(“綱渡り”の状態が続く野茂英雄)
あと何年か早くロイヤルズで投げていれば……3年ぶりのメジャー復帰を果たした野茂英雄が、リードされた試合のリリーフとして対ヤンキース戦に登板した。
松井秀喜との対戦こそ2打数ノーヒット1奪三振に抑えたものの、大量リードを許していない場面でのAロッドとホルヘ・ポサダに浴びた被本塁打2は、今後の評価においては残念ながらかなりのマイナスポイントである。客観的な評価を現時点で下すならば、彼に今後トレイ・ヒルマン監督が与えるチャンスは片手で数えるほどだと私は今のところ考えている。
2002年にFA権を手にしたとき、私は野茂がレッドソックスと再契約するか、ア・リーグの他球団に移籍するものと考えていた。これは生前のパンチョ伊東さんもおっしゃっていたのを聞いたことがあるが、パ・リーグ育ちの彼はどちらかといえばア・リーグ向きの投手だと私は思っている。できればメジャー30球場のなかでも両翼、中堅、そして左中間・右中間と十分な距離があり、典型的なピッチャーズ・パーク(投手有利の球場)と言われるカウフマンスタジアムを本拠地とするロイヤルズを新天地に選べば、ホームランを気にせずに投げることができていいのではと個人的には考えていたし、2003年にカンザスシティーを訪れ、スタンドの隅から隅まで見て回って、特に左中間・右中間の広さを目の当たりにすると、改めて「野茂にはロイヤルズ」の思いを強くしたものだ。だが、やはり小規模史上で緊縮財政を強いられているロイヤルズがFAの野茂に手を出すのは難しかった。
楽観的な見方をすれば、ボールが低めに集まっていれば、相手打者にフォークを空振りさせる技術は依然として健在だ。ボールを受けた捕手のジョン・バック(今季はヒルマン監督の薫陶を受けた彼のリードぶりにも大いに注目してほしい)も「3回は長すぎたのでは」とコメントしていたが、ただツーアウトを取ってからの連続被弾はいただけない。昨年までのロイヤルズならいざ知らず、現在のところチームは勢いに乗っている。リードしているヤンキースにプレッシャーをかける意味でも、特にAロッドとはまともな勝負を避けて歩かせてでも、ここは最少失点に切り抜けなければならなかった。
これが20歳そこそこのルーキーや若手投手だったら今日の結果に私も危機感を抱いたりはしない。しかし、先日の桑田の例もあるが、野茂はまさに野球生活の瀬戸際にいる選手なのである。いかに日本球界に比べて比べ物にならないくらい再挑戦のチャンスを与える米球界といえども、このチャンスを逃せば、さすがの野茂といえども厳しい選択を迫られることになる。
ここまであえて厳しいことを書いたのも、ひとえに野茂の登板する試合を担当したいという強い思いがあってのことだ。なんとかリリーフで結果を残して先発に復帰し、シーズン終了後にはカムバックプレーヤー賞受賞の吉報を聞く野茂の喜びの姿を見たいというのが、私の今の願いである。
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