上田龍公式サイトRyo's Baseball Cafe Americain  「店主日記」

ベースボール・コントリビューター(ライター・野球史研究者)上田龍の公式サイト「別館」

井口の「異動中止」とソリアノの「配転拒否騒動」にみるMLBのコンバート

2006年03月25日 | Baseball/MLB

(やはり井口は「二番セカンド」が適材適所か?)

今季は六番を予定されていたホワイトソックスの井口資仁は、結局二番打者として起用されることになりそうだ。

この前、スカパー!MLBライブでホワイトソックスvs.レンジャーズ戦を担当したときの印象では、ホセ・ウリベイなど、オジー・ギーエン監督が新二番候補として予定していた選手は、ハッキリ言ってどれも「当て外れ」だったようで、また、リードオフマンのスコット・ポッセドニックとの相性が一番いいのも、結局は井口だという結論に達したのだろう。本人は二番がやりにくいとこぼしていたものの、それで1年間メジャーとしてプレーしてきたことを考えれば、やはりこの打順が本人にもチームとってもいいのかもしれない。私個人の希望としては、かつてのライン・サンドバーグ(カブス)のような大型二番打者・二塁手をめざしてほしいとも思っているのだが。

さて、コンバートといえばメジャーで話題の中心となっているのが、レンジャーズからナショナルズへ移籍したアルフォンゾ・ソリアノだ。ヤンキース時代から二塁を守り続けてきたが、もともとその守備能力の低さにおいては30球団の二塁手で真っ先に名前が挙がる存在であり、ましてナショナルズには守備力に定評のある生え抜きのホセ・ビドロがいるのだから、トレードが決まった段階で、外野へのコンバートは暗黙の了解だったはずだ。まして、ソリアノの場合、脚力も遠投力も申し分なく、外野に転向するにあたっての障害はほとんどないと思われた。たったひとつ、「本人のモチベーション」を除いては……。

ソリアノはドミニカ代表としてWBCに参加したあと、ナショナルズのキャンプに合流したが、その初日から「二塁固執」「外野転向拒否」が東海岸のタブロイド紙、そしてESPNなどのスポーツメディアを連日賑わせた。確かにナショナルズのフロントも事前のコミュニケーションが足りなかったが、それにしてもメッツ・松井稼頭央とのトレード話まで持ち上がり、最後にはフロントが契約違反でソリアノの罰金・出場停止まで示唆する騒ぎになったから穏やかではない。しかし、ナショナルズの監督は、アフリカ系アメリカ人初のメジャー監督で、オリオールズ時代の師匠アール・ウィーバー直系の厳格型スキッパーであるフランク・ロビンソンである。現役時代は三冠王や唯一の両リーグMVPなど数々の栄冠に輝いて殿堂入りも果たし、監督としても最優秀監督を受賞している彼が、ソリアノごとき「青二才」のわがままを受け入れるはずがない。ESPNのリポーターも論評していたが、ソリアノ自身、卓越した身体能力を考えれば、ヤンキースでレギュラーポジションを取ってからも守備のポテンシャルを向上させることは可能だったにもかかわらず、その努力を怠ったのだから、今回の騒動もその「ツケ」と言えるだろう。
結局、コンバートを拒否したままのトレードは球団が認めず、ソリアノは年俸10億円でレフトを守るか、あるいはそれをふいにして今年1年プレーしないかの「二者択一」を迫られた末、結局レフトへのコンバートを受け入れた。しかし、その「デビュー戦」でさっそくダブルプレーを演じているのだから、チームにとっても彼にとっても外野への転向は悪い選択ではなかったはずだ。

殿堂入りを果たしている人数では三塁手を圧倒的にしのいでいるセカンドだが、実はここ最近のメジャーでは、ロベルト・アロマーが引退して以降、「大型二塁手」と呼べる選手が明らかに減っている。ジェフ・ケント(ドジャース)は確かに打撃はいいが肝心の守りがイマイチだし、ヤンキースなどはチャック・ノブロックが「送球ノイローゼ」でドロップアウトしてから、ソリアノを含めて二塁手の人材難に悩まされており、昨年レギュラーとなったロビンソン・カノも雑なプレーが多すぎる。いまのところサンドバーグ、アロマー級のセカンドになれるのではと期待されているのは、チェイス・アトリー(フィリーズ)ぐらいで、あとは守りはうまいが全体的に小粒な選手が多い。

メジャーの怖いところは、やはり毎年マイナーから多くの人材が引き上げられ、ソリアノのようにバッティングがいくら良くても守りに問題があり、改善や進歩の見られない選手は、他球団にトレードされたり、今回のようにコンバートを命令されるケースが少なくないところだろう。一方で、もしチームにとって必要だと判断すれば、自ら積極的にコンバートを受け入れる選手もいる。2004年にアーロン・ブーンがオフの事故による故障で解雇され、ヤンキースの三塁手が一時不在になったとき、移籍が決まったばかりのゲーリー・シェフィールドが、ブリュワーズ時代に守った三塁を守ってもいいと申し出たことがあった(Aロッドの電撃獲得で実現はしなかったが)し、かつては、二塁からライト→レフト→三塁→一塁と転向を重ね、そのすべてのポジションでオールスター出場を果たしたピート・ローズのような例もある。要はプロ野球選手にとってもっとも大切なのは、いかにして1試合でも多く出場し、長く現役を続けるかであり、そのことは、ローズが持つメジャー歴代1位の通算3562試合出場記録が証明している。

明らかに適性を欠いた転向は論外だが、守備位置や打順の変更を正当な理由もなくかたくなに拒む選手は、やはりメジャーで生き残る能力に欠けている部分があると言わざるを得ない。さすがにソリアノも、メジャーで長く現役を続けたいという当たり前の「欲」は持っていたようだ。彼の幸運を心から祈りたい。



最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Yosh)
2006-03-25 21:15:41
 こんにちは。初めまして。いつもブログ拝見しています。



 さて、ちょっと腑に落ちないのですが、文中の「ブレット・ブーン」は「アーロン・ブーン」の間違いではないでしょうか? 最近ちょこちょこ MLB を見始めた程度の人間なのであまり詳しくないのですが、少なくともブレット・ブーンは2005年の夏までずっとシアトルにいたはずなので。
返信する
恐れ入りましてござりまする (Ryo Ueda)
2006-03-26 09:44:27
ご投稿ありがとうございます。



ご指摘の通り、ブレットではなく「アーロン」ですね。大変申し訳ありませんでした。謹んでお詫び申し上げるとともに、訂正いたします。

今後ともよろしくご愛顧のほど、お願いいたします。

返信する
いえいえ。 (Yosh)
2006-03-27 16:50:03
 いえいえ、こちらこそご丁寧な返信と、記事へのさっそくの反映ありがとうございます。



 ブログは1ヶ月ほど前から拝見させていただいています。いつも確かな知識に裏打ちされた骨太の記事が読めるので楽しみにしています。



 むしろ、そんな記事の書ける上田さんですらミスがあり得るんだなと思うと、素人ブログ書きとしてはちょっとホッとしたりもします。
返信する