。
また、その「魂的本性」によって《中心世界》を形成し、
その「霊的諸力」によって《上方世界》を目指している。
人間は、自然が与えてくれたものによって《体的進化》を得ている。
また、その《魂的本性》を、自分自身の領分として、自己のなかに担っている。
そして、自分自身を超えて、
神的世界への参加へと導いてくれる「贈り物」として、
自らの内に《霊的諸力》を見いだすのである。(訳・入間カイ)

17. Der Mensch ist ein Wesen, das in der Mitte zwischen zwei Weltgebieten sein Leben entfaltet. Er ist mit seiner Leibes-Entwickelung in eine «untere Welt» eingegliedert; er bildet mit seiner Seelen-Wesenheit eine «mittlere Welt», und er strebt mit seinen Geisteskräften nach einer «oberen Welt » hin. Seine Leibes-Entwickelung hat er von dem, was ihm die Natur gegeben hat; seine Seelen-Wesenheit trägt er als seinen eigenen Anteil in sich; die Geisteskräfte findet er in sich als die Gaben, die ihn über sich selbst hinausführen zur Anteilnahme an einer göttlichen Welt. (Rudolf Steiner)


この第17項から、人間の「霊・魂・体」の三重性を踏まえて、
具体的な「霊学」の内容に踏み込んでいくことになります。

ここでいう「二つの世界領域」は、
簡単にいえば、「地球」と「宇宙」ということです。
「下方」には地球があり、「上方」には宇宙の広がりがあります。
人間の「体」は、地球に根ざしています。
ここで注目したいのは、
シュタイナーがただ「体」とか「身体」といわずに、
「体的進化」という言い方をしていることです。
ドイツ語では、「進化」=Entwicklungということばは、
ちょうど「巻き物」のようなイメージで、
内にあるものが外へめくれて広がるという意味です。
「発達」「発展」と訳すこともできます。
英語のdevelopmentにも同じイメージがあります。

現在の「私」がもっている身体は、
この地球上で、遺伝の流れを通じて受け継がれてきた素材から
つくられています。
人間の身体は、地球上の生命進化の流れに組み込まれているのです。

次に、人間は、
「魂的本性」によって「中心世界」を形成します。
ここで重要なのは、
魂の次元では、人間は「組み込まれている」のではなく、
みずから「形成する」ということです。
以前にも触れたように、
魂は、一人ひとりの個人にかかわる領域です。
一人ひとりが自分だけの「魂の世界」をもっています。
魂においては、人間は完全に孤独なのです。
自分だけの「中心世界」を形成し、
自分だけの内面を抱いて生きているわけです。

そして、「霊的諸力」ということば。
「諸力」というのは聞き慣れない日本語ですが、
「力」が複数であることを示すために「諸」を付けたものです。
人間には、宇宙につながるいくつもの「力」が備わっています。
それらは、神々が人間に与えた「贈り物」です。
一人ひとりの人間は、自分自身のなかに、それらの贈り物を見つけだすのです。
そして、それらの力を使って、
自分の「個人性」(魂の次元)を超えて、
普遍的な宇宙を「目指す」のです。
ここで「目指す」と訳したことばは、ドイツ語ではstreben、
「努力する」という意味です。

人間にとって、もっとも大切と感じられるのは、
自分自身が内面につくりあげてきた個人性や感性です。
だれにでも自分だけの「こだわり」があります。
自分の感性にこだわり、自分の生き方をつらぬいていくことで、
自分の人生を生きたという実感も湧いてきます。
けれども、自分の「こだわり」にとらわれてしまうと、
宇宙とのつながり、
普遍性とのつながりを失ってしまいます。
それは実は「他者」とのつながりでもあるのです。

人間は実は、一人ひとりの「魂」によってではなく、
「宇宙」とのつながりによって、他者とつながるのです。
なぜなら、すべての人間は、宇宙から、
普遍性のなかから生まれてきたからです。
ここで大切なのは、
人間は、これらの三つの次元、
体、魂、霊の三重性をもって「私」であるということです。

いちばん直接的に「私」と感じられるのは、
「魂」の部分ですが、
それだけでは本当には「私」は満たされないのです。
地球上の全生命とのつながり(体の次元)、
そして宇宙とのつながり(霊の次元)があって初めて、
一人ひとりの「私」の生命は充実するのです。

そのような前提を踏まえて、
「霊学」の内容に踏み入ることをシュタイナーは求めています。
なぜなら、シュタイナーが初めて霊学の内容を語り始めた頃は、
「神智学」(テオゾフィー)という語を使っていたように、
(theo=神、sophie=知恵)
霊学を学ぶことは、神々の領域に参入することになるからです。

しかし、その前提として、
シュタイナーは、「人間」であることを重要視しました。
一人ひとりが自分だけの「こだわり」をもち、
人生のいろいろな場面で悩んだり、悲しんだり、喜んだりしながら、
自分だけの「私」の人生を生きようとあがいている人間が、
「中心世界」を形成するのです。

ただ単に、自分の身体や魂を克服して、神々の世界に到るのではなく、
この地球上の一人ひとりの「私」の生活を充実させるために、
「私」を地球の全生命に向かって、
また同時に、宇宙の普遍性に向かって開いていくこと、
そのために「神々の知恵」=「霊学」にあずかろうと願うこと、
そのような態度をシュタイナーはみずからの思想的立場として
アントロポゾフィー(人智学/ anthropos=人間、sophie=知恵)と呼んだのです。

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (shouko)
2008-02-07 21:30:23
私らしさに向き合い、受け入れ、手にすることを決め、
歩き出したときに感じる喜びの後に襲ってきた空白が、
普遍的な領域を求める心を取り戻すことで、
次元の超えた世界から降り注がれるモノが、
私を再生してくれたような出来事があり、
この17にその事が書かれているように私には感じ、
少し妙な出来事でしたのですが、
確信を持って信頼することが出来ました。又、
魂が「形成されるのではなく自ら形成する」ということ。
には安心し、
「私」を克服するのではなく、
「私」を開いてゆく。
そのために普遍的な領域に存在する
霊である自分と再び繋がるために学ぶ。
こんな理解でよいのか解りませんが、
アントロポゾフィーが、私にとって身近になったように、
感じました。・・ただただ書きたいことを書いてしまいました。
返信する