貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

スピネル

2023-02-15 12:13:18 | 単品

何かこう……何というか……
よくわからんというか……掴みどころがないというか……(何がだよ)

スピネル。尖晶石。MgAl2O4。酸化鉱物。(有名な石じゃない)

石集めを始めたごくごく初めの頃、東京サイエンスさんの「ミニ標本」コーナーでスピネルを見つけた。ルビーと似ていることで有名な石で、あちきなんかの身分ではルビーなんかとても買えないだろうと思っていたので買った。八面体の形も素敵だったし。

他の標本が500円くらいなのに、880円と高かった。(それを高いと言うか?) しかも小さい。とてーも小さい。「何か偉そうなやつだな」と思った。(変な感想)
その後あちこちで見かけるけれど、やっぱ高い。
高いわりに、ものすごく鮮やかで魅力的な石かというと、そうでもない。小さいし。
「何なんだよ」といつも思っていた。

で先日、ミネラルクエストさんでブルー・スピネルのきりっとした結晶が安く出た。
「石禁下でも千円台ならOK」という理屈を付けて(あほか) ポチった。(やれやれ)
承知の上だけど、ちっさーーい。幅3ミリ。アウイン並み。

普通だと少し暗いけど、強い光を透過させると青がとても美しい。けどサファイアと並べられてどっちがどっちだと言われたらわからなそう。

ううむ。よくわからん。

     *     *     *

あちこちで書かれている話だけど、昔はルビーとレッド・スピネルは区別されていなかった。スピネルが弁別されたのは1783年、フランスの鉱物学者ロメ・ド・リールによる。で、その後、それまでルビーと称されてきた有名赤色宝石の多くがスピネルであることが明らかになった。
で、スピネルにとっては悲劇的なことに、「ルビーのまがい物」といったイメージができてしまった。同じく希少石なのに。
さらに、1903年にはオーギュスト・ヴェルヌーユ(Verneuil)が酸素と水素を混ぜた高温バーナーでアルミナとクロムを溶融・再結晶化させて人工ルビーを作った。普通は「ベルヌーイ法」と書かれるけどヴェルヌーユが正しい。(うざい) この方法は瞬く間に発展し、サファイアやスピネルも合成されるようになった。そしてこれによって作られた人工スピネルは、ルビーのみならず他の宝石の代用品として広く流通するようになった。
かくして悲しいことにスピネルは代用品のみならず「模造品」といったイメージまで帯びるようになってしまったという。中にはスピネルが天然石であることも知らない宝石愛好者もいるとか。
ずいぶん可哀そうな運命ですな。「偉そう」などと言ってすまんかった。

ちなみにスピネルは酸化鉱物でほかに酸化鉱物の宝石類鉱物は
・コランダム(ルビー、サファイア) Al2O3
・クリソベリル(アレキサンドライト) BeAl2O4
・ルチル/ブルッカイト/アナテーズ TiO2
があるけれど、単純なせいか、どれも合成できる。
いやそれどころか、アルミナとチタンを混ぜることで「スターサファイア」すら合成できるらしい。
まあ合成宝石の話はいろいろとあるので省略。

ついでに書いておけば、地球科学ではマントル中部を「スピネル相」と言う。上部は橄欖石(パイロライトとも言うらしい)、下部はペロブスカイト相。これは「鉱物相」の名称で、スピネルでできているわけではない。まぎらわしいなあ。ちなみにペロブスカイトも鉱物名としては「灰チタン石」だけれど下部マントルがこれでできているわけではない。もうぐちゃぐちゃですなあ。(わざわざ余計なややこしいことを書くなよ)

     *     *     *

スピネル君、なかなか優秀。
硬度はルビーが9、スピネルは7.5~8。どっこいどっこい。
屈折率もコランダムが1.760~1.772でスピネルは1.717といい勝負。
分散度に至ってはルビー0.018に対してスピネル0.020と勝っている。
ただしスピネルは等軸晶系なので複屈折はない。方向変色もない。
色は含有元素によるもので、コランダムと同様に多彩。ルビーと同じく赤のものはクロムによる発色。青はサファイアと同じく鉄による場合が多いが亜鉛やコバルトを含むものもある。マグネシウムの代わりに亜鉛が入ると「ガーナイト Gahnite」となる。

で、スピネルの最大の特色は「結晶」。
スピネルという名前は「小さな棘」を意味するラテン語「spinella」から。和名も「尖晶石」。
等軸晶系で八面体の自形結晶でよく出る。って、立方晶系か等軸晶系かどっちかにしてくれえ。ただでさえややこしい結晶の話が余計にややこしくなる。(文句多いぞ)
このきりっとした格好がいいのですねえ。とがってるぜえ。
ルビー・サファイアは三方晶系だけど、あんまり美しい結晶というのはない。

けど不思議なのは大きさ。
基礎的な鉱物だし、世界のあちこちで様々な環境条件で出るようだけど、でかいのにはなかなかお目に掛からない。昔は王冠を飾るようなものがミャンマーあたりで出たというけど、もう掘り尽くしたのか。展示会なんかで飾ってあるのでも7、8ミリくらいが関の山。もちろんウン十万円。
なんでですかね。単純な組成と構造が返ってあだになっているのか。
まあ、意外とレアストーンの部類に入るのかもしれない。けど4、5ミリのルースなんかはわりと安く出ていたりする。このあたりわけわからん。

     *     *     *

とぐだぐだと書いてきましたが(なげーよ、いつものことだけど) わかったようなわからんような。
ただ、八面体の美しい結晶はやはり魅力。ルースにしちゃうと素人にはコランダムや人工モノとあんまり変わらなくなってしまうような気がする。
小さいのは我慢して、この石の数奇な運命に思いを馳せながら、きりっと美しい「尖り」を愛でるのがよろしいかと。


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