ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

公共組織の戦略的経営

2007年02月04日 | 公共組織の戦略的経営

 

 「政府をはじめとする公共組織で将来働くことを目標とする、あるいは、これまで働いた経験のあるここに集う皆さんの多くは、『“よい政策”を企画・立案する事』を通じて、組織・社会に貢献しようと意気込んでいることでしょう。しかし、私のこれまでの数十年にわたる経験から言える公共組織が抱える最も重要な課題は、政策中身そのものというよりもむしろ、如何に効果的・効率的に政策を実施し、その結果をレビューできるか、そして、それを継続的に実施できる組織を作っていくか、即ち組織マネジメントであるということです。効果的な組織マネジメントなくして、“よい政策”ができる訳がない。」

 「経営論(マネジメント)と聞くと、ビジネススクールを頭に思い浮かべる人も多いかもしれません。言うまでもなくビジネスにおいてマネジメントの失敗は重大です。その結果、多くの場合投資家のお金が犠牲になるからです。では、政府などの公共組織がマネジメントの失敗を犯すとどのような結果になるでしょう?多くの場合犠牲になるのは、人々の命です。これがケネディスクールでマネジメントを学ぶ意義なのです。」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 公共組織の戦略的経営(The Strategic Management of Public Office)。

 僕がケネディスクールで最も楽しみにしていた授業は、この極めて示唆的なメッセージで幕を開けました。60人の学生を前に熱弁をふるうのは、Elaine Kamarck教授。連邦政府や民主党で勤務後、クリントンの大統領選挙キャンペーンにおいて頭角を現し、1993年から97年までホワイトハウスで連邦政府の行政改革で手腕を発揮した人物です。彼女の最大の功績は、ゴア副大統領(当時)のイニシアティブの下で、アメリカ史上最大かつ最長の行革の取組みと言われる「National Performance Review(97年にNational Partnership for Reinventing Governmentと改称)」を立ち上げ、その運営に携わったことです。NPRの数多くの成果はウェブサイトに延々と記されていますが、かいつまんで挙げると、

・政府内の不要なポジションを1993年から2000年までで426,000削減し、司法省を除く全13省で組織規模を縮小、

・全省庁で内部規定を簡素化し、640,000項目を削除、

・政策意義の乏しい2,000の地方支部、250の政策プログラムを廃止、

といった政府の効率性を高めるリストラだけでなく、

・各省庁を「結果志向」の組織とすべく、他省庁との効果的な連携事例や職員のインセンティブを高めるための取組みについて盛り込んだ、「年次業務報告書」の作成・公表を全省庁に法律で義務付け、

・政府の財務会計基準改革、補助金交付の手続き改革を実施、

など、政府の仕事の姿勢そのものを変えるための組織改革、さらには、

・ 第三者機関による、政府の提供するサービスに対する「顧客満足度調査」とそのレビューの実施

・ 内国歳入庁(Internal Revenue Service)によるインターネットやクレジットカードを利用した納税手続きの導入、

・ 地域・現場のニーズをきめ細かく把握するための「コミュニティフォーラム」の実施、

・ 民間企業のビジネスの支障となっていた複雑で不明瞭な規制に関する文書について、16,000ページを削減、31,000ページにわたり内容の簡素化、明確化を実施。

といった、顧客満足度の向上に向けた取組みが、広範かつ大統領の直接のリーダーシップの下で8年間にわたり実施されたそうです。

 こうした公共機関のInnovation(革新)に携わってきたKamarck教授の授業方法は徹底したケースメソッド。米国あるいは世界各国の中央政府、地方政府、NPO、企業、病院など、様々な組織で実際に起こったマネジメントの成功例、失敗例を議論する事を通じて、公共組織のマネジメントのエッセンスを学んでいきます。

 また授業の冒頭では、毎回数人の学生に、組織マネジメントに関するニュース記事の概要を紹介することが求められ、常にリアル・ワールドとの関連付けを重視する教授の姿勢が感じられます。

 今後様々なケースを議論していく事になりますが、ケースメソッドの難点として、せっかく苦労して調べた(毎回のリーディングの量は100ページに及ぶ事も!)ケースの具体的な内容が、記憶として必ずしも定着しないことが挙げられます。

 このケースメソッドの難点(と言うよりも、僕の“脳みそ”の難点)を補うため、そして一人でも多くの皆さんと公共組織におけるマネジメントの重要性を共有していくために、今後、ブログのカテゴリーに「公共組織の戦略的経営」という項目を設け、授業で扱ったケースをリポートしていきたいと思います。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。