妄念の凡夫

日々是称名

『バウッダ[佛教]』(中村元、三枝充悳)より

2013-10-15 01:15:46 | 仏教
 ちびちびとゆっくりページをめくりながら、なんとか目を通せた。第4部の中村元先生の担当されたところについては、正直よくわからなかった。でも、わからなくてもいいような気がする。
 佛教が起こって現在までの約2500年を俯瞰して解説する試みの本で、コンパクトにまとめられている。日本の伝統的な宗門が(故意にか不作為にか)避けていた「実証的な仏教史」の入門書といえる。
 本来は、称名念仏ひとつでいいのだが、念仏を唱えているから、このような著作に向き合えるのである(逆説的ではあるが)。
 いちばん分量が割かれている「第3部 大乗経典=諸仏・諸菩薩の教え」の最後から、三枝先生の強烈なメッセージを引用して忘備録としたい。


 大乗仏教が「空」を説く「般若経」にスタートした当時、そこには断固たる否定の精神がみなぎり、それが根強く反復されたことは、本書のその個所にも述べた。したがって、たとえば大乗仏教の推進力のひとつに「他者の発見」という私見を示したが,この場合にも、日常の世俗における人間の本性に基づいて、たとえば生活を共にする他者などの,すぐ傍らにいる他者をそのまま指しているのではない。もしそうであれば、それはいわば人間の自然の感情であり、世俗の当然の感性の延長にすぎず、仏教が宗教として機能する場はまったく存在しない。大乗仏教における「他」は,あくまで否定的契機を媒介としており、換言すれば「自」と「他」とが矛盾し合う相反を内蔵していて,それを常に意識しつつ、「自」もまた「他」においては「他」であることの了解に達したうえでの「他者の発見」にほかならない。利他はそこに活きる。いずれにせよ、否定、矛盾、超越といった宗教の生命とされる契機が、「般若経」からナーガールジュナ(龍樹)に至る「空」を裏づけている。





 それにもかかわらず、中期大乗で進められた内在化の歩みは、釈尊以来なんらかの形で一貫していた明確な否定の本質を、仏教者の減少や時代の要請などとともに、世俗との妥協に蝕まれてしだいに希薄化し、やがて喪失するという、一種の危機に瀕する。そのような状況のもとで、大乗文化もしくはその大半は、外部は絢爛たる相を呈し、ごく少数のエリートたちには反映されても、もしその内部が空洞化したならば、それらは「蜃気楼」(これを仏典はしばしば「ガンダルヴァ城」と称する)に堕する危惧がきわめて濃い。そのような、外見の装いとは裏腹に、内面はうつろと化し、それまでの惰性に流れて、安逸に馴れきった大乗文化の大半は、本来の「バウッダ(佛教、正確にはバウッダ・ダルマ)」とはもちろん、大乗文化そのものからも遠く遊離して、虚栄の文化とその所産とにみずから酔いしれる。これらの醜態は、大乗文化の栄えたインドだけではなく、中国、朝鮮半島、日本、チベットなどの各所に、過去にそして現在にも、少なからず露呈している。だが、それらは、当然のことながら、到底容認されるべきではあるまい。





 再三強調したように、大乗文化は、あくまで大乗仏教徒その思想とを中核にするからには、その大乗仏教徒はいかなるものであり、またかつてどのようにあったかに関して、深い自覚と反省とが、つねに随伴しなければならぬ。そして、それに基づいてはじめて、その大乗仏教にかかわる人々すべてが、その現状はいかにあり、さらにいかにあるべきかを、深刻に絶えず受け止めて対応し得る。こうして大乗仏教は蘇生を遂げ、その結果生気をみなぎらせ、活力にあふれて躍動する場を開拓しよう(この例は、歴史上に数多く見られる)。さらに、そのような本原を恢復した大乗仏教に導かれて、大乗文化そのものが、多種多彩なエネルギーを発揮することも可能となろう。ただし、再び念を押していえば、大乗仏教も、大乗文化も、世俗そのままの単なる肯定はあくまでも拒否し続けるという確固たる態度が必ず要請される。





 とりわけ、日本の社会に関していえば、そこには、古代から現代まで、安易で軽薄な世俗主義が強い底流をなしている。しかしながら、そのような中にあっても、元来は「バウッダ(佛教)」に、そして直接的には大乗仏教に基盤を置いた大乗文化は、この種の俗悪な世俗主義をどこまでも排除すべきであろう。そこでは、一時的な保身や利得や売名や権勢に目がくらんで、時々刻々に浮動するままの世俗に媚びつつそれに迎合し、さらにはいわゆる世の流行に浮き身をやつし、ときにそれに便乗したり、促進したり、悪用したりする一種の道化役へと、無自覚・無節操・無責任に頽落することの絶無であるよう、みずからを深く戒め、また佛教に関連するすべての人々に念願してやまない。



↓なんまんだぶ


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