今だから…昭和さ ある男のぼやき

主に昭和の流行歌のことについてぼやくブログです。時折映画/書籍にも触れます。

LP(SKA-136) 長い夜のひとりごと[江利チエミ]

2006-03-18 14:12:12 | 江利チエミ

このアルバムは1976年にキングレコードから発売されたものである。
内容はというと、自身の持ち歌とカバー曲、当時ではよくあるアルバム形式である。
だからといって軽視は出来ない。こういうカバー曲で歌手の新たな一面や巧さを改めて確認できる場合があるからだ(もちろん、これは…というものも中にはあるが)。

さて、このアルバム「長い夜のひとりごと」はどうであるか。
何と言えばいいのだろうか…自身の経験を唄に突っ込んだ感じがするのだ。
江利チエミと言えば、
ポリープ手術→謎の自宅全焼→離婚→義姉による巨額横領事件→急死
という後半生の不幸のデパート振りがあまりに有名であるが、そのあまりに酷すぎる試練の苦労を唄にうま~く利用している(本人が無意識のうちに、自然に)感がある。
江利チエミの晩年そのもの、と言われるヒット曲「酒場にて」なんて、言わずもがな、だ。
これはチエミとは切っても切れない美空ひばりだとさらに顕著になり、また意図的になる。彼女もやがて自然な形になっていくが…。
顕著 かつ 意図的な例)
芸道一代、この道を行く、雑草の唄

※当時の江利チエミの私生活はどうであったか…愛人がいたらしく、あの唄の状況ほど悲惨な状態ではなかったらしい。イメージ通りではない模様。

良くも悪くも、芸の道を進む者ならば、そのぐらいはやるぐらいでなければプロではない気がする。転んでも只では起きない、くらいの心境でなければ芸能界は生きていけない、そんな気がする。因果な商売でもあるが、素晴らしい商売である。

曲目 及び 解説

A-1 アカシヤの雨が止む時
作詞:水木かおる 作曲:藤原秀行 編曲:筒井広志

編曲が良い。この筒井広志と江利チエミの相性は抜群によく、彼が関わったチエミ作品は外れはない。江利チエミの魅力を引き出すことにかけては、山屋清と争う実力があると私は思っている。
この時期の江利チエミがこの唄を唄う、聴くものには当然、一連の騒動が頭によぎる。ともすれば悲惨さばかりが強調される状態。
それを、どん底の中に一筋の光が射す、ように聴かせるのは編曲者・筒井広志の腕も大いにあると思われる。そして、それに見事に答えた江利チエミ。
チエミ=筒井 コンビの鮮やかな勝利である。
曲は言わずと知れた西田佐知子、最大のヒット曲であり、60年安保の鎮魂歌とも評される名曲である。

A-2 爪
作詞・作曲:平岡精二 編曲:高田 弘

ジャズ風味たっぷりのペギー葉山のヒット曲である。
元来デビューはジャズ畑であるチエミが満を持して、この曲に取り組んだ感がある。
編曲者の高田弘は70年代新御三家や桜田淳子の曲の編曲が有名。
チエミの相性は「酒場にて」にて実証済み。決して悪くはない
期待を裏切らないジャジーな編曲を施し、江利チエミの歌唱に花を添えている。
チエミの歌唱は、年輪を感じさせる素晴らしいもので、長年の持ち歌のようにも聞こえる。

A-3 ベッドで煙草を吸わないで
作詞:岩谷時子 作曲:いずみたく 編曲:葵まさひこ
とにかく悲壮感漂う1曲。大人の女の悲劇の匂いが漂う。
これは当時の世間一般の江利チエミのイメージまんま…。
もう少しひねった編曲を欲しかった…。
これはジャズ歌手だった沢たまきのヒット曲。

A-4 さよならはあなたから
作詞:木下龍太郎 作曲:吉田矢健治 編曲:葵まさひこ

江利チエミ自身が気に入っていたと思われる1曲。
もとは昭和45年のB面シングル。それを吹き込みなおし、このアルバムと同時発売の「ひとり泣く夜のワルツ」のB面として再び世に送り出した。
オリジナルに比べると唄いこまれた味が出ています。
ただ高音等は苦しい…。しかしそれもまた味ととらえることも十分可能。
チエミのプロフェッショナルぶりが伺える。

A-5 知りすぎたのね
作詞・作曲:なかにし礼 編曲:高田弘

ラテン系ムード歌謡グループ、ロス・インディオスのヒット曲。
これを聴いて、当時を知る一般人で高倉健をイメージできないはいないと思われる。
まさにこのLPのタイトル「長い夜のひとりごと」にピッタリな1曲である。
チエミの歌唱も、これでもかと言わんばかりに悲壮感たっぷりである。
枯れた高音がまたその悲壮感に輪をかける。高田弘も容赦なくマイナーなアレンジに仕上げる。これを聴いてもらい泣きする人は多かったんじゃないか…勝手にそう思う。おそらくこれ以上悲惨な「知りすぎたのね」は出ていないだろう。そう考えていくと名唱である。

A-6 誰もいない
作詞:なかにし礼  作曲:大六和元 編曲:高田弘

菅原洋一さんのヒット曲。この曲で彼は68年度レコード大賞歌唱賞を受賞。
「知りすぎたのね」とほぼ同じ感想。

B-1 ひとり酒場で
作詞:吉川静夫 作曲:猪俣公章 編曲:筒井広志

筒井広志は本当に江利チエミをわかってくれている。
チエミ艶歌というジャンルをキッチリ作ってくれた一人だと思う。
題材が題材ゆえ、とんでもないことになるかと覚悟して聞けば…実に聴きやすいチエミ艶歌に仕上がって一安心。
森進一さんの初期のヒット曲。

B-2 女の意地
作詞・作曲:鈴木道明 編曲:筒井広志

もともと曲が演歌調なので、どう仕上げるかと不安だったが…。
江利チエミ×筒井広志に敵はなかった。西田佐知子とはまた違う、チエミ流女の意地が出来上がってます。
この江利チエミ×筒井広志の組み合わせだけで、このアルバムを作ったらもっと良いアルバムになったのでは…ふと思った。

B-3 優しくだまして
作詞:矢野 亮 作曲:吉田矢健治 編曲:葵まさひこ

チエミファンが安心して聴ける1曲、なかなかの佳作。
江利チエミ本人もお気に入りだった…と山口洋子が著書の中で触れている。

B-4 ひとり泣く夜のワルツ
作詞:矢野 亮 作曲:吉田矢健治 編曲:森岡賢一郎

オリジナルは昭和42年発売。そこそこの中ヒット曲。
これで3度目の吹き込みである。
このアルバムと同時にシングル発売した1曲(B面=さよならはあなたから)
今度こそ大ヒットを…と思ったのであろうが、残念ながら小ヒットに終わった。
3テイクある中では、編曲も含め一番の出来である。
特にオリジナルはアレンジが悪い。チエミサイドの迷走が手にとって分かる。
とてもじゃないが「売る気」の編曲ではない。
現行のベスト盤にはぜひとも完成度の高いこちらのテイクを入れて欲しい。

B-5 夜のカウンター
作詞:山上路夫 作曲:鈴木邦彦 編曲:高田 弘

「酒場にて」のヒットに気を良くしたキングが二匹目の泥鰌を狙った…と思われる曲。
こういう場合、コケルのが普通ですが、この曲も例外ではなかった。
しかし、曲自体はなかなかの出来であり、本来のチエミファンも「酒場にて」でついた新たなファンも納得させられる曲のように思う。
♪君は男で苦労する性質だと 街の易者も言ってた
…このフレーズが耳について離れない。

B-6 酒場にて
作詞:山上路夫 作曲:鈴木邦彦 編曲:高田 弘

江利チエミ晩年のヒット曲。この曲無しでは借金返済はさらに時間がかかったと思われる、またチエミ晩年のイメージソングでもある。
この曲は江利チエミの芸の全てを突っ込んだ唄である。スキャンダルにまみれたイメージからジャズで培ったリズム感まで、持てる力をすべて出し切った素晴らしい歌唱である。これは江利チエミ以外の歌手には到底歌いこなせない曲なのである。どんな歌手がいくら頑張って歌ってもダメ。この曲には江利チエミの人生がどっぷり漬かったものであるから・・・。
なお、今も戦友・雪村いづみが悲しい酒と交互に歌う方式でこの曲を歌っていることを付記しておく。



※なお江利チエミの後半生の事件について詳しく知りたい方は、江利チエミファンのひとりごとまでどうぞ。