Takeda's Report

備忘録的に研究の個人的メモなどをおくようにしています.どんどん忘れやすくなっているので.

Webのこれまでとこれから (2/5)

2006年12月29日 | 解説記事
3. Webはなぜこれほどまでに普及したか
さて,Webはなぜこれほどまで普及したのだろうか.一般に技術の普及は技術自体の優越性と普及の段階での社会状況が関わっている.後者は多く場合,普及を進める強力な企業,あるいは標準化団体,あるいは政府などの公的機関があることが多い.インターネットは,これまでの技術普及の流れと異なり,技術的優位性も普及のための組織的優位性もそれほど高くないが,ユーザ側自身が普及に参加するという形で普及したという新しい技術普及を流れを作っている.Webもインターネットと同様であるが,それ以上にユーザ側の参加による普及の実現という面が強い.Webの記述言語であるHTMLは提案当初よりSGMLを簡略版に過ぎないという批判を受けていたように技術的な先進性はない.また特定の大企業が推進したものでもない.またW3C(World Wide Web Consortium)という標準化団体が1994年に作られているが,歴史の浅い小さな団体であり,強力な普及の原動力になりえない.
ではなぜユーザはWebを支持したのだろうか.Webのもつ技術的,社会的特徴は以下のようにまとめることができる.
1. オープン性:自由に参加できる,自由に関係をつくれる.
2. 経済性:やりとりする情報量にコストが比例しない
3. 簡単である.
1と2は概ねインターネット自体の特徴である.特に1はインターネットの誕生から商用利用にいたるまでに培われてきた“インターネットの精神”のWeb版といえよう.それがノード(コンピュータ)からWebサーバへ,さらに個別の情報へ変わったわけである.つなり,計算機と物理的配線から構成されるノード間のネットワークというものがWebページとその間のハイパーリンクによるネットワークに変わったのである.
この仕組みは多くの人々にとって大変魅力的であった.一般の個人にとって初めて出現した表現手段であろう.人々はまずはその点で受け入れた.つぎにそういったWeb上の情報は相互につながりあうことで孤立しているときは異なる価値を得られることを知ったわけである.
2はインターネットの技術的および経済的特徴の継承である. これまでの情報提供メディアはすべて提供する情報そのものの量や提供先の数に比例するものであった.多くの人に情報を伝えたければ多くのコストがかかる.このため大規模な情報提供は大資本や公権力に限られていた.ところがWebにおいては基本的にコストが低い上に,極端なアクセスの集中を除けば,提供情報量にコストは比例しない.これは情報提供メディアとしては画期的なことであり,多くの人々,組織が飛びついたのも無理はない.
3番目の簡単さはインターネットから継承した特徴ではなくてWebが自らに課した特徴である.Tim Berners-Leeは情報研究者や情報技術者のためにWebを設計したのではなくて,物理学者など非情報系の人々のためにWebを設計した.このためWebは始まりから「簡単さ」が必須の特徴であった.情報研究者にとっては不満の多いHTMLも簡単さという点においてWebの普及に大変貢献している.たとえば,画像が埋め込めるといった特徴は情報研究者にとって些細な拡張でしかないかもしれないが,ユーザにとっては本質的であった.インターネットは基本的に開発者もユーザも情報系研究者/技術者であったので,この点で大きな違いとなっている.
これらの特徴は参加を大いに誘惑し,参加者を増やした.その参加者の多さに既存のメディアを使っていた組織も次々にWebに参入していったわけである .
これらの特徴はWebをさらに進化させる原動力になっている.
“Web 2.0”というキーワードが2006年に話題となった .
Webは基本的な枠組みは誕生以来ほとんど変わっていない.しかし,利用の仕方は広がり,そのままでは解決でないあるいは不便な点が多く出てきた.Webではそれの枠組みを変えるのではなくて,さまざまな工夫を加えていくことで解決していった.この変化をTim O’Reillyは“Web 2.0”と名づけた[2].こ過去のWebがバージョン1なら,今のWebはバージョン2であるというわけである.
その特徴は “参加”と“オープン性”に集約される.すなわち,多くの人が参加することで集合知(例えばfolksonomy)という新しい形が現れたり,オープン性からサービスが有機的につながりあう(例えばGoogle Map)ことが可能になっている.そしてどれもが簡単であることが前提になっている.すなわち,Web 2.0もまたWebの技術的および社会的特徴を突き詰めているといえる.

最新の画像もっと見る