上田龍公式サイトRyo's Baseball Cafe Americain  「店主日記」

ベースボール・コントリビューター(ライター・野球史研究者)上田龍の公式サイト「別館」

「契約」「制度」の不備が招いた「中村ノリ退団劇」

2007年01月13日 | Baseball/MLB

(結局、中村ノリは選ぶ球団を間違っていたのだ。オレは藤井寺時代のこんなノリの姿が懐かしい……)

 中村紀洋のオリックス退団が決まった。
 正直なところ、前年の成績が翌年のサラリーに反映するという年俸交渉の基本を考えれば、中村の「徹底抗戦」ぶりには大いに疑問があった。ただ、野球協約で定められた、相手選手の同意を必要とする大幅減俸を提示するにしても、オリックスフロントのやり方にかなり乱暴な面が見られたのもまた事実である。
 これはオリックス1球団に限ったことではないが、再編問題以前から、親会社からの天下りや異業種からのヘッドハンティングではない「プロのフロント幹部」を育て、球団運営・経営を任せるべきだとの声はますます高まるばかりなのに、相変わらず一般企業の方法論しか持ち得ない「天下り組」「配流組」が球団社長や代表を務めているから、こんな馬鹿げた事態を招くことになる。前川の無免許ひき逃げ事件にしても、以前オリックスで選手の飲酒運転事件があったにもかかわらず、そして交通事故が大きな社会問題になっていたにもかかわらず、まったくフロントには管理能力が欠如していた。その点では、オリックスのフロント幹部も不二家の経営陣も同じ穴のムジナだといえるだろう。

 問題は不成績の原因だった昨シーズン途中の故障を「公傷」と認定するか否かだったが、私からすれば、日本のプロ野球は経営者もフロントもまだこんな問題で揉めているのか?と思わざるを得ない。

①故障選手の把握と出場可否の判断体制
 
最終的にはシーズン終了後手術を受けるほどの故障だったのだから、その状態を把握し、監督や当の選手の試合出場を止める権限を持つコンディショナーやチームドクターを置く必要がある。コンディショナーやチームドクターが出場の可否に関する権限を持つメジャーでは、ほとんどありえないケースだろう(もちろん、昨年のデレック・リーやゲイリー・シェフィールドのように、強行出場が裏目に出たケースもあったが)。

②故障発生を想定した契約事項の不備
 今回の中村とオリックスとのトラブルは、ほとんどこれが原因と断言していいだろう。そもそも、当たり所が悪ければ死の危険もある硬式ボールを使い、フィールドで文字通り「命のやり取り」をしている選手が、思いがけぬ怪我に見舞われるのは当然雇用する球団フロントが想定していなければならない。まして、億単位や複数年の大型契約になればなるほど、故障の際の医療費負担、傷害保険への加入、そして今回のように故障によって十分な成績が残せなかった場合、契約更新にどう反映させるかまで、こと細かく付帯条件として決めておかないから、こうしたケースが起こるのである。この点はオリックス球団はもちろん、代理人を務めた弁護士もいささか怠慢だったといわざるを得ないだろう。代理人たるもの、当然顧客である選手が最悪の事態に陥ったケースも想定して、契約交渉に臨まなければならないはずだ。

③やはり……オリックス経営陣の「たかが選手」的発想
 いま、国会提出をめぐって喧々諤々の論議を呼んでいる「ホワイトカラーエグゼンプション」が、ほかならぬ「規制緩和」の旗振り役を務めた宮内義彦オーナーらの肝いりで答申されたこととオーバーラップさせるのは穿った見方だとの声もありそうだが、いずれにしてもイチローのポスティング移籍前後から現在に至るまでの彼らのやり方を見れば、オリックス球団の基本的な経営方針が「選手を安くコキ使う」ことにあるのは明白といわざるを得ない。ある意味、中村はアメリカから戻ったあと、こんな球団を選んだことが間違っていたのではないだろうか。
 これはまた別の機会に改めてエントリーしたいと思っているが、仁志敏久工藤公康の読売から横浜への大幅減俸を伴った移籍といい、多村仁(福岡SBホークス)と寺原隼人(横浜)のどう考えても釣り合わないトレードといい、このオフの球界人事をめぐる不可解な動きを見るにつけ、私は1985年から86年にメジャーリーグで起きた「FA選手ボイコット談合」を思い起こさずにいられない。もちろん、そうした共同不法行為がなど絶対にないと信じてはいる。しかし、たとえば仁志の場合、原辰徳監督が復帰した時点で出場機会が減ることは十分予想され、実際、それを見越して小坂誠を獲得していたことを考えれば、いかに本人がジャイアンツでプレーしたいと望んでも、新天地を斡旋するのがプロ野球における「人材活用」のあり方としては正しかったはずだし、そうなれば仁志も大幅減俸を食らわずにすんだかもしれない。
 
 それにしても、オリックス球団の小泉球団会長、交渉の席で中村に「残念だが、ご縁がなかったねとは、よくもほざいたものだ。アメリカまで出向いて獲得に乗り出した当事者だというが、その時点での契約の不備や話し合い不足が、こうした最悪の事態を招いたのではないか。本当にこのオッサンには、プロ野球チームの経営者としての能力はもちろん、人間性のカケラも感じられない(それはオリックスと近鉄の合併劇の際、露骨なまでに発揮された)。交渉能力のなさは、WBCをめぐるメジャー側の交渉の際にも露呈され、それが本大会で続発した審判の「ミスジャッジ」「非中立性」騒動につながったことも記憶に新しい。
 今回の問題も、ある意味、中村以上にオリックス球団経営陣の責任が大きいはずなのに、メディアの追及が甘いのは、今朝の朝日新聞の一面広告に見られるように、やはり広告やCMを提供してくれる大事な「上得意」だからなのだろうか? 



最新の画像もっと見る