貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

小さい宿命――アウインとボレオ石

2021-11-15 20:57:07 | 単品

美しい。こんな澄んだ青は他にはない。魂が震えるほど。(ちと大げさではないかい?)
でも、小さい。売ってるのはだいたい2ミリ前後。0.1カラット未満。で2000円くらいする。

やっと見つけた左上ので、4ミリ、0.24カラット。その代わり色は暗い。2800円。
右のはもっと小さい。上下2個で1000円。ほとんど「ちりあくた」の世界。くしゃみしたらおしまいです。
本場ドイツ物は小さいのしか出ないらしい。イタリア産で大きいものがあるけれど、こういう青色はしていない。
神様はこの石に無類の美しさを与えたかわりに大きくならないという呪いを掛けたようで。せめて7、8ミリの結晶がちょこちょこ採れるようなら、貴石界の一大スターになっただろうに。

組成は (Na,Ca)4-8Al6Si6(O,S)24(SO4,Cl)1-2。何じゃこれ。複雑。硫酸が入っている。
方ソーダ石グループの準長石。方ソーダ石、いわゆるソーダライトは単独の鉱物名であると同時にグループ名で、その中には、アウイン(藍方石)、青金石(lazurite)、黝方石(nosean、ノゼアン)がある。それらが混ざるとラピスラズリができる。

宝石質のものはドイツのアイフェル・ニーダーメンディッヒという所でしか採れない。「ドイツのサファイア」とも言われる。ちょっと面白くないけれど仕方ない。
一万三千年ほど前に、現在はラーハ湖となっている火山が噴火して、その影響でできたとか。そんな昔の話ではないね。縄文時代であちきがドングリを食っていた頃。(おい)

アウインという名前はフランスの鉱物学者・聖職者ルネ・ジュスト・アユイ(Hauy 1743-1822)さんに由来。まだこの時代は鉱物学は単独の科学ではなく「博物学」の一領域だったわけで、アユイさんも植物園で働き、アカデミー・フランセーズの会員にもなっている。元素クロムの命名者で、「結晶は小さなユニットの繰り返しでできている」という理論を提唱し、「『結晶学の父』と呼ばれる」(ウィキペディア)。
フランス語ではHの音は発音しない。で、u の上に黒丸2つの「トレマ」が付いて、独立した音として読め、となる。u はフランス語ではウではなくユ。y は i が二つと同じ。で、アユイ。ああめんどい。フランス人にしても変な名前じゃないかな。
石も変な名前になったけれど、「結晶」というものを発見した偉大な研究者なのだから、まあ仕方ない。返ってその変な名前のせいで印象に残るというメリットもある。
「ドイツの至宝」にフランス人の名前が付いているわけで、ドイツ人は内心もやもやとしているのではなかろうか。(邪推はやめておきなさい)

お金持ちだったら、2ミリのものでも100個くらい集めて、ビンに入れてニタニタ眺めるのがよろしいかもしれない。


……などと書いていたら、似たような「小さい宿命の石」が出てきた。
ボレアイト(Boleite ボレオ石/ボレー石)。やはり青が美しい石。
レアストーンだけど割合あちこちで見る。(それレアとは言わないんちゃう?)
こちらも大きくて5ミリくらい。3ミリで2000円くらいかな。(値段もそれほどでは)
これはクリスタルワールド五反田さんがなぜか16個で1500円という破格値で売っていたので思わずぽちったもの。少し意外でうれしいお品。



こういう多数詰め合わせというのは、賑やかだし、それぞれ違う色や姿が楽しめて、けっこういいものですねえ。小さいくせにえらく色の美しいものもあり、四角い姿が凛々しいものもあり。

組成は KPb26Ag9Cu24Cl62(OH)48 と超複雑でレア。鉛と銀と銅がこの小さな小さな体に詰まっている。偉い。(か?)
メキシコのカリフォルニア半島にあるサンタ・ロザリアの町ボレオの銅鉱山廃坑から発見された二次鉱物で、そこでしか出ない。同地からは擬ボレオ石、キュマンジュ石(クメンジャイト)という稀石も出ている。サイコロゲームで怪獣が出てくるやつね。(それはジュマンジ)
《たいていの場合単結晶に見えるものの実はX・Y・Z軸方向から3つの結晶が組み合わさっている「3連貫入双晶」という状態になっています。》(ホシノカケラ)という話もある。確かめようにも小さくて無理ぽ。
いろいろめんどい。(ほんとにめんどくさい記事になったね)

しかしですねえ、地球というこの膨大な質量を持つ星の中で、わずか5ミリにも満たない至上の美の結晶。……何かねえ……(何だよ)……何とも言えない……


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