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通用するのか「野村の考え」

2005年11月14日 | Baseball/MLB

(やっぱり川上哲治は「野球の神様」だった……)

 

読売ジャイアンツでV9を達成した川上哲治監督は1974年でその職を退いたが、そのときまだ54歳であった。その川上が53歳でV9を達成したとき、日本シリーズの対戦相手だった南海ホークスの監督兼捕手だったのが、当時38歳の野村克也だった。以来、30年以上の年月が流れたが、当時の12球団で采配を振るっていた監督のうち、現在もなおユニフォームを着続けているのは野村ただ一人である。1970年に35歳でホークスのプレイングマネージャーとなった当時は「青年監督」ともてはやされた野村も、現在70歳。来年には満71歳を迎える。南海、ヤクルトで5回のリーグ優勝と3度の日本一を成し遂げたその手腕は、文句のつけようがない。イーグルスではゼロどころか「マイナス」からのスタートとなるが、もともと弱いチームを強くするのが得意だし、また生きがいとしているような監督である。


しかし、それでも首を傾げたくなるような言動がある。まあ今まで采配を振るったチームではいつもそうだったが、選手に対し「長髪、茶髪、ヒゲ、ピアス禁止令」を発令した。私もたとえばタイガースの井川のようなあまりにも見苦しい長髪は好きではないし、ヒゲはそもそも自分自身伸ばすのが嫌い。ピアスにいたっては「先端恐怖症」ということもあって、そもそも体にわざわざ穴を開ける神経が理解できない。長髪やヒゲはまあおしゃれの範囲内ならいいとは思うが、野球選手の茶髪やピアスは大反対である。
しかし、それでも言い方、伝え方に工夫が必要なのではないかと思えてならない。考えてみてほしい。一般の企業で20代から30代半ばの世代が中心の職場に70歳の上司がいる例はごくわずかだし、学校でも一部の私学を除けば、高校生や大学生を70歳の教師が教える光景を見ることはまれだろう。たとえ野村がどんな名将であっても、イーグルスの選手たちは「70歳の上司」がやってくることに大なり小なり戸惑いを感じているのである。彼らに合わせて妥協しろと言っているのではない、方針を伝えたかったら「直接」お伝えになったらどうですかと言いたいのである。
野村に限らず、たとえば広岡達朗もよくやっていたが、日本の監督はしばしばメディアを使って選手にこうしたメッセージを送ることがある。まあ今回の野村の場合、まだシダックス野球部の監督で正式な就任の前なので直接まだ選手と話が出来ない事情はあるが、それにしても練習やコンディション作りに関することならともかく、「この程度のこと」は、イーグルスの監督になってから、選手たちを集めて直接、あるいは電話で話せばいいことではないか。それができなくても、球団の内部連絡にとどめておけばいいのであって、メディアにわざわざ公にすることでもない。
清原の去就をめぐる問題でもそうだが、この人は余計な一言が多すぎる。「私は清原は必要ない」これだけで終わらせればいいのだ。ピアスや茶髪が気に入らない、性格や人格がどうのこうのというのは、それこそ大きなお世話だ。そんなに気になるのなら、それこそ面と向かって言えばいいことだ。今岡誠に対する感情的なものの言い方も、いかにも大人げないという印象しか受けない。

先日、CSで85歳になった川上氏がインタビュー番組に出演していたが、話の内容を聞いていると、さすがに長嶋茂雄や王貞治、さらにはあの金田正一や堀内恒夫までも使いこなして、「V9」なんてしょうもないこと(笑)までやってしまった監督という気がする。その点では、野村はやはり、まだ川上や三原脩、そして袂をわかったかつての監督・鶴岡一人に及ばない。
イーグルスは選手ばかりでなく、オーナーもまさに息子のような年齢である。しかも三木谷氏はご存知のとおり自分を中心に世界が回っていると思っているタイプの人間だから、とても野球人としての野村のキャリアを十分に尊重するとは思えない。それだけに71歳でユニフォームを着る野村には、これまで以上に「コミュニケーション」が必要なのである。
長髪・ピアスの問題も含めて、実は野球に関する限り、野村の言っていることにはうなずける点が多い。しかし、メディアという「他人」のフィルターが介在することによって、その真意が選手やフロントにストレートに伝わらない危険性がある。野村が三木谷オーナーに「プロ野球経営の最大の目標は、せこい黒字決算で喜ぶことじゃありませんよ」と直接言っただけで、たとえ三木谷氏がその真意を理解できなくても、世間のほとんどは野村の味方になるはずだ。
成功も収めてきたが、特にコミュニケーションという点では、失敗も少なくなかったのが野村監督である。それだけに晩節を汚すようなことのないように願うばかりだ。



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