(やくみつる先生も「LIXIL心中」はできないだろう=笑)
閉幕間際に「TBS、横浜ベイスターズを身売り」のニュースが飛び込んできた。
ここ9年間で7度の最下位は、球団経営・運営の戦略も戦術もなかったTBSに全責任がある。
球団売却に至った要因の一つとして、「横浜スタジアムへの球場使用料(広告料、売店収入含む)が経営を圧迫」と伝えられたが、土地(横浜公園)は国有地、建物は横浜市、球場管理・運営は西武系の株式会社横浜スタジアムという、複雑な権利関係のため、オープン30年を経て施設の陳腐化・老朽化が目立ってきた球場は増改築が法律などで著しく制限され、人工芝から天然芝の張り替えもままならなかった。
川崎から横浜に移転する際、ピカピカの新球場に移転できればオンの字と舞い上がってしまった当時の親会社や球団経営者が、ホエールズ球団(当時)にとって著しく不利な契約条件をのまされたのが、問題の出発点だったと言えるだろう。
それ以後も、球団と球場の対立は日常茶飯事で、広島や千葉ロッテのように球団が指定管理者になることもできなかったため、30年以上、球団は不利な条件を飲まされ続けてきた。
また歴代の経営陣にタフネゴシエーターが不在だったことも災いしたといえるだろう。メジャーでも球場を所有する自治体と球団がもめることはあるが、たいていは「それなら他の都市に移転する」の一言で決着がついてしまう(もちろん、それがすべていいというわけではないが)。何を言われようと、ハマスタにとって最大の収益源はホエールズ・ベイスターズなのだから(「尖閣列島にまつわる領土問題は存在しない!」と主張するのと同じくらい)球団も親会社も、もっと堂々としていればよかったのだ!
70年代から80年代にかけてはまだ球場不足の問題があったが、近年は宮崎、松山、そして今回クローズアップされた新潟と、地方都市に立派な球場が次々と誕生し、Jリーグのアルビレックスやアントラーズのように、地方都市におけるプロスポーツの成功例もある。
そもそも横浜市は、ホエールズ時代から球団への対応が冷淡だった。84年、当時ホエールズの球団発行誌で編集者を務めていたころ、東北楽天イーグルスの新監督候補としてクローズアップされているレオンとその息子のデレック(現ブレーヴス)、それに現ロッキーズ監督のジム・トレーシー(なかなか凄い顔ぶれでしょ? ただある事情でトレーシーの写真は雑誌に載らなかったんですが=笑)を、横浜市が運行を始めたばかりの市内遊覧2階建てバスに乗ってもらった際も、他の客と同じように列に並ばせ、(きちんと料金を払っているのに)「クソ忙しいのにホエールズの外人選手なんかわざわざ連れてきやがって」と言わんばかりの対応を交通局の担当者にされたことをよ~く記憶している。
ホエールズ・ベイスターズは球場使用料や諸税金などでずいぶんと横浜市の財政に貢献してきたのだから、少なくとも98年の優勝のあとは、球団も「横浜スタジアムの最大の収入源はウチじゃないんですか?」と移転をにおわせればよかったのだ。もし交渉が難航したら、移転以来の市当局や横浜スタジアム運営会社の不誠実さをファンに対して(自前の球団発行マガジンもあるのだから)堂々と訴えればよかった。TBSの買収後は電波を使ってPRすることもできたはずだ。
さて「買い手」として注目されている「住生活グループ」だが、今年に入ってグループ全体のブランドとして「LIXIL」の名称を使い始めており、今回球団買収に興味を示しているのも、このブランドを定着させる目的があるようだ。
この話を聞いて思い出したのが、オリエントリース(オリックス)が阪急を買収した時のこと。宮内オーナーは球団買収の記者発表の席で堂々と言ったもんね、「球団買収の最大の目的は、企業名のPRに最適であるから」と。
現在、12球団で唯一、チーム名に企業名を入れていないベイスターズだが、横浜にとどまるにせよ、新潟に移転するにせよ、新チーム名に「LIXIL」が入る可能性はも否定できない。
住生活グループ、あるいは他に売却先として噂されている企業の経営陣に申し上げたいのは、自社名やブランド名を球団名に入れるのは、短期的なPR効果はあっても、長期的な経営戦略上はマイナス面のほうが大きいですよということだ。
現在、日本プロ野球(NPB)は深刻な財政難に悩まされている。放映権料の値下げももちろんだが、結局は12球団のほとんどが親会社の宣伝媒体から脱しきれないために、たとえばメジャーリーグ機構が全国テレビ中継や球場広告、インターネット広告込みで募集している公式スポンサー契約や、日本サッカー協会が代表チームのオフィシャルスポンサーとしてキリンビールと結んでいるような長期の公式スポンサー契約をNPB全体で集めることができないのだ。その結果、JFAや高野連が「自社ビル」を構えているのに対し、誕生以来75年が過ぎてもNPBは依然として「借家生活」のままだ。
選手の年俸が上がり、メジャーリーグとの「競争」にも直面している現在のプロ野球で、一企業(グループ)の宣伝媒体としてプロ野球球団を運営するのはもはや夢物語だ。必要な資金は広く薄く集める。そのためにも、球団名からは極力、特定企業のカラーを薄めなければならない。
はたして、ベイスターズの新経営母体は、プロ野球チームを社会の共有財産として、健全娯楽の担い手としてきちんと認識し、大局に立って球団経営にあたることができるか、大いに注目していきたい。
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