(いわゆる“塀際の魔術”ではないが、外野手のアグレッシブなプレーの象徴といえる、1954年ワールドシリーズでウィリー・メイズが見せた“ザ・キャッチ”。センターが140mもあったポロ・グラウンズでは、この打球が抜ければランニングホームランになる可能性があったから、これもホームランを「幻」にした好プレイといえるだろう)
ESPNの「スポーツセンター」で番組の終盤に流される「TOP10プレイ」には、メジャーリーグの好プレーもたびたび登場するが、いつも印象に残るのは、たとえホームラン性の打球であっても、最後の最後まで打球を追いかけ、時にはフェンスによじ登って必死にボールに手を伸ばす外野手が多いことだ。
だからメジャーでは外野手がホームランを「もぎ取る」シーンをよく目にする。オールスターゲームでバリー・ボンズのホームランを「幻」にしてMVPに選ばれたトリー・ハンター(エンゼルス)はこのプレーでおそらくナンバーワンだし、グレイディー・サイズモア(インディアンス)、カーティス・グランダーソン(タイガース)もトップテンの「常連」となっている。もちろんイチロー(マリナーズ)もこれがお得意だし、レフトを守っていたときの松井秀喜(ヤンキース)も何度かホームラン性の打球をフェンス越しにつかんだことがある(逆にやられたこともあるが)。
だが日本のプロ野球でこうした外野手のプレイを目にすることは比較にならないくらい少ない。それは無理もないことで、府中刑務所の塀よりも高い外野フェンスがそびえたつ札幌や福岡ドームをはじめ、日本の球場は、近年ほとんどがメジャー並みの企画に拡大されたにもかかわらず、依然として「総グリーンモンスター状態」が改善されていないからだ。
もちろん、センターと両翼は野球規則をクリアしていても、左中間・右中間のふくらみがない東京ドームなどでは、フェンスを低くすればホームランが乱発されると予想される。それに対しては、現在問題となっている日本プロ野球の「飛びすぎるボール」を国際規格に統一することである程度解決できるのではないだろうか。
日本の球場がフェンスを高くしたのは、かつては両翼90m未満の後楽園や川崎など狭い球場ばかりで、ホームランの粗製乱造を防ぐ意味に加え、マナーの悪いファンのグラウンド乱入を防ぐ目的があった(内野に張り巡らされたネットも同様)。だが、少なくとも両翼100m、センター121m以上の規格を確保した球場では、フェンスの高さは外野手がグラブをいっぱいに延ばしてホームラン性の打球をキャッチすることが可能な2.5mぐらいを上限にすべきだ。
かつては日本のプロ野球にも「塀際の魔術師」といわれた平山菊二や高田繁(現東京ヤクルト監督)、国松彰(「巨人の星」で花形満の大飛球をジャンプ一番もぎ取ったシーンがあった。ちなみに現在は製菓会社の社長として“お菓子のホームラン王”を売っているが=笑)らがホームラン性の打球をしばしば外野フライに変え、山森雅文(阪急)が西宮球場で弘田澄男(ロッテ)が放ったホームラン性の打球をフェンスによじ登って捕球したプレイは、アメリカの野球殿堂博物館で現在も「好プレイ・名場面集」のフィルムに収められ毎日上映されている。現ホークス監督の秋山幸二も稀代の名センターだったが、もし当時のプロ野球各球場が両翼・中堅とも現在並みの広さで、フェンスも2.5mぐらいだったら、さらに歴史に残る超ファインプレーを量産していただろう。
新広島市民球場(マツダスタジアム)が内野も含めて総天然芝化したのに加え、外野フェンスの高さも2.5mに抑えたのは、まさに見識といえるだろう。カープはまさに「日本一」の球場を手に入れた(本当は甲子園を日本一にしたいが、リニューアル工事で内野に天然芝を敷かなかったので「二番目」に降格。もともとは内野に芝が敷かれていたんでっせ!)。
日本でもハンターやグランダーソン、サイズモアのように、最後の最後まで打球を追いかける外野手がもっと増えるように、外野フェンスの「総グリーンモンスター状態」の克服を、ファンはプロ野球組織や球団、球場管理者に強いメッセージを送るべきではないだろうか。
(スポーツナビ+「上田龍のCalled Shot!」に加筆・訂正のうえ転載)
当Blog訪問者のための「追記」
上記の“ザ・キャッチ”だが、メイズがつかんだビック・ワーツ(インディアンス)の打球が140m近く飛んだのに対し、この試合を決めたダスティー・ローズ(ジャイアンツ)の代打サヨナラ本塁打は、両翼が80mもなかったポロ・グラウンズのフェンスぎりぎりに飛び込んだ打球で、「140mがただの外野フライで、80mの当たりがホームランとは……」と、インディアンスファンを嘆かせた。このシリーズを落として以来、インディアンスは95、97年もシリーズで敗れている。
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昭和54年に西武ライオンズ球場がオープンした時、その前年にできていた横浜スタジアムの高いフェンスに対抗して、当時の堤オーナーが上記のような理由で外野フェンスを低く設定した、という話をスポーツ新聞で見た記憶があります。
(本当にこのオーナーが発言したのかは大いに疑問ですが)
しかし実際には安易に人工芝を敷いてしまったため、外野に飛んだ打球が高く弾んでフェンスを越えてしまい、球趣をそぐエンタイトル二塁打がたくさん飛び出し、思惑とは正反対の結果になってしまいました。
フェンスの高さと天然芝はワンセットで考える必要がありますね。