耐えて、耐えて、耐えてつかんだ勝利――。サッカー女子の準々決勝で、日本(なでしこジャパン)は2―0でブラジルを下して2大会連続の準決勝進出を決めた。なでしこのいつもの華麗なサッカーではなく、泥臭いサッカーでつかんだ素晴らしい白星だった。
■ブラジルのキーマン、マルタを封じる
ブラジルには2010年まで5年連続でFIFAの女子最優秀選手に輝いたマルタ、そして今大会2ゴールを決めているクリスチアネという卓越したFWがいる。試合開始直後から、ブラジルはこの2人を中心にものすごい攻勢をかけてきた。
自分たちがボールを回すのではなく、相手にボールを回されると、息も上がるし、しんどいもの。しかし、ブラジルペースだった最初の15分間を、集中力を切らさずにしっかりと守りきったことが第一の勝因だったと思う。
マルタは162センチと日本人選手とそれほど変わらない身長だが、素晴らしいテクニックとスピードを持っている。私も現役時代に戦ったことはあるが、ボールをもたれてドリブルをされると、ものすごく速い。
ブラジルのマルタと競り合う阪口(左)=共同
そのブラジルの攻撃のキーマンを、1人ではなく2人、3人で囲いにいき、前を向いたときにスピードを落とさせたことが良かった。
■ブラジルの「個」を上回った日本の「組織」
1人で立ち向かったらやっかいな選手も、みんなで抑えればなんとかなる――。DF陣だけでなく、大儀見(ポツダム)、主将の宮間(岡山湯郷)といった前線の選手も労を惜しまずにボールを追い回し、なでしこらしい「全員守備」という意思統一ができていた。
戦う前からブラジルの「個」と日本の「組織」の勝負といわれていたが、日本の組織が勝ったといえるだろう。
耐えていれば、自分たちの流れをつかめる時間帯がやってくるもの。大儀見の前半27分の先制点は、なでしこが最初に自分たちのペースをつかんだ時間帯に生まれた得点だった。
ブラジル戦の前半、先制ゴールを決める大儀見=共同
■沢の「視野」と大儀見の「努力」が生んだ先制点
FKで沢(INAC神戸)が素早いリスタート。ボールを受けた大儀見が抜け出し、右足でゴールに流し込んだ。
沢の素早い状況判断と視野の広さ。昨年の女子ワールドカップ(W杯)準々決勝ドイツ戦で丸山(大阪高槻、当時は千葉)の決勝ゴールを生んだパスといい、沢はここぞという場面で本当に素晴らしいパスを出して得点に絡んでくる。さすが「百戦錬磨」の大黒柱で、本当に頼りになる。
相手GKと1対1になって、ゴール右に決めた大儀見のシュートも簡単そうに見えて、それほど易しいものではない。GKの動きをよく見て、冷静に、うまく流し込んだ。
大儀見は本当に真面目で、1人で何本も何本も自分が納得するまでシュート練習を重ねる選手。こうした努力が五輪という大舞台での初ゴールを生んだのではないか。
■落ち着いていたなでしこ
ブラジルを突き放した後半27分の大野(INAC神戸)のゴールも、パスを受けてから慌てずに1回キープしてから冷静に右足でゴールにたたきこんだ。
振り返ってみると、ブラジルの選手は熱くなっていたが、なでしこの選手たちは終始落ち着いていた。大舞台に舞い上がらず、冷静にプレーできたことも勝因の一つだろう。
この落ち着きは国民性の違いという面もあるかもしれないが、昨年の女子W杯で優勝した自信が生んでいるものだと思う。
準々決勝で披露したのは、最近のなでしこの象徴にもなっている流れるようなパス回しによる華麗なサッカーではなかった。だが、こうした耐える戦い方もできることを示したと思う。
■今後、勝ち抜くためには…
そして、この日のブラジル戦の戦い方は、かつてのなでしこの戦い方――「原点」に立ち戻ったサッカーということができるのではないか。気持ちがよく表れていたし、こうした戦い方こそが、今後、勝ち抜いていく上で重要なのだと思う。
準決勝の相手はフランスで、五輪直前の7月19日に行った親善試合では0―2で完敗している。ただ、そのときはなでしこの選手たちは疲労のピークにあり、五輪ではコンディションも違うはず。選手たちも、この前の敗戦の借りを返したいと思っているだろう。
親善試合で見せたように、フランスもパスをつなぐ素晴らしいサッカーをしてくる。なでしこがボールを保持できる時間も限られるかもしれない。だが、しっかりと我慢して、チャンスを確実に生かし、日本女子サッカー初のメダルを獲得してほしい。
いけだ(旧姓磯崎=いそざき)・ひろみ 1975年生まれ、埼玉県出身。本庄第一高卒業後、田崎ペルーレに入団。主にディフェンダーとして活躍し、なでしこリーグではベストイレブン9回、敢闘賞2回。2004年アテネ五輪ではゲームキャプテン、08年北京五輪では主将としてチームを牽引した。
■ブラジルのキーマン、マルタを封じる
ブラジルには2010年まで5年連続でFIFAの女子最優秀選手に輝いたマルタ、そして今大会2ゴールを決めているクリスチアネという卓越したFWがいる。試合開始直後から、ブラジルはこの2人を中心にものすごい攻勢をかけてきた。
自分たちがボールを回すのではなく、相手にボールを回されると、息も上がるし、しんどいもの。しかし、ブラジルペースだった最初の15分間を、集中力を切らさずにしっかりと守りきったことが第一の勝因だったと思う。
マルタは162センチと日本人選手とそれほど変わらない身長だが、素晴らしいテクニックとスピードを持っている。私も現役時代に戦ったことはあるが、ボールをもたれてドリブルをされると、ものすごく速い。
ブラジルのマルタと競り合う阪口(左)=共同
そのブラジルの攻撃のキーマンを、1人ではなく2人、3人で囲いにいき、前を向いたときにスピードを落とさせたことが良かった。
■ブラジルの「個」を上回った日本の「組織」
1人で立ち向かったらやっかいな選手も、みんなで抑えればなんとかなる――。DF陣だけでなく、大儀見(ポツダム)、主将の宮間(岡山湯郷)といった前線の選手も労を惜しまずにボールを追い回し、なでしこらしい「全員守備」という意思統一ができていた。
戦う前からブラジルの「個」と日本の「組織」の勝負といわれていたが、日本の組織が勝ったといえるだろう。
耐えていれば、自分たちの流れをつかめる時間帯がやってくるもの。大儀見の前半27分の先制点は、なでしこが最初に自分たちのペースをつかんだ時間帯に生まれた得点だった。
ブラジル戦の前半、先制ゴールを決める大儀見=共同
■沢の「視野」と大儀見の「努力」が生んだ先制点
FKで沢(INAC神戸)が素早いリスタート。ボールを受けた大儀見が抜け出し、右足でゴールに流し込んだ。
沢の素早い状況判断と視野の広さ。昨年の女子ワールドカップ(W杯)準々決勝ドイツ戦で丸山(大阪高槻、当時は千葉)の決勝ゴールを生んだパスといい、沢はここぞという場面で本当に素晴らしいパスを出して得点に絡んでくる。さすが「百戦錬磨」の大黒柱で、本当に頼りになる。
相手GKと1対1になって、ゴール右に決めた大儀見のシュートも簡単そうに見えて、それほど易しいものではない。GKの動きをよく見て、冷静に、うまく流し込んだ。
大儀見は本当に真面目で、1人で何本も何本も自分が納得するまでシュート練習を重ねる選手。こうした努力が五輪という大舞台での初ゴールを生んだのではないか。
■落ち着いていたなでしこ
ブラジルを突き放した後半27分の大野(INAC神戸)のゴールも、パスを受けてから慌てずに1回キープしてから冷静に右足でゴールにたたきこんだ。
振り返ってみると、ブラジルの選手は熱くなっていたが、なでしこの選手たちは終始落ち着いていた。大舞台に舞い上がらず、冷静にプレーできたことも勝因の一つだろう。
この落ち着きは国民性の違いという面もあるかもしれないが、昨年の女子W杯で優勝した自信が生んでいるものだと思う。
準々決勝で披露したのは、最近のなでしこの象徴にもなっている流れるようなパス回しによる華麗なサッカーではなかった。だが、こうした耐える戦い方もできることを示したと思う。
■今後、勝ち抜くためには…
そして、この日のブラジル戦の戦い方は、かつてのなでしこの戦い方――「原点」に立ち戻ったサッカーということができるのではないか。気持ちがよく表れていたし、こうした戦い方こそが、今後、勝ち抜いていく上で重要なのだと思う。
準決勝の相手はフランスで、五輪直前の7月19日に行った親善試合では0―2で完敗している。ただ、そのときはなでしこの選手たちは疲労のピークにあり、五輪ではコンディションも違うはず。選手たちも、この前の敗戦の借りを返したいと思っているだろう。
親善試合で見せたように、フランスもパスをつなぐ素晴らしいサッカーをしてくる。なでしこがボールを保持できる時間も限られるかもしれない。だが、しっかりと我慢して、チャンスを確実に生かし、日本女子サッカー初のメダルを獲得してほしい。
いけだ(旧姓磯崎=いそざき)・ひろみ 1975年生まれ、埼玉県出身。本庄第一高卒業後、田崎ペルーレに入団。主にディフェンダーとして活躍し、なでしこリーグではベストイレブン9回、敢闘賞2回。2004年アテネ五輪ではゲームキャプテン、08年北京五輪では主将としてチームを牽引した。