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殿堂入りの名アナウンサー志村正順さんへの謝辞

2008年04月26日 | Baseball/MLB

(殿堂入り記者発表の日、名コンビだった小西得郎さんのレリーフの横で記念写真に納まった志村正順さん=野球体育博物館HPより拝借)

 

 1959年の読売ジャイアンツ対大阪タイガースの「天覧試合」など、数多くの名実況で知られた元NHKアナウンサーの志村正順さんが、昨年12月1日に94歳で逝去されていたことが公表された。

 

 志村さんは上記の天覧試合で声の変調に気付き、アナウンサーとしての第一線を退かれているので、1958年生まれの私はその名実況をリアルタイムでは知らないが、故・稲尾和久投手の伝記映画『鉄腕投手稲尾物語』などで、「志村節」と謳われたその名調子や、小西さんとの名コンビぶりは現在もしのぶことができる。

 

 2005年に放送関係者としては初の野球殿堂入りを果たしたが、当時92歳の志村さんは、歴代殿堂入り表彰者の最高齢記録でもあった。ただ、これは志村さんの功績を野球界が長年忘れていたことの裏返しであり、表彰する側としては大いに省すべき点であったと思う。

 

 この発表の席で、囲み取材ではあったが、志村さんに現役当時のお話をうかがうことができたのは望外の幸せであった。私はちょうど前年から、スカパー!MLBの仕事を始めていたのだが、そもそもスポーツ実況にアナウンサーとともに元選手などの解説者をつけるというスタイルは、1952年に志村さんが渡米されたとき、前年に現役を引退していたジョー・ディマジオ(ヤンキース)がテレビのゲスト解説を行なっていたのを見て、帰国後に日本でもそのやり方を取り入れようと、小西さんに依頼したのがルーツであるという貴重なお話を聞くことができた。つまり、志村さんのこのアイディアがなければ、スカパー!MLBライブでの現在の私の仕事もなかったわけで、決して大げさではなく、志村さんは間違いなく私の「大恩人」である。

 

 

 NHKで志村さんの薫陶を受けた西田善夫元アナウンサーは、殿堂入り記者会見の席に同席された際、入局当時の思い出として、志村さんから「実際に球場に行くのでも、テレビで見るのでも構わないので、100の試合を見て、ひとつの試合を喋れるようにしなさい」 とアドバイスを受けたエピソードを紹介されていた。もちろん志村さんや西田さんの足元にも遠く及ばないのが、私もこの年から、スカパー!MLBライブの担当試合、国内のゲーム、渡米してのメジャーとマイナーの観戦などで、百試合近くを見ることができ、その言葉の意味するものが、おぼろげながら理解できたような気ががする。

 

 志村さんはNHKを退職後、取材などで表舞台に出ることがほとんどなかったため、人前に姿を見せたのは殿堂入り発表が本当に久々だったのだが、このときご本人以上に喜んでいたのが、現役時代志村さんに数多くの試合を実況してもらっていた金田正一さんだった。殿堂入りのあいさつのため、マイクの前に向かった志村さんに、「何だったら(演壇まで)私が抱いて運んでいってもいいですよ」と、例のカネヤン節でジョークを飛ばし、志村さんがたちまち破顔一笑になったのをを鮮明に憶えている。

 

 記者会見のあと、私は志村さんにお願いして、小西得郎さんの殿堂レリーフの前にご足労願い、記念写真をお願いした(上記の写真はその際、野球体育博物館のスタッフが撮影したものである。私が撮った写真が見当たらないので拝借した。私のものが見つかり次第、差し替えて紹介したいと思う)。後日、西田さんのお手を煩わせて写真をお送りしたところ、西田さんを通じてお礼の言葉を頂戴できたのは誠に光栄な出来事であった。

 

 志村さんの訃報に接した西田さんは、「志村さん以前のアナウンサーの言葉は名文だったが、志村さんは文章ではなく描写をした」とコメントされているが、まさにその通りであると思う。志村さんのアナウンサー人生については、ノンフィクション「志村正順のラジオ・デイズ」に詳しく紹介されているので、未読の方にはぜひご一読をお勧めしたい。

 

 改めて、日本スポーツ放送文化の偉大なパイオニアであった志村正順さんのご冥福を祈るとともに、そのバトンを末席にて受け継いでいる人間の一人として、心よりの感謝を捧げたいと思う。

 

 志村正順さん、本当にありがとうございました。

 

 

志村正順のラジオ・デイズ (新潮文庫)
尾嶋 義之
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2 コメント

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究極の選択 !? (「語りべ」)
2008-04-26 16:47:18
本日はお疲れさまでした。
というより、ご愁傷さまでした…。

アナウンサーの記事がありましたので、お聞きしたいのですが、
“長時間”攻めのアナウンサーと、
“口撃”攻めのアナウンサーなら、
どちらを選びますか?(笑)
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「大分県別府温泉」です (Ryo[Middle Unit]Ueda)
2008-04-26 19:49:18
語りべ様へ

中1日、計26イニングスの長丁場に加え、帰りはこちらとはカンケーのないGW休暇で遊びに行く連中が起こしている渋滞に巻き込まれ、疲労困憊のところ、傷口に塩をすり込んでいただくような温かいコメントに感謝いたしております(笑)。

>“長時間”攻めのアナウンサーと、“口撃”攻めのアナウンサー

ホント、究極の選択ですね(笑)。私にとってお二人は大分県別府温泉。そのココロは? 「地獄めぐり」(笑)。

加藤さんの地獄はアイスホッケーのあの硬いパックを雨あられと浴びせられそうですし、「世界のナベチョク」(放送で使おうと思っていたら、菊田康彦さんに“また”先回りされてしまいました=笑)は「コスプレ地獄」ですかね(笑)。

今度おふたりとの放送の時には、スタジオに出かける直前に突如腹痛を起こすかもしれませんので、その際は今日のビン・スカリーさんのように単独でのプレイバイプレイ実況にぜひ挑戦してみてください(笑)。

以上、解説はジェイムス・イエローリーズと上田龍の「語りべ被害者の会」コンビでお届けしました!(笑)


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