Takeda's Report

備忘録的に研究の個人的メモなどをおくようにしています.どんどん忘れやすくなっているので.

産経記事:国費で作った研究報告書なのに読めない、コピーできない…年間2000億円の科研費

2010年08月20日 | 書評
8/20付け産経記事に表題のようなものがあった。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100820/crm1008200131005-n1.htm
趣旨としては国の研究費の報告書がネットで読めないということ。
”国の科学研究費補助金(科研費)で作成された研究報告書47年分が、限定的な閲覧しかできないうえ、コピーも部分的にしかできない状態にあることが19日、分かった。”
って、そもそもそんなことが昨日「発見」されたのですか、と突っ込みたくなるほど、ピンぼけ記事。
あまりにピンぼけすぎる記事なんで、誤解を招かないためにちょっと説明をしたいと思う。

元来、科研費の報告書(一定規模以上の課題の種類)には冊子体の報告書の提出を義務づけていた。この記事でいう「報告書」とはこのことを指している。ちなみに報告書には他にも実績報告書とか別種のものがある。冊子体での報告書は国会図書館に納本されて、保存と閲覧が保証されるというのが旧来のやりかただった。これはインターネット時代以前ではまったく正しい(他の選択肢がない)方法だった。
ちなみに冊子体以外のほとんどの報告書(実績報告書など)はNIIのKakenサービスで過去分すべてにわかって閲覧可能である。(この遡及入力だって大変だったのだから)

さすがにこの時代、冊子体でもなかろうということで研究報告書の方法が改訂されたのが20年度で、ページを限定した上でPDFでの提出となった。まあ20年度というのは遅きに逸した感はいなめないけど。で、この年度以降は提出されたPDFをNIIのKakenサービスの中で閲覧できるようにしたわけです。この記事でいうところの3年間云々というのはそのことを指している。閲覧が3年分に限定されているのではなく制度がかわったからなに誤解を招く文章である。(そもそも今は22年度なので22年度の報告書なんてありえないですけどね :-))。
我々としては現行の報告書のフォーマットやフロー(機関からCDROMで提出なんて...)には不満があり、その結果公開まで時間がかかっていうのは事実です。

過去分にさかのぼってインターネットに公開することはシステムや予算の問題というよりは著者との関係で難しい。インターネットで公開することを前提に執筆した内容ではないので、権利面や倫理面での課題があるわけです。国会図書館が一般図書のルールと適用して答えているのは当然でしょう。むしろ、遡及分に関しては、国会図書館の電子化の公開の問題の中で解決すべきことでしょう。

事実誤認はもとより、この記事のネガティブなトーンには辟易します。

PS.この記者は若いですかね。インターネット非公開=公開されてない、的発想。ネットピープル的にはOKなんですが、高々十数年の常識で47年間を切るというのは新聞記者としては情けないですね。