吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

釜谷陶房の空

2005年05月15日 10時56分59秒 | Weblog
三十八度線から十キロほど手前、楊州郡、長興面、釜谷里の低い丘陵と雑木林に囲まれた広大な敷地に釜谷陶房がある。
 二十五年前の深秋の季節だった。
 ソウルから北へタクシーで約四十分かかるが途中、閔山(ムンサン)街道の分岐点で銃を肩にした兵士にストップをかけられた。ちなみに閔とは寂しい意味、李氏朝鮮王朝の昔、ここらあたりは辺鄙な土地だったのだろう。
 兵士は下手な韓国語をいぶかったが行く先を釜谷陶房の申相浩氏(シンサンホゥ)と告げると、カメラをちらっと見て顎をしゃくった。
 北との軍事緊張が極度に高まった最中で、十数年前には三十八度線に横穴を掘って韓国正規軍にばけた北朝鮮軍がソウル市内の大統領官邸近くまで侵入し、警察署長が殉職した事件も起きた。
 街道の途中、道路をまたいで高さ四米、鉄筋コンクリートの厚さ、三米ほどの橋梁に似た小トンネルがあり、同行した友人の韓君が…北が戦車で侵入したら、壁のボタンひとつで鉄筋コンクリートが瞬時に落下、道路を塞いで戦車の侵入を防ぐのだと言う。
 窯場近くの低い丘陵に迷彩服の兵士が塹壕からずらりと顔をのぞかせていたし、窯場の入り口には部隊名が書かれた営舎もあった。すべて予備役の部隊と言う。
 前夜、たまさか十一時に目覚め、市長舎前の広場を眺めていたら、十二時丁度、あっという間に車も人々の姿も消え、道路のかしこにバリケードがはられ戒厳令の夜間通行禁止が実施されたのだった。勿論毎日がそうなっていた。
 静かに立ち上ぼる窯場の煙のかなた、真っ青の秋空がひろがっていた。
 青よりも黝(くろ)ずんだ濃い青、高度一万米上空でみられる碧空の青、私は空に吸い込まれそうになり、真紅の紅葉がくるくる回って感動の涙が零れた。
 この窯主の申相浩は三島(韓国では粉青プンチョン)博士と言われ、李氏朝鮮王朝の粉青再現では韓国第一の作家だった。
 遠くで韓国鴉の鳴き声がするだけで静寂そのものの工房では十数人の女子工員がカンナで器物の表面を削っていた。
 昨年の秋、百五十一回目の訪韓の時、この街道を通ったら、戦車防御のコンクリート壁は雨漏りで汚れ、ボタンは朽ちはて、横穴塹壕や兵舎の跡形もなく雑草に覆われていた。 周辺の土地の値段は軍事緊張が高まると下落するが、今では街道のかしこに遊園地やキャンプ場、西洋風なレストラン、韓式食堂がたちならび、藁葺き農家は煉瓦の建物と変わった。
 しかしかっての農村風景のひとつである、小屋がけした果物売り場には年老いたハルモニーがのんびり立て膝をかかえて道行く人々を眺めている。

お御興ワッシヨイ

2005年05月15日 09時04分08秒 | Weblog
 友人の文化財委員、A氏といっぱいやったあと、タクシーがなかなかつかまらず、数十台も見送ってやっとコールタクシーが見えたら、A氏がワソ、ワッソと独り言を呟いた。 来た、来た!と言う意味だ。
 すると日本の祭りでお御輿を担いだ若者逹がワッショイ、ワッショイと掛け声だすのも、御輿、つまり神様が来た!来た!と言ってるのだろう。
 重いものを持ち上げる時、セーノ!と声をそろえるのも韓国語のセッ、ネッ!つまり三、四である。
 またハナ!から縁起がいいや!のハナは韓国語の第一、最初の意味である。
 バジ(袴)はいなせな若者のパッチ、東北弁の、んだ!の、だ、は…韓国語の~ですの意味、そして今はなくなったが人力車夫の…アラッ!ヨッ!の返事も…へぇい分かりやした…の韓国語のアラスミダからきている。
 さがせばきりがない。
 デョは…ですよの意味だが~そうでよ。ポルダは儲けるで、ぼったくられるはよく耳にする。チョンガー(総角)は独身男。チッコ、パァクは子供達のギッコバタンだし、蛙のケェコルは中国地方のキァアル。土佐の田舎でテゴ(竹篭)は韓国語のテェゴからきてるのだろう。九州方言の~だタイ(~だよ)も韓国語のタイからきている。東京の奥多摩に住んだことがあるが~そうだけんね…は韓国語ではやはりケンネである。
 言葉の浸透は韓国に近い、中国、九州に多いとおもうが、東北弁にはなぜか濁音が多い。 行く…ゆぐ…岩手…いわで…幹…ミギ…北…きだなどなど、なぜそうなったか分からない。
 たまげるは古韓国語のタマカルが語源と思うがそんな共通語を探がせばきりがない。奈良時代にやってきた、百濟や新羅、あるいは高句麗人の言葉がそのままとけこんだに違いない。
 A氏はかなり日本語をつかいこなすがやはり、語頭の濁音は清音でしか発音できない。 好きなビールはピール、学校はカッコウ、そしてカ行、タ行が語中では濁音になる。九九、八十一はクグとなり、手紙はテカミとなる。
 はじめて日本へ北、A氏は新幹線車中で隣の人に…どこからですか?と訊かれ、
「韓国からです」と言ったつもりがカンゴクからです…になり、隣の人は監獄を出所した人と勘違いして黙ってしまったそうである。
 ワッソ、ワッソから十数分後、酒豪のA氏がふたたび酒…さげと言ったので私達は明洞にくりこんで酒盛りをした。