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野球界はそろそろ「ONにしてあげられること」を真剣に考えろ!

2006年06月08日 | Baseball/MLB

(野球界はいつまで長嶋茂雄を「酷使」し続けるのか?)

この報道を目にして、うんざりさせられたのは私だけなのだろうか。
昨日の報道によれば、全日本野球会議の日本代表編成委員会・長船騏郎委員長(82)は7日、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督(70)を筆頭候補に考えていることを明らかにしたという。以下、「報知新聞」から記事を引用する。

 長船委員長はこれまで「私の中ではまずは長嶋が一番で、後は王(ソフトバンク監督)、星野(阪神SD)ぐらいしか候補にない」と説明し、体調面がクリアされれば、ミスターが筆頭候補になることとの認識を示していた。

 同委員会は5月下旬、都内で長嶋監督と直接会談。04年3月に脳梗塞(こうそく)で倒れ、その後順調にリハビリをこなしてきたことで、順調に回復。長船委員長はミスターの現場復帰に対する意欲も確認した上で「2年後(の北京五輪)は大丈夫だろう」と指揮を執ることは可能との見方を示した。

 15日には全日本野球会議が行われ、長船委員長はミスターとの意見交換した内容について報告する予定。これを受けて、プロ側は長嶋監督の体調を考慮しながら、実行委員会をはじめとした会議で時間をかけて検討。一本化へ向けた意見の擦り合わせが行われ、日本代表編成委員会を経て代表監督を最終決定していくことになる。
(2006年6月8日06時00分  スポーツ報知)

 この際、日本の野球関係者とメディア、ファンに申し上げたい。
 いつまでON頼みを続けるのですか?

長嶋茂雄は1958年(昭和33年)、王貞治は1959年(昭和34年)に読売ジャイアンツに入団し、以後、選手としてばかりでなく、監督としても球界の発展に貢献し続けてきた。また長嶋は東京六大学、王は甲子園でそれぞれ活躍しているから、アマチュア時代のキャリアを加算すれば、もう半世紀以上にわたって野球界のために尽くしてきているわけである。

そもそも、依然として日本代表の編成をアマチュア野球の重鎮とはいえ、82歳になる長船さんにお願いしていることじたい、異常である。長船さんについても、長嶋さんの「余人をもっては代えがたい」カリスマ性に頼りたくなる気持ちが理解できないわけではないが、2008年の北京五輪の時点で72歳になる、しかも重い病からのリハビリ途上である長嶋さんの名前を挙げることじたい、間違っていると思う。
長船氏はこの会見の中で、他の監督候補として王、星野仙一と言った名前を挙げており、またメディアでは山本浩二前広島監督の名前も取りざたされている。むろん、若ければいいというものではないし、野球人・指導者としてのキャリアも重要だが、現在のサッカー日本代表を率いるジーコ監督の年齢も考えてみてほしい。彼は1953年生まれの現在53歳である。野球界で言えば、梨田昌孝落合博満といった人たちと同年齢だ。

私はプロ野球各チームの監督人事も含め、監督の年齢層はもっと若返る必要があるし、いわゆる「体育会系」的なタテ社会偏重の考え方からも脱却しなければならないと思う。平均年齢や指導者としてのスタンスは、原辰徳・読売ジャイアンツ監督が向こう5年から10年ぐらいのロールモデルにならないと、野球界全体がどんどん新鮮味を失ってしまう。原のあとはズバリ、古田敦也・東京ヤクルトスワローズ監督だ。原はアマチュア時代からスター選手、エリートであった一方で、選手、監督として栄光と挫折の両方を経験している。選手起用は実力本位で、若手の思い切った抜擢に積極的な一方で、まだ力のあるベテランへの配慮も忘れない。そして古田はまだ今年監督1年目だが、原とのこうした共通点は多いし、国際大会の経験はアマチュア時代に豊富なので、いずれは日本代表を率いるべき人材である。日本野球百年の計を考えれば、本当は原を読売ジャイアンツ一球団の指導者にとどめておくべきではなく、彼こそが北京五輪、そして第2回WBCの日本代表監督を務めるに最適任の人物であり、その後継者は古田という路線がもう敷かれならないのだ。もちろん、岡田彰布・阪神タイガース監督など、ほかの候補者も大いに議論されるべきだし、またアマチュアも含めて優れた指導者を育成するシステムが今後つくられるべきだとも考えている。外国から指導者を招聘することも真剣に検討されていいだろう。

数日前、報道ステーションに出演した長嶋氏の長男・一茂氏も語っていたが、結局現在に至るまで、日本の野球界は依然として「ONの遺産」を食い潰し続けている。われわれファンも含めて、野球界全体が真剣に考えるべきことは「ONに何かをしてもらうこと」ではなく、「ONのために何をして上げられるか」、つまり「恩返し」なのではないのだろうか。たとえば、この二人は戦後の野球界のみならず、スポーツ文化全体の興隆に大きく貢献してきたことを考えれば、野球界初の文化勲章受賞者になってもまったくおかしくない。そう思いませんか? 森光子がもらえるなら、王貞治と長嶋茂雄は当然文化の日に皇居に呼ばれて、その栄誉に浴する資格があるでしょう。私としてはとてもそれでは足りず、「人間国宝」そして「世界遺産」にも指定してほしいくらいだ。

とにかく、私はこれ以上、北京五輪であろうとWBCであろうと、「ON」を酷使することには大反対である。二人には「楽隠居」していただいたうえで、今後大いに長生きしてもらい、長く野球界を見守り続けてほしいと、彼らの恩恵を誰よりも受け、人生を豊かなものにしてもらった世代の一人として、願わずにはいられないのである。

※「スポーツナビ」に隔週連載中のコラムが更新されました。今回のテーマはロジャー・クレメンスのある大記録について。下記のアドレスからアクセスをお願いいたします。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/mlb/column/200606/at00009392.html



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