妄念の凡夫

日々是称名

近所の訃報

2014-02-25 23:57:20 | 日記・エッセイ・コラム
「Mさんのね、奥さん。お亡くなりなったんです」
 隣のDさんから夜に電話。故ハナちゃん(ラブラドル・レトリバー)のいたお宅である。そのまた一軒右隣が、Mさんち。
「え! ご主人と一緒に雪かきされてたじゃないですか?」
「それは、上のお嬢さん。もう二十歳でお母さんとよく似てたから。乳ガンだって。7年ぐらい前から闘病されてたんだって。日曜の朝に病院からご遺体が戻ったらしいの。Gさんが香典もっていったら、ご主人、受け取らなかったって。葬式も内々で済ませたいんだって」
「そうですか。ご主人の気持ちもわかります。じゃあ、これからも普通にご挨拶させていただきます」

……私より年齢下じゃないのかなあ。正直、表情が冷たそうで、ちょっと苦手な奥さんだった。私が勝手にそう思っていただけだけど。3年前くらいの夏に夕涼みでスイカをお呼ばれしたとき、意外と喋る人なんだと思ったくらい。なぜか2人のお嬢さんたちは私に愛想がよくて、イヌと散歩していると向こうから「おはよございまーす」と声をかけてくれた。ご主人は酒好きなのか、いつもタクシーで帰ってきて文字通りへべれけの千鳥足だった。
 そんなMさん宅から突然、一人いなくなった。ほんの数メートルしか離れていないお宅なのに、なぜかすごく遠く感じる。そういえば、昨年の秋は左一軒隣のYさんが、高校生の娘さんとおばあちゃんを残し肝臓ガンで他界した。働き盛りだったのに。
 しかし、私はすごく鈍感だ。なんの驚きも立たない。目下のところ、「明日の朝、何食べようか」と思っている。


『科学するブッダ 犀の角たち』(佐々木閑・角川ソフィア文庫)

2014-02-23 23:32:10 | 仏教
 碩学・佐々木先生によるエッセイ。きわめて大雑把にいえば「寺(たぶん浄土真宗)に生まれた科学好き少年が、いかにして仏教学者になりしか」という感じか。
 前半は科学読み物で、物理学、進化論、数学を題材にしている。他の分野についての造詣も深いのだろうが、博学である。物理学の光についてのところが、よくわからなかった。
 後半は仏教学概論のような感じ。インドに対する憧れからドイツ等のヨーロッパで実証的仏教学が花開いたというのは、興味深かった。
 前半と後半は一見関係のないように思えるが、一貫している。それは「神の視点の排除」ということだ。
 この世の現象を説明するのに、ヨーロッパ世界ではまず絶対的な神の存在があった。デカルトの二元論は神の証明のための論理であり、パスカルやニュートンをはじめとする近代科学の祖たちは、世界の法則はすべて神の思し召しであることを裏づけるために理論を構築したのである。「このような美しい世界は、神がつくりたもうたとしか思えない」という考え方である。その(サムシング・グレートのような)考え方を大まじめに語る科学者はトンデモ扱いされてはいても未だにいるし、最先端の科学では、NHKスペシャルであったように美しい「神の数式」(ヒッグス粒子が関係しているらしいが)の証明にしのぎを削ってきた。
 西洋哲学にしても然りで、20世紀に至っても「神」抜きには語れない学問だった。自分の生き方を問題とする実存哲学でさえ、神との対峙をもっとも重要視してきたのである。私は、学生時代にちょっと囓った程度だが、そのような神ありきの向こうの学問に面食らったまま、キリスト教が歴史的に強すぎるからしょうがないのかなあ、と悶々としていた。
 そんなモヤモヤにたいして、「あーやっぱりそうだったんだ」と思わせてくれる良書である。
 「神の視点」を人間に移すのが、科学の歴史だった。その態度そのものが仏教である、と著者はいう。私も同感である。


↓「閑」は「しずか」と読むそうです。のび太くんの彼女みたいですが、おじさんのようです。

科学するブッダ  犀の角たち (角川ソフィア文庫)科学するブッダ 犀の角たち (角川ソフィア文庫)
価格:¥ 840(税込)
発売日:2013-10-25



『板極道』(棟方志功・中公文庫)

2014-02-12 00:37:17 | 本と雑誌
 富山では大きないただきものを致しました。それは「南無阿弥陀仏」でありました。衣食住でも、でしたが、それよりもさらに大きないただきものであったのです。



 テレビの「開運!なんでも鑑定団」でこの一節が紹介されたのを強烈に記憶していて、いざ買って読んだのだが、ここに引用したこと以上に、どのように念仏を喜んだのか具体的な記述がない(帝展に入選した時の喜び様と比べて)。がっかりした。
 自慢話の回想録である。
 途中で読むのを止めた。
 志功さんの版画は好きだけど。ただの有難屋さんじゃなかったのかなあ。


↓かの曉烏敏さんは、目が見えなくなっていたのに「棟方君、霊動がくるよ、よい絵は生きているよ」と褒めたらしい。棟方さん自身、「どうしてあの方はこれらの品を見るのだろう、心眼かな、触見かなと不思議でたまりませんでした」と書いている。晩年になっても怪人(変な人)だったのだろう。

板極道 (中公文庫)板極道 (中公文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:1976-01-10



アンナ・カレーニナ(DVD)

2014-02-09 01:30:18 | 映画
 外は大雪。ということで、DVD鑑賞。
 トルストイの名作ということは知っていたが、本で読んだことはない。
 絢爛豪華な貴族社会のなかで主人公の女性が苦悩する様なのだろう、と思っていたらほぼその通りだった。
 だが、それ以上の感慨はない。出演俳優がみな美人とイケメンでカッコいいのだが、なんか軽いんだよね。
 舞台的な演出をCGのごとく織り交ぜるギミックは一見しゃれていたが、何回も繰り返されるとしつこかった。実写ばっかりのほうがよかったのではないかと思う。

↓ジュード・ロウみたいな風貌になれたらなあ(憧れ)。

アンナ・カレーニナ [DVD]アンナ・カレーニナ [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2013-09-07



体力・気力・知力の衰え、愚痴力の盛り

2014-02-04 00:15:22 | 日記・エッセイ・コラム
 今日は、ライターさんとの打ち合わせ。資料からタイアップ記事を起こしてもらう、お互い楽なお仕事の依頼。
 一通り説明したあと、「次に行かれるところはどんな仕事ですか?」と訊ねると、
「いや、直接の仕事じゃなくて、美容関係の先生から勉強会に呼ばれてるんで」
「熱心ですね」
「この仕事をしていると、出版社からいろいろと『いいネタない?』とか『この企画に合いそうな人物知りません?』とか聞かれるでしょう。仕入れられるときに情報を入れとかないと、出してばっかりだと空っぽになっちゃう」
「流石、フリーライターの鏡ですねえ」
「でも、さすがに体力的にキツイわねえ。せっかく仕入れても稼ぎにつなげるまでアップアップで……。いまが35歳ぐらいだったら、もっとイケると思うんですけど」
「何を仰いますやら、まだまだお若いじゃないですか」
…………

 このライターさんはまだ40代前半。われわれのような家庭実用ネタだけでなく、女性誌などからも依頼を受けていてけっこう忙しい方だ。正月は一日も休めなかったという。そんな颯爽とした人でもアラフォーの悲哀をひしひしと感じていらっしゃる。
 50代最初の年があっという間に終わろうとしている私も、彼女以上に体力・気力・知力がメッキリ衰えていることを否定できない。昔なら月100時間以上の残業なんか平気だったのに、いまでは定時になったら残っている仕事をほっぽり出しても帰ってしまう。新しい媒体を立ち上げようなんていう気力・知力もなくなった。そもそも野望すらない。
 そのくせ、会社上層部への愚痴は次から次へと出てくる。
「ほんとにやることなすことダメなんですよ」
「いまの社長、経営センスなさ過ぎて」
「部数を拡大しようとせずに自分から絞ったら、取次から追加で大幅に削られたしね」
…………
「そうですか (~_~;) そうだ、ほろひれさん。話題を変えて明るい話しましょ。なんかいいことなかったんですか、最近は?」
「あっ、失礼。ついつい愚痴に加速がかかってましたね。姪っ子が大学に受かったんですよ」
「よかったじゃないですか」
……流石、できたライターさんだな。と思った次第。