Takeda's Report

備忘録的に研究の個人的メモなどをおくようにしています.どんどん忘れやすくなっているので.

Webのこれまでとこれから (3/5)

2006年12月29日 | 解説記事
4. Webのアーキテクチャ
Webは情報科学のなかでどのような位置にあるのであろうか.
Webはインターネット上の一つのアプリケーションとして起こったわけなので,インターネットを構築するすべての情報技術が関連するといえる.しかし,Webが情報科学のなかで占める重要性はそこではない.むしろ,そのような計算機ネットワーク上でやり取りされる情報の中身自体が重要であり,それが情報科学の研究対象あるいは情報技術の開発対象であることを知らしめた点である(図3参照).いわば情報コンテンツの科学を創出した点がこれまでの情報科学と異なる点である.それは,データの流通でなく人や組織の間の情報流通,計算機のネットワークではなくてWebページのネットワーク,といったものはが新しい研究開発ターゲットになった.グラフの構造からWebをモデル化するWeb CommunityやPageRankといった研究はその例である.コンテンツの世界は多種多様そして膨大であり,単純さを旨としてきた情報科学に新しい局面をもたらしたといえる.
しかし,実はそれだけではWebに関わる研究は終わらない.というのは,Webのコンテンツというのは日々更新されている.今日のWebと明日のWebは違う.これはWebコンテンツは単に可変だということだろうか.実は今Webにあるコンテンツはたまたま社会にある情報がWeb化されただけに過ぎない.明日に別の情報がWeb化されるかもしれない.すなわち,Webの背後には実空間の社会にある情報もろもろがあり,その一部がWebとして“可視化”されたにすぎない(図4).
このように考えると,Webに関する技術は必然的にこの3つの層を対象にしないといけないことがわかる.無論,実空間の社会そのものをすべて情報として扱えるわけではないが,社会をスコープにいれた情報技術が必要とされている.たとえば,社会ネットワークやコミュニケーション,コミュニティに関わる研究・技術が該当する.今はWebにあるかどうかではなくて潜在的なWebとして社会にある情報を扱っていく研究である.

5. 社会化するWeb,Web化する社会
Webは今後どんな方向へ進化していくのであろうか.
端的にいってしまえば,「Webは社会化」し,「社会はWeb化」するであろう.「Webの社会化」とはWebが社会の要素を取り込んでいき,社会として機能していくということを意味している.これはWeb 2.0の流れが容易に理解できよう.
「社会のWeb化」とは社会からみた視点である.これまでの社会の基盤は実空間,すなわち物理的存在である人間が地表上に築いた世界であった.すなわち「社会=実空間」であった.それがWebという新しい基盤を得たということである.それは単に社会の基盤が複数になったということではない.Web空間は我々の実空間とは異なる法則の世界である.社会のWeb化とはこのような別の法則によって社会が変化することを意味している.
模式的に示せば,図4において,前者(Webの社会化)は下の二つの層を含む部分(Web空間)が拡大して,実空間を含むようになるという動きであり,後者(社会のWeb化)は実空間から拡大して,下の2層を含むようになるといえる.この二つの輪の和がこれからの我々の生きる社会である.
この二つの世界はどんどん近づいていって,いずれはほとんど一致するようになるであろう.これが社会としてのWebというわけである.
つまり,実空間で行っていたことがWeb空間上で行うようになるということである.実際,10年で我々の生活の一部は確実にWeb上へ移されてきた.その傾向は今後むしろ加速していくであろう.すなわち,社会そのものが大部分Web上へ移動してしまうというわけである.

Webのこれまでとこれから (2/5)

2006年12月29日 | 解説記事
3. Webはなぜこれほどまでに普及したか
さて,Webはなぜこれほどまで普及したのだろうか.一般に技術の普及は技術自体の優越性と普及の段階での社会状況が関わっている.後者は多く場合,普及を進める強力な企業,あるいは標準化団体,あるいは政府などの公的機関があることが多い.インターネットは,これまでの技術普及の流れと異なり,技術的優位性も普及のための組織的優位性もそれほど高くないが,ユーザ側自身が普及に参加するという形で普及したという新しい技術普及を流れを作っている.Webもインターネットと同様であるが,それ以上にユーザ側の参加による普及の実現という面が強い.Webの記述言語であるHTMLは提案当初よりSGMLを簡略版に過ぎないという批判を受けていたように技術的な先進性はない.また特定の大企業が推進したものでもない.またW3C(World Wide Web Consortium)という標準化団体が1994年に作られているが,歴史の浅い小さな団体であり,強力な普及の原動力になりえない.
ではなぜユーザはWebを支持したのだろうか.Webのもつ技術的,社会的特徴は以下のようにまとめることができる.
1. オープン性:自由に参加できる,自由に関係をつくれる.
2. 経済性:やりとりする情報量にコストが比例しない
3. 簡単である.
1と2は概ねインターネット自体の特徴である.特に1はインターネットの誕生から商用利用にいたるまでに培われてきた“インターネットの精神”のWeb版といえよう.それがノード(コンピュータ)からWebサーバへ,さらに個別の情報へ変わったわけである.つなり,計算機と物理的配線から構成されるノード間のネットワークというものがWebページとその間のハイパーリンクによるネットワークに変わったのである.
この仕組みは多くの人々にとって大変魅力的であった.一般の個人にとって初めて出現した表現手段であろう.人々はまずはその点で受け入れた.つぎにそういったWeb上の情報は相互につながりあうことで孤立しているときは異なる価値を得られることを知ったわけである.
2はインターネットの技術的および経済的特徴の継承である. これまでの情報提供メディアはすべて提供する情報そのものの量や提供先の数に比例するものであった.多くの人に情報を伝えたければ多くのコストがかかる.このため大規模な情報提供は大資本や公権力に限られていた.ところがWebにおいては基本的にコストが低い上に,極端なアクセスの集中を除けば,提供情報量にコストは比例しない.これは情報提供メディアとしては画期的なことであり,多くの人々,組織が飛びついたのも無理はない.
3番目の簡単さはインターネットから継承した特徴ではなくてWebが自らに課した特徴である.Tim Berners-Leeは情報研究者や情報技術者のためにWebを設計したのではなくて,物理学者など非情報系の人々のためにWebを設計した.このためWebは始まりから「簡単さ」が必須の特徴であった.情報研究者にとっては不満の多いHTMLも簡単さという点においてWebの普及に大変貢献している.たとえば,画像が埋め込めるといった特徴は情報研究者にとって些細な拡張でしかないかもしれないが,ユーザにとっては本質的であった.インターネットは基本的に開発者もユーザも情報系研究者/技術者であったので,この点で大きな違いとなっている.
これらの特徴は参加を大いに誘惑し,参加者を増やした.その参加者の多さに既存のメディアを使っていた組織も次々にWebに参入していったわけである .
これらの特徴はWebをさらに進化させる原動力になっている.
“Web 2.0”というキーワードが2006年に話題となった .
Webは基本的な枠組みは誕生以来ほとんど変わっていない.しかし,利用の仕方は広がり,そのままでは解決でないあるいは不便な点が多く出てきた.Webではそれの枠組みを変えるのではなくて,さまざまな工夫を加えていくことで解決していった.この変化をTim O’Reillyは“Web 2.0”と名づけた[2].こ過去のWebがバージョン1なら,今のWebはバージョン2であるというわけである.
その特徴は “参加”と“オープン性”に集約される.すなわち,多くの人が参加することで集合知(例えばfolksonomy)という新しい形が現れたり,オープン性からサービスが有機的につながりあう(例えばGoogle Map)ことが可能になっている.そしてどれもが簡単であることが前提になっている.すなわち,Web 2.0もまたWebの技術的および社会的特徴を突き詰めているといえる.

Webのこれまでとこれから (1/5)

2006年12月29日 | 解説記事
1. はじめに
2007年の今,World Wide Web (WWW, 以下Webと呼ぶ )がない生活が想像できない位,Webは我々の生活・社会に浸透している.しかし,Webはわずか10年ほど前に出現されたに過ぎないし,日常生活に使われるようになったのはこの5年ぐらいに過ぎない.だか,Webは我々の情報のやり取りの仕方を一変してしまったし,単に情報の授受にとどまらず,産業や生活の仕方までも変えてしまっている.この変化は社会全体にわたる広範囲なものである.しかも驚くべきはその速度である.これまでも新しい技術の普及によって社会は変化してきた.たとえば自動車の発明と普及は我々の生活を変えたし,電話やテレビも同様である.しかし,その発明から普及まで多くの時間がかかっている.Webは高々10年であるということはまさに驚異である.
本稿では,Webの始まりから,Webの今,そしてWebの未来を考えていきたい.

2. Webのはじまりと普及
Webは1980年代の終わりにスイスにあるCERN(European Organization for Nuclear Research,欧州原子核研究機構)において,Tim Berners-Leeによって提案された.彼はWebのベースとなるようなシステムを1980年は作っているが,現在のWebの原型となるものは1989年にCERNに出したプロジェクト提案書から始まる.彼は研究者間の情報共有の仕組みとしてこのプロジェクトを提案している.1990年には最初のWebブラウザWorldWideWeb,最初のWeb Serverなどが実装されている.図1は最初のWebページと言われるものである .
Tim Berners-Leeが1991年にネットニュースにWebを普及を促すメッセージを書いた後,主に大学においてWebサーバが立ち上がるようになった.
上記のブラウザを含めていくつかのWebブラウザが提案されたが,Webにとって転機になったのは,1993年にイリノイ大学の米国立スーパーコンピュータ応用研究所(NCSA)でおいてMarc Andreessenを中心とするグループによって開発されたブラウザNCSA Mosaicである.これは当時ワークステーションでよく使われていたX Window システムで動くもので,とくにテキストと画像を合わせて表示することができた. NCSA MosaicによってWebは大学において爆発的な普及した.図2は著者の1996年ごろのWebページである.このようなページを研究者が先を争って作っていた.
ただ,この時点ではコンピュータがワークステーションなど高価なものであったことと,インターネットは研究組織などに限られていたので,Webサーバの提供とWeb利用者は大学や研究機関とそのメンバーに限られていた.
1990年代後半においてインターネットの商用利用への解禁とWindows 95の発売によって,Webは研究者以外の人々が使うサービスに変わっていた.とくにInternet ExplorerがWindows OSに付属するようになったことで,PCの当たり前の機能として認識され,利用されるようになった.
さて,その後,Webは一般社会においてどのように普及していったのであろうか.最初はインターネットにつなげるようになった個人やその人たちのグループの情報を提示するのに用いられた.ここまでは前段階の研究コミュニティのためのWebと同じで,「情報提供者≒情報利用者」であった.
次に企業などの組織がWebは安価で効果的な情報提供手段であることに気づき,自組織の情報提供手段として使うようになっていった.ただし,初期には主に会社などのパンフレットにある情報をWeb化したものが多く,静的なページであり,また情報量も多くなかった.
Web利用者が増えるにつれ,Webを単なる広報手段ではなく情報交換手段として用いることが広まった.そこで,商行為の媒体,いわゆるe-commerceとしてのWebが注目された.アメリカでは一時余りにもてはやされ過ぎて“ドットバブル”とその崩壊といったことも起こったものの,現在ではe-commerceはすっかり根付き,成長している.ここではもはや「情報提供者≒情報利用者」でなく,むしろ情報提供者(企業等)は情報提供だけ,情報利用者(一般市民)は情報利用だけというようにユーザは分離されている.
一方,情報交換手段としてのWebをビジネスではなく,コミュニケーションに役立てるという使い方も一般的になった.それがWeblogであり,SNS(Social Networking Service/Site)である[1].この場合は再び,情報提供者は情報利用者であり,両者は重なり合っている.ただし,利用だけするユーザも多いので,「情報提供者⊂情報利用者」という関係である.


Webのこれまでとこれから (0/5)

2006年12月29日 | 解説記事
通信学会会誌のための原稿の草稿です.90周年記念ということでスケールを大きく書いてみました :-)
まだ長すぎて駄目なんですけどね.

あらすじ:
Web(World Wide Web)は,いまや億単位の人々によって利用される数十億ページといった大量の情報を共有する仕組みにまでなった.この地球規模の情報共有はすでに社会の仕組みを変えつつある.例えば,情報の流通の仕組みはマスメディアによる一方的な仕組みから人々が情報の提供と利用を行う相互的な仕組みに変わった.今後も社会はWebによって変化を余儀なくされるが,Webもまたより社会の仕組みを取り入れるように進化するであろう.いわばWebの社会化である.近未来においては我々は実空間の社会とWeb上の社会の二つに属して生活することになる.Webの社会化によって実現される社会は単に我々の社会のコピーではなく,複製可能,時空間の超越といった情報空間の特性にあわせた新しい社会の構造をもつ.Web上の社会では個人の知識や知的能力を超えて,計算機や他の人々と一緒になって行う知的活動が可能になるであろう.

Webの進化とエージェント (7/7) 参考文献

2006年10月05日 | 解説記事
(1) Tim Berners-Lee, James Handler, and Ora Lassila, The Semantic Web. Scientific American, May 2001.
(2) Dan Brickley, R.V. Guha, eds., RDF Vocabulary Description Language 1.0: RDF Schema, W3C Recommendation, 10 February 2004
(3) Deborah L. McGuinness and Frank van Harmelen eds., OWL Web Ontology Language Overview, W3C Recommendation, 10 Feb 2004.
(4) White, J. E., Telescript technology: The foundation for the electronic marketplace. White paper, General Magic, Inc., 1995.
(5) Tim Finin, Yannis Labrou, and James Mayfield,  KQML as an agent communication language, Proceedings of the 3rd International Conference on Information and Knowledge Management (CIKM'94), 1995
(6) Tim O'Reilly, What Is Web 2.0 Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software, 2005 http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/2005/09/30/what-is-web-20.html (Last visited on October 4, 2006)
(7) R. Ichise, H. Takeda and S. Honiden: Integrating Multiple Internet Directories by Instance-based Learning, in Proceedings of the Eighteenth International Joint Conference on Artificial Intelligence, (IJCAI-03), pp. 22–28, 2003.
(8) Max Völkel, Malte Kiesel, Sebastian Schaffert, Björn Decker and Eyal Oren, Semantic Wiki State of The Art Paper, 2005, http://wiki.ontoworld.org/wiki/
Semantic_Wiki_State_of_The_Art_Paper (Last visited on October 4, 2006)
(9) Peter Mika. Ontologies are us: A unified model of social networks and semantics. Proceedings of the 4th International Semantic Web Conference (ISWC 2005), LNCS 3729, Springer-Verlag, 2005.
(10) Y. Matsuo, J. Mori, M. Hamasaki, K. Ishida, T. Nishimura, H. Takeda, K. Hasida and M. Ishizuka: POLYPHONET: An Advanced Social Network Extraction System from the Web, in Proceedings of the 15th International Conference on World Wide Web (WWW2006), pp. 397–406, Edinburgh, Scotland (2006), ACM Press

Webの進化とエージェント (6/7) おわりに

2006年10月05日 | 解説記事
本稿では,Webの進化の方向とエージェント技術の係わり合いについて論じた.関連技術を十分にカバーしているとはいないし,仮定に基づく議論も多く,粗雑な議論であることは否めない.しかし,Webの急速な発展の中,将来を見越した議論が研究者に必要であると考えて,あえてこのような形で述べさせてもらった.これをもとに多少とも議論が起これば幸いである.

Webの進化とエージェント (5/7) 社会としてのWebとエージェント

2006年10月05日 | 解説記事
社会としてのWebにおいてエージェント技術は重要な役割を果たすことが期待されている.そそもそも先にあげたWeb空間の特徴は実空間に身体をもつ我々に合わないのである.我々は情報を永続的に記憶したり,大量の情報を扱うこともできないし,ましてや多重や並列に処理することもできない.このギャップは増える一方である.ここに必要なのはまさに代理人としてのエージェントである.
また,社会の要素自身がWeb化するということは我々がインタラクション可能なWeb上の存在物にならないといけない.この意味でもエージェントが必要である.このエージェントは必要に応じてWeb空間のどこへでもいってインタラクションを行うであろう.
社会としてのWebという視点から見れば,セマンティックWebは社会環境の構築である.すなわち,我々の生活環境や文化をWeb上に構築する仕組みを提供する.一方,エージェント技術は社会インフラストラクチャーの構築である.その社会環境の中で人々が実際に活動できるような仕組みを提供する.社会としてのWebは両方の取り組みが必要とされる.


Webの進化とエージェント (4/7) 社会としてのWeb

2006年10月05日 | 解説記事
Web2.0は現在のWebのスナップショットである.それではWebは今後どんな方向へ進化していくのであろうか.
端的にいってしまえば,「Webは社会化」するであろう.Web 2.0の言い方にならえば,「社会としてのWeb」ということになる.「Webの社会化」とは,我々が日常生活している基盤である社会がWeb上に乗ってしまうということである.実空間で行っていたことがWeb空間上で行うようになるということである.この10年で我々の生活の一部は確実にWeb上へ移されてきた.その傾向は今後むしろ加速していくであろう.すなわち,社会そのものが大部分Web上へ移動してしまうというわけである.
このためには社会に存在するあらゆる要素がWeb上になければならない.人,もの,人やものの関係,社会的活動(生活,教育,ビジネス),コミュニティ,組織,ルール,モラル,法律,犯罪,政治,等々である.社会という視点からみてみると,現在のWebはまだまだその端緒についたばかりだということがわかる.やっと,大勢の人(といっても人口の何割かでしかない),人間関係のほんのすこしの部分,社会的活動のほんのすこしの部分等々.これらの要素はこれから次々と「Web化」されていくであろう.
そうするとWebの様相は大きく変わっていくであろう.Webは今に比べればずっと複雑な構造をもつことになる.Webが普及した理由はWeb文書とリンクといった構造の単純さであり,この特徴はWebはなくなりはしないが,社会的な要素を取り扱うためにはそれだけは済まず,社会のもつ複雑な構造を取り込まないといけない .
とはいえ,現在の社会がそのままWebに移し変えられるわけではない.実空間上の社会はその空間のもつ制約のなかで形成されたものであり,一方Web空間は別の制約をもっている.したがって異なった社会の実現の仕方になるはずである.
Web空間の特徴としては以下のものをあげることができる.まずデータの特徴しては
・ 複製可能
・ 再利用可能
・ 永続性
がある.複製可能と再利用可能はデジタルデータの一般的特徴であるが,最後の永続性は少し趣が異なる.確かにデジタルデータは劣化しないという面では永続的であるが,実際に永続的に存在し続けるかは別問題である.Web上の情報は消去が簡単で紙文書より永続性がないという言い方をする人もいるが,現在の傾向からするとむしろ逆で,一度Web上に現れた情報はどこかに保存され,ずっと残りうる .そうすると,量は単調的に増え続けるだろう.
プロセスとしての特徴は
・ 時間非依存
・ 空間非依存
・ 多重化可能
・ 並列化可能
・ 量非依存
などが挙げられる.時間や空間に依存しないということははじめからのWebの特徴である.さらに近年の計算機の普及によってあまねくPCがおかれるようになり,多重化や並列化が容易になっている.さらにはGoogleが示したように,近年のPCの低廉化によって計算資源が潤沢になり,実質的に情報の量に依存しなくなりつつある.
このようなデータ(情報)の取り扱いあるいはデータの処理は実空間ではできなったわけである.当然,このような特徴をもつWeb上の社会は今までの社会とは異なる仕組みをもつであろう.
たとえば,Web上の取り扱いで混沌とした状況にある著作権問題も,そもそも実空間のための仕組みを複製可能・再利用可能という異なる性質をもつWebに適用しようとすることによって生じている問題である.
こういうことが沢山生じつつ,社会としてのWebが形成されていくであろう.
ただし,すべてがWebに移行するわけではない.我々は実空間に身体を持ち,依然として実空間で生活し続けるわけである.したがって,一部はWeb空間で一部は実空間でという生活であり,それが今よりずっとWebの比重が増えるということである.

Webの進化とエージェント (3/7) Web2.0とエージェント技術

2006年10月05日 | 解説記事
多くのエージェント技術ではエージェントが実行あるいは通信する環境を普及させて,そのプラットホームの中でエージェントが活動するということを想定している.しかし,このような環境を普及させることは大変なことであり,それがエージェント技術普及のネックになっている.基本的にhttpとhtmlしかないWebに加えれば,はるかに高度な機能を提供しうるエージェント技術であっても,普及しなければ真価が発揮できない.もっともWebの利用者もこのWebの“低機能”性に満足していてわけではない.しかし,すでに普及しているWebを捨てるのではなく,その上に新しい機能を構築しようとしている.それがソフトウエアアーキテクチャとしてのWeb2.0である.
Web2.0の特徴のうち, 単一デバイスを超えたソフトウエア(5)はコンピュータから携帯機器いたる様々な機器を連携させるソフトウエアを指している.これはまさにエージェントによって達成したかったことである.しかし,実現の方法論が異なる.新たなプラットホームを構築してその上に載せるのではなくて,最低限Webであるということだけを基盤に,その上に用途に応じて様々な方法で連携を実現している.
その実現方法の一つが高い拡張性とコスト効率 (3)というフレーズに代表され,具体的にはajaxやAPIの公開といったものである.一般に独自の方法で連携といったシステムを作った場合,ユーザを囲い込む方向になりやすい.しかし,ユーザの囲い込みはWebの公開性の原則にも合わないし,またビジネス的にWebの巨大さに対応できないし,さらには技術的にもWebの日々の進歩についていくことができない.
代わりにソフトウエアそのものの公開やソフトウエアAPIを公開することで,多くの人にソースやデータを自由に利用してもらうことで,利用者の拡大とソフトウエアの発展を同時に達成しようとしている.結果として多様な利用方法が開拓されたり,新しい技術が追加されるという柔軟性の高い仕組みとなっている.
現在のajaxやAPI公開でできることは固定的な連携など,エージェント技術からみれば基本的な機能である.柔軟な連携や自律性など,エージェントが提供しうる機能は多い.今後は,エージェント研究で出てきた技術は一旦解体されWeb上に再構築されると思われる.

Webの進化とエージェント (2/7) Web2.0とセマンティックWeb

2006年10月05日 | 解説記事
セマンティックWebは元来のWebがそうであったように基本的には情報共有に関する技術である.その方法論としては情報共有の抽象度を挙げて知識共有として発展させることで,高度な情報共有を可能とすることを目標としている.知識を共有する仕組みを提供することで高度な情報共有が実現できると考えており,実際,オントロジー言語RDFSやOWLが制定されてきた.
一方,Web2.0もWebの発展形であるので,情報共有を実現している.Web2.0の特徴のうち,2と6から極めてWeb2.0は多数の人々が能動的に参加することで成立するものであることがわかる.そしてその実現の仕組みとしてはサービスであり(1),固定的な仕組みではなく,ダイナミックに実現されるもの(3)である.すなわち,大規模性,インタラクティブ性,可変性を持つ情報共有を実現しようとしているわけである.
両者は大規模情報共有を実現しようという点においては同じであるが,その注目点は異なる.ある意味,大規模情報共有とは矛盾を内包しているともいえる.情報を共有しようとしているわけであるから,統一された情報交換のフォーマットがなければならない.しかし,大規模性になればなるほど多様な情報共有をみとめていかないといけない.
セマンティックWebは情報の標準化に主に注視して,それを発展させようとしている.ある意味,極めてオーソドックスに情報共有の問題に取り組んでいる.
一方,Web2.0は大規模性に注目している.大規模性はもちろん大量であるということがまず問題になる.が,単に量が多いというだけでは留まらない,というのがポイントである.大規模さが生み出すいわば“創発”的現象(集合知)を積極的に利用すべきであるし,それを可能とするようなフレキシブルな仕組み(高い拡張性)を提供すべきと考えているわけである.
すなわち,両者は補完的である.セマンティックWebは共有の基盤構築に集中しているが,大規模性がもたらす問題は看過している.一方,Web2.0は大規模性やそこからくる多様性を重視するが,共有基盤には注目しない.しかし,安定した大規模知識共有は両方の要素が必要である.
セマンティックWebのほうから多様性,分散性を取り込むような研究も現れている.
セマンティックWebにおいてもオントロジーは分散的に開発・利用されると考えられている.そのためにオントロジーのマッピング,アライメント,統合といったものが盛んに研究されている.例えば,Yahoo!ディレクトリのような巨大オントロジーを自動的にマッピングする仕組みを提案などもある[7].
またオントロジーを協調して構築するというものも盛んに研究されている.ことに近年,wikiを拡張して,Semantic Wiki[8]として,オントロジーやオントロジーによるタギングを共同で行う環境として使う動きが盛んである.
さらにオントロジーをWebデータから自動構築するという試みもある.Mikaはfolksonomyからオントロジーを作るという試みを行っている[9].ここではdel.icio.usのタグに上位下位関係を児童発見することを行っている.
オントロジーではないが,人間関係をWebから自動構築するという試みもある[10].Webの信頼性を考えるには人間関係は重要な要素であり,それをWebから抽出している.