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「私は『放棄試合』はしない!」by Jackie Robinson

2006年02月13日 | えとせとら

(「人生の放棄試合」をしなかった偉大なるパイオニア、ジャッキー・ロビンソン)

一昨年、イラクで人質になった青年が、その際に本人や家族にあてて全国送られてきた匿名の投書をBlogで公開して波紋が広がっている。
人質となった3人の行動は軽率ではあったかもしれないが、少なくとも動機は興味本位だったり冒険心に駆られてのものではなかったと思う。別に帰還の際に英雄扱いしろとまでは言わないが、当局やメディアから護送される犯罪者のごとき扱いをされた光景には疑問を感じた。
救出に税金が使われたとの批判もあったが、そもそも原価で手数料の3割もかかっているかどうかもわからないパスポートに10年旅券で15000円、5年旅券で1万円払っていることを考えると、これは国家による一種の「保険」であると解釈していいと思う。実際、パスポートの発行数は3000万部を超えており、単純計算しても3000億円以上が国庫に納められているのだ。税金がどうたらと騒ぐのであれば、むしろ赤字になるのがわかりきっている高速道路建設や、まったく政治浄化の役に立っていない政党助成金などを先に槍玉にあげるべきだろう。

まあ彼らの行動については別の機会にまた論じるとして、その投書というか「中傷・誹謗」の手紙の内容に目を通して、暗澹たる思いがした。文字通り書き殴られたそれらの文面から連想したのは、アフリカ系アメリカ人初のメジャープレーヤー、ジャッキー・ロビンソンがデビューした当時、あるいは755本のメジャー通算最多本塁打記録を持つハンク・アーロンがベーブ・ルースの記録を破ろうとしていたときに、全米の人種差別主義者(レーシスト)たちから送られてきた脅迫の手紙である。その文面、字面からは、ただただ人間という生き物の醜い側面しか読み取ることができない。しかも「匿名」である。彼らが正体を明かさないのは、心のどこかで自分たちのやっていることが正しくない、醜悪なものだという後ろめたさが無意識のうちにあるからだろう。

(参考サイト「向き合いの中から生まれるもの、それは対話」)
http://www.doblog.com/weblog/myblog/55425?pageno=1



実はこのBlogにも昨年の10月、匿名の書き込みがあった。パ・リーグのプレーオフ第1ステージで、千葉マリンスタジアムの外野自由席を不当に占拠し、チケットを買っていた他のファンの入場を妨害したライオンズファン(私設応援団)の行動を私が批判したときである。いか、そのやり取りを再録しよう。

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(2005年10月9日)
「こんなファンのいるライオンズが負けてよかった!!!」

パ・リーグのプレーオフ第一戦で、好試合に思いっきり冷や水をぶっかけるようなことを、ライオンズの私設応援団がやらかしたそうだ。
毎日新聞の記事をそのまま紹介しよう。

「千葉マリンスタジアムで8日に行われたパ・リーグのプレーオフ第1ステージ、ロッテ―西武第1戦で、西武応援団の一部が左翼席の座席を人数以上に確保したため、チケットを持った一般客が座りきれなかったことが9日、分かった。
 球場側によると、球場管理者が応援団に席をつめるように要請したが、聞き入れられなかったという。管理者側はあふれた客を三塁側内野席などに誘導し観戦してもらったという。球場側は試合終了後、西武応援団の責任者と会談し、第2戦以降は決められたスペース以上を占拠しないと約束。第2戦でトラブルはなかった。球場側は『混乱が生じ、お客様に迷惑をかけた』と話している」


もう20年以上も訴え続けているが、あの私設応援団という連中はいったい何様のつもりなのだろう。「座席の不当占拠」については、応援団による弊害の第一としてたびたび問題になっている。それがダフ屋行為などの犯罪にも結びついたことは、昨年からたびたびニュースネタになった。
球場管理者の態度にも問題がある。彼らは人数分の座席を占拠して、チケットを持っている他の観客の入場を妨害したのだから、当然威力業務妨害罪などに当たると警告した上で、スタジアムから排除すべきであった。何度も言うが、こうした勘違いの特権意識を持った一部の私設応援団は、上得意やリピーターなどでは決してなく、ただの迷惑な存在なのだ。いつものことながら、球団や球場側の私設応援団に対する弱腰には本当に腹が立つ。彼らが球場から消えれば、その何倍もの人が足を運ぶのに。言うまでもないことだが、もしメジャーの球場でこんなことをすれば、間違いなくスタジアムから叩き出されるし、悪質な場合は留置所に泊められたり、本格裁判で実刑を食らうケースもある。
どこの球場にも迷惑な観客はいるのかもしれない。しかし、とりあえずこんなルール破りのファンがいるライオンズが敗退してくれて、本当によかったと思う。だいたい、西口が9回までパーフェクトを記録し、10回に惜しくもヒットを打たれたとき、西武ドームの観客は彼の力投にスタンディングオベーションで応えることもできなかった。それはきちんと野球を観戦する「眼」を持つファンを育てられなかった球団やメディアの責任でもある。
ライオンズは現場もフロントも親会社も、そしてファンもひっくるめて、ぜ~んぶ一からやり直しやな!!!


これに対し、コメントで次のような反論が寄せられた。

この記事へのコメント

2. Posted by レベル低いね 2005年10月10日 12:00
あなたにとっては自分に都合の良い報道があると,報道されたことがすべてなのですね。
球団が自分の都合の悪い発表するわけないでしょ?事実はどうなの?
それにアホなファンはどこの球団にもついてるよ。
例えば,千葉マリンには牽制球を投げるたびに大ブーイングをする「きちんと野球を観戦する「眼」を持」たない大応援団がいるよね。w


これに対し、私は以下のように再反論を行なった。
(10月10日付コメント)
「別に報道されたことを鵜呑みにしているわけではありません。
一部私設応援団が不当な『席取り』行為をしていたり、暴力を振るっていたり、そしてダフ屋、暴力団などと結びついていることは、それこそ80年代半ばから一貫して取材し、球団関係者にも言い続けてきているわけです。
ライオンズのファン全体を指して『アホ』と言っているわけではありません。牽制球にブーイングを送るのは、ケースバイケースですね。試合を遅延させる効果しかないものであれば、味方であれ相手のチームの投手であれ、ブーイングはファンからの要望を伝える意味で、やり過ぎない程度にやってもいいのではないですか」
「それから、あなたの私設応援団に対するスタンスをお聞きしたいです。私設応援団を擁護されているのか、批判されているのか、それともまた別の立場を取られているのか? そうした自分の立場を明らかにしないまま、「レベルが低い」呼ばわりは失礼ではありませんか?」 
「ヤンキースタジアムでは、たとえ5万6000人収容のスタンドがすべて埋まっていても、投手の投げた速球がミットに飛び込む音や、内野手が打球を捕ったときのグラブの音、打者のフルスイングの音、ホームランが通路のコンクリートに跳ね返った音が、3階のアッパーデッキにいても聞こえます。ブロンクスのファンはメジャーのファンの中でも非常にマナーが悪いのですが、それでも本来聞こえてくるべき音は聞こえるのです」
「もう一度お聞きします。あなたは『席を人数分以上に占拠した一部のライオンズファンの行為』について、どう思われているのですか? ロッテ球団の一方的な発表に、ただ新聞が乗っただけだとおっしゃりたいのですか?」
「球団が自分の都合の悪い発表をするわけがないとおっしゃっていますが、球団は不当占拠をした観客を排除できなかったわけですから、必ずしも都合のいい情報だけを発表したとは思えません。また私もロッテ球団やマリンスタジアム関係者が『弱腰』であったと批判しています
「とにかく、ご自分の立場をはっきりとさせるべきではないですか? たとえばあなたの文章からは、そうらしいと推察することはできますが、あなたご自身がライオンズのファンなのか、それともただ私のオピニオンじたいが気に入らないだけなのか、はっきりとわかりません
「それから、ライオンズが負けてよかったと思うのは、一部ファンの暴走だけが原因ではありません(その点は、もっと詳しく書き込むべきでした)。
しょせん、勝率5割以下のチームがリーグ優勝を争ったり、日本シリーズ制覇の可能性まであるパ・リーグのプレーオフ制度はおかしい、少なくとも勝率5割を割ったチームは出場資格がない制度に変えるべきだと思うのです」
「それに、地域でのファン開拓の努力が不十分なために、現在の停滞を招いたチームを支持する気にはなれません。私は坂井代表、根本管理部長時代の、『プロのフロントがチームを作っていた』ライオンズは好きでした。現在はそうではありません」
「もう一度繰り返しますが、ライオンズは、まずフロントと親会社、現場、そしてファンもひっくるめて、一からやり直すべきでしょう」
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まあ、半年近く経って改めて読み返し、こんな「2ちゃんねらー」みたいなやりとりをしてしまったことを反省はしているが、自分の意見が間違っているとは思わない。その後、この人物からは再々反論はなかったが、おそらく確固たる自分の意見など持たず、ただ自分が贔屓するチームや、所属あるいはシンパシーを感じている私設応援団に対する批判に腹を立てて、こんな書き込みをしたのだろう。
「匿名」というのは、結局は人間の持つ弱さ、卑怯な心、品性の下劣さを証明するだけの効果しかないのである。暗闇で人を待ち伏せて襲う行為が正しいだろうか? まさにそれと同じ行為が「匿名」である。イラク人質青年を批判した人のなかには、自分の正体を明かし、彼と会って堂々と激論を交わした人たちもいるという。彼の行動を批判するのはいい。おそらく批判されるべき部分もあったと思う。しかしそのためには、彼の正体が世間に知れ渡っているのならなおさら、自分も正体を明かし、言葉や修辞句をえらんで、堂々と論戦を挑むのが「言論」というものだろう。自分の正体を隠し、なおかつ汚い言葉の羅列で相手を罵倒するのは、まさしく「下司野郎の行為」にほかならない。

こうした連中にはもったいないが、それでもぜひ贈ってやりたい言葉がある。ドジャースの一員となってからもさまざまな迫害にさらされ続けたジャッキー・ロビンソンが、ニグロリーグへ戻らないかと弱音を吐いたアフリカ系の同僚に対して語った言葉である。

「私は絶対にメジャーでのキャリアを投げたしたりしない。それは野球で言えば『放棄試合』だろう。放棄試合は野球規則で『敗戦』と決まっているんだ」



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1 コメント

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良い話だ。 (Kazuhiko Miyano)
2006-02-16 02:53:09
はじめまして。

僕も匿名でモノを語るのはどうなのだろう…?と、疑問を感じていたひとりなので、理解できるような気がします。



きちんと内容を把握せずに、レベルが低いと語る(しかも匿名で)輩の方がレベルが低いと思いますよ。
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