吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

金浦空港

2005年05月23日 15時18分57秒 | Weblog
 今は世界的規模を誇る仁川国際空港ができて国際便の主力は移転したが昨年の秋、初めて私は新空港へ飛んだ。
 しかし二十数年間、毎月訪れた金浦空港はいまも懐かしい。
 ソウルまで五十分ほどで到着する便利さや、漢江沿いに走る車の洪水とまわりの景色はいつ見ても新しい感動がわき、好きな韓国の民俗、建物が心を慰めてくれる。
 もし私が韓国人でここに暮らしたとしたらと想像しただけで胸が熱くなった。
 空港内に文化財審査室がある。
 いかめしい名の通り、密輸される文化財をなくするために設けられた部門で、審査室長のU氏は諧謔性の豊富な好人物で、委員のA氏の紹介でなにかがあった時、訪ねたらと言われていた。
 現代粉青Noワンの作家、Y氏の作品をボストンに忍ばせて帰国の手続きしてると、税関の係に、審査室で証明書をもらってください、といわれ、挨拶すると、書類に判を押して…適当に書いてください…文化財専門委員のA氏の紹介ではコーヒーでもどうぞ…とのんびりした口調で部屋に案内された。
「私の趣味はこれヨ…」
 彼は得意満面の表情で横軸をテーブルに広げて言った。
 山水の水墨画で、よく見ると、苫屋のわきに仙人のような人物が酒徳利を腰にしている。
 更に縦軸を広げると、そこにも仙人らしき人物が徳利を下げている…この士(ソンビ…両班)はわしヨ!と悪戯っぽい顔をした。
 A氏同様の無類の酒豪らしい。
「この仙人は悟りより凡俗の顔ですね…」と答えたらワッハハハと笑いこけた。
 まさに現代に生きる李朝人である。
 山水の自然に自己を描いて陶酔してるのだ。
『橋上観水図』『渓流仰山水図』にも頬を朱に染めた仙人と腰に酒徳利が描いてある。
「これは儒人散策図ですよ」と私が批評すると、
「カムサニダ!」と答えにっこりした。
 ボボワールが中国人は演技者だ…と言ったがそれ以上に韓国人は諧謔的演技の名人と思った。

田舎家

2005年05月23日 09時52分24秒 | Weblog
 ある日、友人のK氏と一緒に南大門近くの田舎家と書かれた料理店へ入った。
 最近まであった韓国南部地方の中流農家の雰囲気を持った店で鉋で削った燻んだ柱がどっしりした落ち着きをみせている。入り口に大きい水車がまわり、入るとすぐプルトェチ(豚の丸焼)の香ばしい匂いがした。でてきた料理の品数に驚いた。
 小皿、中皿、併せて、二十七種類もある。色とりどりと言うが、まさに赤、黒、白、黄、青、いわゆる五葷彩のすべてがそろっている。
 宮廷料理のニッキ菓子などもそえられている。これが数人のアガシで運ばれ…大きい膳の足がおれそうだ…と昔から言われる譬えの通り、見ただけで腹がふくれそうだ。モチ米御飯(チァルパップ)小豆飯(パッバップ)キムチ、きゅうりキムチ(オイソパギ)白菜の葉でくるんだポッサンキムチ、野菜の味付(ナムル)蕨、ほうれんそう(コサリシグム)肉、白身魚、貝、かぼちゃ、えびなどをお好み焼にした(チョニュファ)鶏の味付(タックチム)照焼魚(クイ)酢大根(チェナムル)味噌ニンニクやトラジや干し鱈の佃煮風、アワビに銀杏添え、冷麺、唐辛子味噌(コチュジャン)の入れ物は象嵌青磁忍冬文皿で唐辛子好きな私はそれを見ただけで超食欲となる。そのほか牛肝臓の野菜を味噌で煮込んだ(ヘジャンクック)やきもの鍋、茎と蕨の炒め物、蟹の唐辛子味噌漬(ケジャン)ワカメの酢の物、トラジキムチ、えびとウニの炒め物、などなど、野菜や小魚、えび、蟹、牛肉などのすべてを料理した数々が皿の置き場もないくらい膳にならんでいるのだ。
 朝鮮王朝時代に平行して江戸の農村の食事は粗末そのものだった。 儒教の始祖、孔子はあらゆる食を楽しんだと、本で読んだが儒教祭祀に欠かせぬ供物として食文化が発達したのか、韓国は食文化の伝統が今も生きずいている。
 利川の窯場の裏の藁葺き農家に賄い老夫婦が住んでいて、訪問するたびの昼食は、八品から十品はいつでもそろえてくれるし、キムチは辛味が強いが具を多く使うので素晴らしい味覚となるし、二十本ほどならんだキムチ大甕はなんと染付草花文や青磁の壷で、これは窯主から失敗作をもらい受けたもの、その贅沢さはほかではみられないだろう。