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郵政事業守るため「票集めが最大の任務」政治活動強いられる局長

2021年11月29日 07時06分17秒 | 選挙

【ひずむ郵政】局長会 政治と特権㊤

 「票を集めることが局長の最大の任務です」

 東日本の郵便局長は5年ほど前、局長に就任して間もなく「新人研修」に参加した。地区役員の局長たちは口々に政治活動の重要性を力説した。その場で小規模局の局長でつくる「全国郵便局長会」(全特)への加入申込書に記入させられた。全特は任意団体だが、加入は実質的には強制だ。

 

 一緒に参加した妻も「選挙活動では奥さんの協力が欠かせません」と説明を受けた。「うわさには聞いていたが、ここまでとは」。夫婦で顔を見合わせた。

 3年に1度の参院選では「1人30票」が目標で、全特の組織内候補の支援者を常に100人確保するよう指示されている。

 選挙が近づけば勤務後や休日に支援者宅を回り、毎週のように支援者名簿の報告を求められた。役員局長から「本当に投票してくれる人は何人いるのか」と問い詰められ、支援者数が少ない同僚は会議の場で「何のために局長になったんだ」と叱責(しっせき)された。

 「お客さんの役に立ちたいと思って郵便局の仕事を選んだのに…」。局長はため息をつく。

組織内候補は党内トップ当選

 全特が選挙活動に力を入れるようになったのは2007年の郵政民営化がきっかけだ。公務員だった局長は民間人になり、政治活動の自由を手にした。「民営化で小規模局の統廃合が進められる」との危機感から、「政治力」で課題解決を目指すようになった。

 民営化に反対して自民党を離党した議員が結成した国民新党(当時)を支援しながら、与党の民主党(同)、野党の自民、公明両党にも働き掛け、12年4月、完全民営化路線を転換する改正郵政民営化法成立にこぎ着けた。自民党の政権復帰後は自民支援に回帰。その後、3度の参院選で自民公認の組織内候補を全国比例で擁立、党内トップで当選させた。

 元全特会長の柘植芳文氏が2期目の当選を果たした19年の参院選で、局長たちが集めた後援会員は200万人を超えたという。柘植氏は当選後の集会で、局長たちを前に「常に戦う、強い局長会でなければ、これからの郵政事業は守っていけない」と力を込めた。

「説明は意味が分からない」

 「今年もカレンダーの経費が認められた。土日を使って支援者に配ってください」

 昨年秋、九州のある地区で開かれた局長会の会合。地区会長が指示を出すと、出席者の1人が「会社の経費を使って、こんなことをしていいんですか」と声を上げた。だが会長は答えず、他の局長たちはうつむいたままだった。

 日本郵便は26日、全特が、会社の経費で購入されたカレンダーの政治流用を指示したと認定し、全特会長ら96人の処分を発表した。ただ会社側は配布の詳しい状況は「把握していない」と説明し、「支援者も広い意味で郵便局のお客さまだ」として政治活動への流用はなかったと言い張った。九州の局長は「問題を矮小(わいしょう)化したいのだろうが、会社の説明は意味が分からない」と、あきれたように語った。

 来夏の参院選には自民党公認候補として長谷川英晴氏の擁立が決まっている。長谷川氏は当時の全特副会長としてカレンダー配布を主導したとみられている。東海の局長は漏らした。「組織として反省して出直さないと選挙活動なんかできない」 (宮崎拓朗)

 全特によるカレンダー配布問題で、日本郵便の経費はなぜ政治活動に流用されたのか。その背景と企業統治のひずみを検証する。

 

 

 「会社としては、局長会の問題には関与できない」

 パワハラ被害を訴えた郵便局長たちは、会社の思わぬ回答に言葉を失った。

 

 加害者は、福岡県内の郵便局長だった。約70局を束ねる統括局長で、任意団体「全国郵便局長会」(全特)の幹部でもあった。2019年1月、日本郵便で働く息子の不祥事を内部通報したと疑い、部下の局長に通報を認めるよう脅したとして、強要未遂罪で在宅起訴され、今年6月に有罪判決を受けた。

 被害を受けた局長たちは、こうしたパワハラを同社のコンプライアンス部門に繰り返し相談していた。脅された際の音声データも提出したが、会社はかたくなに介入しようとはしなかった。捜査当局が動くまで被害は続き、体調を崩して休職する局長も出た。

 「俺ぐらいになると、(日本郵便の)本社がものすごく気を使います」

 統括局長は被害者に、こう言い放った。そして「そのうち、誰が(内部通報した)犯人か情報が入ってくる」とも語った。

 実際、その後の同社の調査で、コンプライアンス担当の常務執行役員が、通報者に関する情報を統括局長に漏らしていたことが分かった。被害者側の弁護士は「事件では、会社が局長会の問題を避け、犯罪行為まで放置する深刻な実態が明らかになった」と話す。

「3本柱」強く要求

 なぜ日本郵便はこんなにも及び腰なのか。

 親会社の日本郵政の大株主は政府で、日本郵政グループは、政権から経営陣の人事などさまざまな面で介入を受ける。全特は参院選の度に自民党公認の組織内候補を党内トップ当選させて政治力を見せつけ、政府、自民党と太いパイプを維持している。その結果、任意団体ながら郵政グループに大きな影響力がある。

 あるグループ会社幹部は「局長会からにらまれれば、面倒なことになる」と漏らす。全特役員を務めた経験のある局長は「会社も政治との交渉で全特を利用し、持ちつ持たれつの面がある」と明かした。

 全特が会社に対し、強く要求してきたのが「3本柱」と呼ばれる仕組みだ。

 それは、局長採用の際、局長会が事前に人選をする▽原則転勤がない▽局長が局舎を所有することができ、会社から賃料を受け取る-の三つだ。

 全特は「地域に密着するため」と強調するが、九州のある郵便局員は「地域との密接な関係を選挙活動に利用したいだけじゃないか」と批判する。「既得権益」と問題視されても、会社は3本柱を容認してきた。

「これまでになく踏み込んだ」指示文書

 日本郵便がカレンダー配布問題で全特会長ら96人の処分を発表した26日、同社は全国の局長に1通の指示文書を出した。

 文書では、職務上の上下関係を背景に、政治活動などを強要すればパワハラに該当すると周知し、有給休暇を取得して政治活動を行う場合は郵便局の運営に支障が出ないよう配慮を求めた。現場では「これまでになく踏み込んだ内容」と受け止められている。

 日本郵政の増田寛也社長は10月末の記者会見で、選挙活動に参加する人物でなければ局長になれない仕組みについて「見直さなければならない」と明言した。東京の局員は「局長会の行き過ぎた活動で、郵政グループの信用が損なわれていると、危機感を持ち始めたのではないか」と話す。

 東京国際大の田尻嗣夫名誉教授(金融論)は「社員がつくる任意団体に、経営が振り回される実態は異常で、企業の統制が取れるはずがない。経営陣は、局長会との向き合い方を全面的に見直すべきだ」と指摘する。

 (宮崎拓朗)

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