三年前に亡くなった母は紫が好きでした。
「世の中で初めて見た色が紫だったから」と言ってました。
母は赤ん坊のころに高熱で視力を失っています。
ずっと暗闇で過ごしていた5歳くらいのある日、
日の当たる部屋で遊んでいると、目の前に白いフワッとしたものがある。
捕まえようとするとそれも動く。何だろ?
それは、自分の手の平だったのですが、その様子を母親が見つけて、
「目が見えてるんじゃないか!?」と驚いたそうです。
そんな時、母親が手にはめてくれたのが、手編みの紫の手袋でした。
「ああ、なんてきれいなんだろう!」
それが、モノに色があると知った初めのことだった、と言います。
その後、手術も受けて幾らかは回復したようですが、一生視力は不自由なままでした。
でも、ずっと紫は好きで、服や花がきれいな紫だとすごく喜んでましたねぇ。
けれど、晩年は又全盲になってしまって、
「もう見えないから何色でもいい」と言うようになって、悲しかったです。
藤の花が咲いてます。
母に見せてあげたいけれど、もう叶いません。
崖に垂れてる山の藤です。